第856話 微妙にのんびり気味ではあったからね

「それじゃあ、またよろしくな!!」

「ああ、また」


 こうして、味覚に自信アリのオッサンが店主を務める店で買い物を終え、その場をあとにした。

 そして、商品の受け渡しのときチラッと確認してあるが……改めて詳しく調べてみても、吸命の首飾りの反応はなかった。

 まあ、あれだけ本物志向って豪語していたオッサンなんだから、当然だろうけどね。

 それにしても、あのオッサンは無意識でやってるんだろうけど……おそらく舌に魔力を込めているのだろうと思う。

 だからこそ、吸命の首飾りの粉末に気付くだけの味覚の鋭さを発揮できたに違いあるまい。

 フフッ、無意識でそれができてしまったあたり……あのオッサンも天才だね。

 そう考えると、あのオッサンこそ冒険者として活動していたら、名の知れた高ランク冒険者になっていたんじゃないかと思う。

 もちろん、才能があるからそれで何もしなくていいというわけではなく、やはり魔力操作や冒険者として活動する上で大事な技術を磨いていく必要もあるだろうけどね。

 また、先ほど立ち寄った街で俺の光属性の魔力に気付いた子供とかもいたし……世の中にはまだ気付かれていないだけで、注意深く見てみると才能を持った人がゴロゴロいるのかもしれないなって気がしてくる。

 ……って! オッサンとの会話に夢中になっていて気付かなかったけど、もう12時じゃないか!!


「こりゃいかん! さっさと待ち合わせ場所に移動せねばならんね!!」


 そんな呟きを漏らしつつ、移動のため早々に村から出ることにした。

 まあ、思わぬ才能との巡り合わせもあったが、それはそれとして今の店のほかに目ぼしい店もなさそうだし、そもそもこの村に立ち寄ったのはオマケみたいなもんだったからね……あまり長居することもなかろうといった感じだ。

 そうして村から出て……


「それじゃあフウジュ君! 待ち合わせ場所までカッ飛ばすから、よろしくねッ!!」


 そう一声かけて、上空へ……


「ハーッハッハッハ! 俺は今! 風になっているぅぅぅぅぅぅッ!!」


 とまあ、ガンガンスピードを上げていってはいるが、かといって周囲の状況を完全に無視しているわけではない。

 なぜなら、ここでもし鳥くんと衝突なんてしてしまったら……ねぇ?

 こっちは魔纏を展開しているのでダメージを追わずに済むが、鳥くんはそういうわけにはいかないだろうからさ……

 そんなわけで、俺なりにその辺については気を配りながらの飛行である。

 まあ、最悪の場合、回復魔法やポーションでどうにかできるとは思うけど……そうはいっても、痛い思いをさせてしまうのもかわいそうだからね。

 それはそうと、ワイズとケインのほうは調査を上手くできたかな?

 まあ、吸命の首飾りの反応を調べるだけなら集合してからでもできるので、とにかくいろんな店でサンプルを入手さえできていれば問題ない。

 そのため、店で調味料を買うっていうだけのことなので、特に失敗するようなことはなかろう。

 ただ、ワイズとケインが進む右回りと左回りのルートは、俺のまっすぐ進むだけでいい中央ルートよりは若干道に迷う可能性があるかもしれないといったところだろうか……

 そんなこんないっているうちに、待ち合わせ場所として予定していた街が見えてきた。


「この爽快な空の旅をもっと楽しみたい気持ちもないではないが……そろそろ減速し始めるとするかね……」


 そうして徐々にスピードを落としていき……


「あれは……ふむ、どうやらワイズは先に着いていたようだな……」


 街の正門と少し離れたところでワイズの姿が見えた。

 まあ、俺も移動そのものはガンガン飛ばしていたとはいえ、店の人と会話をするなどして微妙にのんびり気味ではあったからね、一番最初に到着していないのも納得といったところだ。

 それに、ワイズは領主である親と共に領地の視察なんかもしていたらしいし、馬車からと空からで多少見える風景が違ったとしても、自身の領地で道に迷う可能性もほとんどなかっただろうからね。

 なんてことを思いつつ、街の正門のちょっと手前ぐらいのところで降下する。

 そして地面に着地したところで、ワイズのいるところへ向かった。


「12時には少し遅れてしまったが……どうやらケインもまだのようだな?」

「ええ、そのようです」

「とりあえず、道に迷っているとか、何やらアクシデントが発生した……なんてことはないと思うが……」

「そうですね、ケインの選んだ左回りルートで、今のところ危険なモンスターが棲みついたなんて情報も入っておりませんし……」

「まあ、魔力の消費を緩やかにするため、あまりウインドボードの速度を上げていなかったのかもしれんしな」

「私も、今日はアレス殿のサポートを受けることができないため、その点については細心の注意を払って飛びました」

「そうか、それで俺とケインより早く到着できていたところを見るに……なかなかペース配分が上手くいったようだな?」

「はい、そうかもしれ……おお、あれは……ついにケインも着いたようですね」

「ああ、そうみたいだな」


 ワイズの言うとおり、ここから少し離れた上空からこちらに向かってきているケインの姿が目に入った。

 とりあえず、3人とも無事到着といったところだね。

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