第630話 得意分野がどうとかってこと
「……始めッ!!」
『さぁ、1回戦第4試合! トイ・ライクラッツ対セテルタ・モッツケラスの試合が始まりました!! ここでスタンさん、両者の戦闘スタイルや見どころなどをお聞かせ願えないでしょうか?』
『はい、まずトイさんについて、分かりやすいところを挙げるとするならば、その体力に限界があるのかと思わされるほどスタミナが豊富なことと、どうやって攻撃を当てればいいのかと思わされるほど回避能力が高いことですね』
『なるほど、確かに予選でトイ選手と当たった対戦相手の多くは、繰り出す攻撃の全てを躱されてスタミナが持たずに倒れる……なんて展開が続きましたもんね……』
『はい、スタミナ対策として決着を急ごうとすると回避能力に阻まれ、反対に体力を温存しながらだとスタミナの豊富さに付いて行けず……という形になってしまいますから』
こんなふうに改めて解説で聞くと、トイの戦闘スタイルってエグイな……
「おいおい、繰り出す攻撃の全てを躱されるって……あのトイって奴、ヤバくねぇか?」
「たぶん俺だったら、体力の限界がくる前に心の限界がくるだろうなぁ……」
「いや、だいたいの奴はそうだろ……」
「セテルタとかいうの……そんなんと、どうやって闘うつもりなんだろうな?」
まあ、一般の観客たちの反応も当然だろうね……
『……ただですね、実はそれだけではないんですよ』
『ほぉう! それだけではないと!?』
『はい……えぇとですね、こういった武闘大会の上位に残ってくるような戦闘能力の高い人っていうのは多くの場合、魔法なり武術なり、なんらかの技術を学んで磨いているんですよね……』
『ええ、そうでしょうね……そういった技術を磨かないと、強くなっていきませんもの……』
『それがトイさんの場合、ほとんどそういった技術を身に付けていないようなんです』
『なんと! 技術を身に付けていない!?』
『はい、私が見たところ……トイさんの動きに術理のようなものが見当たらないのです……』
『で、では……あの回避能力はどうやって培ったのでしょう?』
『おそらくですが、天性の勘みたいなものでしょうね……そうして、トイさんの動きには理論的でないものが多く、至極読みづらいのです……』
『天性の勘……そして、理論的ではない動き……うぅむ……』
『そのため、トイさんの闘い方について、私には理解の及ばないところが多々あるのが正直なところです』
『スタンさんにそこまでいわせるとは……トイ選手、恐るべしですね……』
『まあ、私の勉強不足でもありますが……』
ふむ……俺もトイについて、練度があんまり高くないように感じていたし、「今、なんでそんな躱し方したの?」って思ったことも多くあった。
だから、解説を任されるレベルで武術を研究しているスタンもトイの動きが理論的ではないといっていて、「ほらな?」っていう気持ちが湧いてくる。
『思いのほかトイ選手の話が長くなってしまいましたが……セテルタ選手についてはどうでしょうか?』
『はい、セテルタさんはというと……まさにオールマイティーといえるほど、本当になんでもできる人ですね』
『ほう、なんでもですか?』
『そうです、なんでもです……そんなオールマイティーになんでもできるセテルタさんの中で私が一番注目しているのは、多属性の魔法を同時に使いこなす能力の高さですね』
『多属性を同時にといいますと……ちょうど今、セテルタ選手が地属性と水属性を使って舞台にマッドスワンプを生成したのがそれでしょうか?』
『はい、それです……ああいった2つ以上の属性を使った魔法というのは、1つだけの属性よりも生成の難易度が上がりますからね』
『なるほど、確かに私にも得意な属性というものがあって、自然とその属性をメインに使っています』
『そうですね、多くの人は得意な属性が1つ……まあ、多くて2つ……3つ以上得意だという人は、よほどの天才でもない限りむしろ自分の適性を理解していない可能性が出てきます……そこで、その多属性の天才というのがセテルタさんだと私は思っています』
ふぅん? 得意な属性か……
俺の場合だと、氷……これは大きく見たら水属性に入るのかな? とにかくそれと、母上譲りの光属性が得意といえそうだ。
とはいえ、ほかの属性も使えないわけじゃないけどね……多少上手くいかなくても、そのぶん魔力を注ぎ込めば無理やりにでもできちゃうし。
でもまあ、その魔力を注ぎ込んで無理やりっていうのが、得意じゃないってことなんだろうね。
『ふむふむ、多属性の天才ですか……それは正直、憧れてしまいますね』
『……その憧れというのは、人によっては毒になり得るかもしれません』
『えっ! 憧れが毒!?』
『はい、例えば水属性が得意な人が、得意ではない火属性に憧れて努力をしたとしても、思うように結果を得られない可能性が高いからです……少なくとも、火属性が得意な人の努力には到底かなわないでしょう』
『な、なるほど……自分の適性を見極めて、勝てる分野で努力をするべきだとスタンさんは考えているわけですね?』
『ええ、気力や体力、それから時間などいろいろと限られていますから……まあ、大きなお世話でしょうが……』
俺の場合「魔力操作を頑張れば、なんでもできる!」ってスタンスでいつも語ってきたが……ふぅむ、得意分野がどうとかってことには割と意識が薄かったかもしれない。
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