第859話 慄きを感じているのも正直なところですが……

「よし、到着だ! ここまでよく頑張った!!」

「なんとか……アレス殿からサポートを受けずに……到着できました……」

「ハハッ……やったぜ……俺たちはやり遂げたんだ……!」

「うむうむ、ナイスガッツだったぞ!!」


 午前中は別行動だったので、ワイズもケインも俺から魔力のサポートを受けずに移動するって状況は経験していた。

 それでも、今回はその経験を踏まえてスピードを上げて飛んでいたので、そのぶんキツかっただろうと思う。

 まあ、俺がそばで飛んでいて、ヤバくなったらいつでも支える態勢が整っていたからできた挑戦でもある。


「ハァ……フゥ……午前中は、アレス殿がいらっしゃらなかったこともあって……もっとセーブしながら飛んでいましたが……さすがに今回のスピードを維持しながらというのは……途中で何度も諦めそうになりました……」

「……そうそう! 俺も途中で、アレスコーチに『魔力を……分けてください……』って何度も泣きつきそうになってたんだ……でも、そんな言葉が喉まで出かかるたび、『あとちょっと……もうちょっとだけ耐えてみよう……!』って自分に言い聞かせてたぜ!!」

「フフッ、そうして挑戦……それ自体もちろん素晴らしいことだが、さらにそれを見事に成し遂げ続けていくうちに着々とお前たちの限界値が上がっていっていることだろう! やったな!!」

「それもアレス殿が、我々に達成できるかどうかギリギリのラインを見極めて課題を与えてくれているおかげです」

「ハハッ! さすがアレスコーチだぜ!!」

「まあ、『コーチ』と呼んでもらっているのだから、それぐらいはな」

「フフッ、名コーチですね!」

「だな!!」

「そう真面目な顔で言われると、さすがに俺も照れてしまうが……まあ、悪い気はしないな」

「「「フフッ……フフフフフ……ハハハハハ!!」」」


 そうして3人で朗らかに笑い合う。

 まあ、この達成感を味わう時間は、何よりの馳走となるであろう。

 そしてそれが、さらなる挑戦の原動力となるわけだ……いいサイクルが回ってるね!

 また、こうして自信に満ちた笑顔の我が子を見て、きっとワイズのお母上も微笑んでくださることだろう。

 といいつつ……ワイズ本人にとっては、ミカルという娘にどう思われるかのほうが大事って感じになっちゃうかな?

 そんなわけで、ひとしきり笑いあったところで……


「さて……それでは、そろそろ領都に入るとしましょうか」

「おっ、そうだな!」

「うむ、まだ多少余裕があるとはいえ、日暮れも近くなってきたしな」

「はい、日に日に日の入りも早くなっていますものね……」

「そういや、そうだな! はぁ~っ……どんどん冬を実感させられていくって感じだけど……こうなると逆に、夏の暑さが懐かしくなってくるってもんだぜ!!」

「フッ……ちなみにソエラルタウト領では、真夏でも冬を体験できるぞ?」

「ええ、そのようですね、ソエラルタウト領のウワサは私も耳にしております……まあ、北側に領地を持つ身としては、強力なライバルの出現に慄きを感じているのも正直なところですが……それでも、共にウインタースポーツ等の振興に協力できればと思っております」

「俺んとこも、どっちかっていうと北側だからなぁ……まっ、雪が積もるまでもっとかかるだろうから、ウインタースポーツもまだまだ本番って感じじゃないけどさ……」

「ふむ……王国全体で見ると、まだまだウインタースポーツの競技人口を増やしていく余地があるだろうからな……大いに協力していく価値があるだろう! よし、その辺について、あとで兄上に手紙を書いておくとしよう!!」

「おおっ! セス殿に!!」

「よっしゃ! 上手くいけばワイズんとこも俺んとこも、一段と発展できそうだぜ!!」


 そうはいっても、兄上は兄上で既に動いているとは思うが……それでも、いろいろな形でつながりができるのは悪くないだろう。

 とまあ、図らずも今後領地間が協力していく機会を作った格好になった。

 この機会を上手く活かすことができればと思う。


「……おっと、つい話し込んでしまったが……領都入りしなくてはな」

「そうでしたね……私も、思わず興奮してしまっていたようです……それに、まずは目の前の問題を片付けなくてはなりませんし……」

「まっ、これからデカいプロジェクトになっていきそうだって期待できる内容だったからな、どうしたって気持ちが昂っちまうよ! ただまあ、いろんな意味でトードマン問題を解決してからって感じだな!!」

「うむ、違いない」


 こうして俺たちは、領都の正門に向かった。

 そこで、門番をしている衛兵のチェックを受けるわけだが……


「……えっ! えぇっ!?」

「あ、あのぅ……ワイズ様……でいらっしゃいます……よね?」

「いや、でも……ワイズ様は今頃、学園都市にいるはずだが……」

「んなこといっても! 実際にワイズ様がここにいんだろうがよ!!」

「そうだ、そうだ! 俺らがワイズ様のお顔を見間違うわけがねぇ!!」


 まあね、ここにいるわけがない人が現れたら、そりゃ誰だってビックリしちゃうよね……


「ああ、驚かせて済まない……私は間違いなくワイズ・メイルダントだ」


 そんなこんなで、ワイズの一時的帰還というわけだ。

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