第846話 それを忘れんなってことを伝えるためのデザイン

「……朝だな……それじゃあ早速準備をして、朝練に行くとするかね」


 なんて呟きながら、平静シリーズを身に付けていく。


「おはようございます……アレス殿」

「……んあ? もう朝かぁ……!」

「おお、2人も起きたか、おはよう」


 そしてワイズとケインも、朝練に行く準備を始める。


「こうして今日も爽やかに目覚めることができた……魔力交流のおかげですね」

「ああ、そうだな! まったくもって、魔力交流に感謝だぜ!!」

「うむ、俺も学園に入学してからだな、魔力操作をしてから寝ると明くる朝の目覚めが気分爽快だって感じるようになったのは……まあ、そもそも論として、それまでは魔力操作に見向きもしていなかったからなぁ……それはそれとして、このことに気付いてからはもう、魔力操作をせずに寝るなんてことは考えられなくなったもんさ」

「確かに……これだけの効果が感じられるのならば、やらない手はないでしょうね」

「ああ、まったくだ! てなわけで、俺はこの旅が終わったあとも寝る前の魔力操作を継続してやってくぞってことを、ここに宣言するぜ!!」

「ほう、それは素晴らしい心掛けだ! まあ、魔力交流でも魔力操作でも基礎的な部分は同じだからな、部屋で独りのときはぜひとも魔力操作を楽しむといい!!」

「もちろん、私もやりますよ」

「そうか! ワイズも魔力操作を楽しめよ!!」

「はい!」

「まっ! アレスコーチのことだから、そのうち魔力交流も夕食後の練習会のときに導入するつもりなんでしょう?」

「うむ、ケインの言うとおり、練習会に参加しているみんなが魔力操作に慣れてきたら魔力交流を始めようと思っている……その点において、お前らは先んじて魔力交流の練習を始めているということだな!!」

「それはそれは……誠に光栄なことです」

「しかも俺たちは、アレスコーチの強烈な魔力を独占状態で浴びさせてもらっているんだもんな! こんな機会、そうそうないぜ!!」

「フッ……そうして一歩先に進んだお前たちが、今度はほかのみんなに魔力交流を教えてやってくれ! きっとそれが、お前たちの新たな学びにもなるだろうからな!!」

「そうですね、友人の多くは既に練習会に参加しておりますが……ケインと一緒に練習会のとき以外にも皆を誘って魔力交流をやってみたいと思います」

「まっ! 俺らがやるって言えば、きっとアイツらだってやるはずさ! たとえ渋々だろうともな!!」

「ほう、それは期待できそうだ」

「あまり大きなことを言うわけにはいきませんが……できる限りのことはしたいと思います」

「そういうことッ!!」


 とまあ、そんなことを話しながら準備を終え、宿屋の庭に出てきた。


「ふむ……この広さだと今日は走るのをやめて、剣術練習だけにしておいたほうがよさそうだな?」

「ええ、そのようですね」

「まっ! どうせ今日は街中を動き回ることになるだろうから、剣術だけでいいんじゃないですかね?」

「うむ、それもそうだな」


 そうして準備体操を軽くして、まずは素振りを始める。

 そこで一振り、一振り……丹念に気持ちを込めて振っていく。


「ふぅ……ホント、アレスコーチは丁寧に素振りをしますねぇ……それに比べて、俺は今までいかに雑な素振りをしてたのかって思い知らされますよ……」

「私も、それなりに丁寧さには自信がありましたが……それでも、アレス殿ほどではなかった気がします」

「そうだなぁ……この素振りの一振り一振りが、少しでもレミリネ師匠に近づくための手がかりになるのだと思えば、自然と大事に振りたくなる……といったところかな?」

「師匠の剣に近付くための手がかりですか……なるほどねぇ」

「アレス殿はどこまでも高みを見つめていらっしゃるのですね……私も見倣わせていただきたく思います」

「そうか……ではお互い、高みを目指して切磋琢磨していこうじゃないか!!」

「おっと! 俺のことも忘れてもらっちゃ困りますよ!!」

「ああ、もちろんだ!!」


 こうして素振りから演武に入っていく。

 また、ここでは個人練習もしっかりおこなうが、俺から2人にレミリネ流の動きをアドバイスしたりもする。

 まあ、2人はレミリネ流を学び始めて日が浅いからね……完璧じゃないところが多々あるんだ。

 といいつつ、俺だってまだまだ完璧には程遠いんだけどね。


「……ワイズよ……やはり、領のことが気になるか?」

「……ッ!? そう、ですね……気にならないといえば、ウソになってしまいますね……これでも、私なりに剣術練習に集中しているつもりではあったのですが……」

「まあ、自分の領のことだし……仕方ないところもあるんじゃねぇか? ぶっちゃけ俺だって、ソワソワしちまってるからなぁ……」

「ふむ……今お前たちが着ている物に施されている刺しゅうを見てみるといい」

「……平……静」

「そっか、平静……なるほどね……それを忘れんなってことを伝えるためのデザインなんだな……」

「うむ……そういうことだ」


 といいつつ、平静シリーズを生成したダンジョンさんサイドとしては……正直なところ、ギャグのつもりだった気がしないでもないけどね……

 とまあ、そんな感じで朝練の時間を過ごしたのだった。

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