第858話 厳しいときこそ笑顔だ!

「やっぱ、この街も同じ感じっすね……」

「そうなってしまうだろうと思ってはいましたが……やはりでした……」

「まあ、これだけの規模の街だとな……」


 昼食を食べ終え、それぞれが進んだルートにあった街の調査結果を報告し合った俺たちは、ついでにって感じでこの街の調味料も買い集めてみた。

 その結果、この街でも吸命の首飾りの粉末が混入された調味料が売られていた。

 というか、ベイフドゥム商会の支店があるからね……当然だよね……


「でもまっ! こんだけハッキリ結果が出てくれて、むしろよかったんじゃないっすかね? きっと、これからの対処がやりやすくなるってもんですよ!!」

「これからの対処……か、確かにどこもかしこも問題の調味料を扱っていなかっただけマシだったとはいえるかもしれない……」

「うむ……そしてまだ、規模の大きな街だけで留まっている段階ってところもマシなポイントといえるだろうな」


 領内全域となると……ねぇ?

 本当に、このタイミングでよかったと思わずにはいられないって感じだ。


「さって! この街で俺らがやることもだいたい済んだと思いますし……そろそろ移動しますか?」

「おそらく、我々がまだ調べていない街でも同じような状況でしょうし……ここからは直接領都へ向かい、母上に報告しようかと思います」

「ああ、これだけ情報が集まっていればじゅうぶんだろうしな! それがよかろう!!」

「よっしゃ! さらに上達した俺のウインドボードテクを、アレスコーチにお見せしますよ!!」

「それについては私も、この別行動をしていたあいだにいくらか技術が磨かれたという自負があります……というのも、アレス殿に甘えることもできず、自分自身の力でしっかり飛ぶ必要がありましたからね……」

「フッ、そうか……2人の成長ぶりを楽しみに見させてもらおうじゃないか! 特にワイズは、3人の中で一番最初にこの街に到着していたのだったしな! 上達ぶりを楽しみに見させてもらうぞ!!」

「そういや、ワイズが一番だったんだっけ? やるじゃねぇか~! このこのぉ!!」

「いえ、そもそもここは私の地元ですし……それにアレス殿のことだから、街の人々と言葉を交わすのに時間を使っていたのでしょう? そういったことをしていなければ、私などより圧倒的に早く到着していたことでしょう」

「う~ん……まあ、それなりに店の人と話はしたかな? ただ、ベイフドゥム商会の店員とはシステム的な理由もあって、ほとんどしゃべる機会はなかったなぁ……」

「マジかぁ……『次! 次!!』って感じで、俺には店員としゃべる余裕なんてぜんぜんありませんでしたよ……辛うじて、客とか街の人がウワサ話をしているのが聞こえてくるぐらいって感じで……」

「ケインと同じく、私もほとんど余裕がありませんでしたね……」

「ふぅむ、そっかぁ……」


 まあ、俺の場合は、街と街のあいだの移動をウインドボードでカッ飛ばすことによって時間を稼いでいたって感じだったのだろう。

 そんなことを話しながら、街を出た。


「そんじゃあ、また気合を入れて! 行ったりますかァ!!」

「よし……」

「うむうむ、その意気だ!」


 こうしてウインドボードに乗った俺たちは、上空へと舞い上がった。

 ふむ……ワイズもケインも、いうだけあって、昨日より魔力の安定感がアップしているようだ。


「……2人とも、魔力にどっしりとした安定感があって、とてもいい感じだぞ!!」

「しゃぁっ!!」

「アレス殿にそう言ってもらえると、自信になります」

「よし……それなら、もう少しスピードを上げてみるとしようか……」

「おうよ! 望むところだぜッ!!」

「……多少のスピードアップなら……私でもまだついていけるはず……」


 そんなこんなでワイズとケインの成長を感じつつ、さらにスピードを上げる。

 かといって、俺がソロで飛んでいたときほどの速さではないけどね。

 でも、魔力交流で俺が2人に魔力を送っていない状況であることを考えると、なかなかのスピードを維持できているといえるだろう。

 とまあ、そんな感じで、ここからは途中に街があるたび立ち止まることなく、ガンガン領都へ向かって進んでいく。

 そしてたぶん、このペースで飛べば……夕方になるころには、じゅうぶん領都へ到着していることだろう。

 そうして、どんどん風景が流れていく中……


「ほらほら、もう少しで領都に着くことができるぞ! こんなところでへばっているわけにはいかんぞ!!」

「はぁ……ふぅ……俺はまだまだ……へばっちゃいねぇ……!!」

「私だって……!」

「よしよし、厳しいときこそ笑顔だ! 笑顔がお前たちの底力を引き出してくれる!! 眉間に皺を寄せているだけじゃ、体が硬直するだけだぞ!?」

「笑顔か……よっしゃ! ハハッ……ハハハハハ……!!」

「ほらっ、ワイズも笑顔だ! なんだったら、ミカルという娘の笑顔を思い出せ!!」

「ミカルの……笑顔……」

「そうとも! お前に無限の力を与えてくれる笑顔なのだろう!?」

「ええ! ええ! そのとおりです!!」

「フッ……いい顔じゃないか! よし、これからもそれで行け!!」

「はいッ!!」

「ハハッ! 俺も負けてられっか!!」


 そう言っているうちに、メイルダント領の領都が見えてきた。

 そして、あの街にはワイズのお母上がいらっしゃるわけか……

 うむ、失礼のないよう気を付けて行くとしよう。

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