第847話 アツアツじゃないと食った気せんだろ!!
「アレスコーチ……俺たちだって、一応食べ物をマジックバッグに入れて持ってきてますよ?」
「ええ、昨晩もアレス殿に料理を出していただいてしまいましたが……」
「……ん? そうはいっても、どうせお前らが持ってきてるのは携行食だろ?」
「えっ? まあ……よっぽどのことがない限り食べることもないだろうと思って、携行食しか持ってこなかったのは確かですけど……」
「私も……出来立ての料理を持ってくるという発想はあまりありませんでした……」
「だろう!? やっぱり、アツアツじゃないと食った気せんだろ!!」
「う、う~ん……アレスコーチの言ってることも納得はできますけど……そこまでこだわるのは、アレスコーチならではって感じもしますね……」
「領軍を指揮する際……毎回出来立てを用意していれば、そのうち兵の舌が肥えてしまいそうですし……」
「ああ、そうか……領主ともなると、そっちを気にしていかんとならんわけか……」
「まあ、味とかより持ち運びにかさばらず、どれだけ腹を満たせるかってことのほうが大事になってくるでしょうからねぇ……」
「ええ、それはマジックバッグがある場合も同じで、どれだけ多く持ってこれるかを考えることになるでしょう……」
「なるほどねぇ……その辺はソロ活動を基本に考えている俺と違うところなのかもしれんなぁ……」
ただまあ俺だって、なんとなく携行食もマジックバッグに入れてるけどね。
というか前世の俺なら、たぶん味が二の次の携行食でも、さほど気にならなかったんじゃないだろうかと思うんだよね……
そう考えると、いつのまにか俺もなかなか贅沢になったもんだよ……
「とまあ、なんだかんだ言いましたけど……今回もありがたく! アレスコーチの出してくれたアツアツの料理を食べさせてもらいまっす!!」
「私も……このお礼は、いずれ……」
「ハハッ、この程度のことで気にする必要はないさ」
「くぅ~っ、そう言ってくれるアレスコーチには感謝ですけど! そもそもトードマンの店がこんなワケ分かんねぇ企みをしなけりゃ、今頃メイルダント風の料理を堪能できてたんだ! ホント、頭にくるぜ!!」
「まだベイフドゥム商会の仕業だと完全に決まったわけではないとはいえ……とにかく、とんでもないことを仕出かしてくれたものです……」
「ああ、そうだな……」
そして、メイルダント領の雰囲気を見た感じ……おそらく、まだ深刻な状態には陥っていないと思われる。
というのも、街に入って長居しているわけではないが、今のところ街の人々の様子がそこまで衰弱しているようには見えなかったからね。
まあ、おそらく吸命の首飾りの粉末が混ざった調味料が出回ったのは、不作問題が発生した今年の夏以降であろう。
そうして、もちろん領民たちの体内で自然に消化されるぶんもあっただろうが、消化されずに残ったぶんが少しずつ蓄積されていき……最終的には、領民たちの生命エネルギーを吸い尽くしてしまうのだろうな……
となると……もしかしたら原因不明の奇病としか判断できなかった可能性もあるな……これは危なかった。
この辺、以前ソリブク村の畑を枯らしていた魔力の塊の仕掛けに似ているな……
同族ゆえなのか、どうにもマヌケ族の考える手口っていうのは似通ってきてしまうようだ。
ふぅむ……それだけ人間族を舐めてるということなのかね……
いや、魔王復活のためのエネルギーを集めるには、そういう方法にならざるを得ないっていう部分もあるのかなぁ……?
まあ、その辺についてはよく分からんが……とりあえず、メイルダント領での企てに関しては俺に察知されてしまったってわけだ……ざまぁみろってんだ。
「まっ! 俺たちでバッチリ証拠をつかんで、トードマンのところにはキッチリ落とし前を付けさせてやるぜ! そんでもって、アレスコーチ! 今度こそ安心してメイルダント風の料理を味わいましょう!!」
「ええ、アレス殿にも……ぜひとも我が領の料理をご賞味いただければと思います」
「おう! 今回の問題を無事解決して、気分よくメイルダント風の料理をたらふく食わせてもらうとしようじゃないか!!」
このとき、腹内アレス君がアップを始めたのは言うまでもないだろう……
しかしながら……今回の腹内アレス君は、吸命の首飾りが再び使用されたことに対してマジギレしてるからね……
俺より本気度が圧倒的に高いというべきか……そのぶん、俺が冷静……ああ、さっきの話に絡めて言うとすれば、平静に努めなければならないって感じなんだよ……
「フフッ……食事を特に大事にしているアレスコーチですもんね! 昨日の晩から、沸々としたモノが湧き上がっているのが、この俺にだって分かりますよ!!」
「まあ、我々の場合は、魔力交流でお互いに通じ合っているのもあったでしょうね」
「うむ、魔力交流によって感じ取った部分もあるだろうな……そして、さっきの平静って話は、自分自身に言い聞かせていたことでもあるというわけだ」
「なるほど、そういうわけだったんですね!」
「改めて、精神を平静に保つ……私自身にも言い聞かせたいと思います」
こうして、俺が持ってきた料理を部屋で食べながら、朝食の時間が過ぎていったのだった。
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