第629話 どうしても、反感を持たれがち
「俺はこの試合……何もいいところがなかった……本戦に進むことができなかったみんなのぶんも背負って、あの舞台に立ったつもりだったのに……こんなんじゃ、みんなの前にどんな顔して出ればいいんだ……それに何より、王女殿下に顔向けできないじゃないか……」
「……マトゥ、そんなに自分を責める必要はないと思うぞ?」
「そうです! マトゥはよく闘ったんですから、何も恥じることはありませんよ!!」
「ヴィーン氏の、あの無拍子の攻撃に対処することができた……それだけでじゅうぶん凄いことだ……なぜなら、彼のあの一撃で沈んだ者が数多くいるのだからな……」
「そうでござる……そして、試合を決めたヴィーン殿のウォーターバレット……あれに気付くことができる方など、そうはおりますまい」
「お前ら……」
「そんなわけでな……落ち込んでないで、胸を張ったらいいって!」
「そうです! ちゃんと分かってる人は、マトゥを悪くいうわけがありません!!」
「もちろん、王女殿下も認めてくださるはずだ」
「そのとおりでござる! さあ、マトゥ殿……暗い顔はそこまでにして、元気を出しましょうぞ!!」
「……ああ、分かったよ……お前ら、ありがとな……」
俺たちがヴィーンの勝利を祝福しているあいだ、王女殿下の取り巻きサイドは落ち込んでいたマトゥを元気づけていた。
まあね、俺がマトゥの相手をしていたら、もう一段階か二段階ぐらいギヤを上げさせるような闘い方をしていただろう。
もしくは、主人公君やトーリグと当たっていれば、もっとバッチバチに打ち合った末に決着となっていたかもしれない。
そうであれば、マトゥの消化不良感もそこまでじゃなかったのではないか……
とはいえ、これは武闘大会だからね……そういった満足感ばかりを求めることは難しいだろう。
といいつつ、俺は対戦相手に全力を出させた上での勝利を求めるけどね……舐めプと思われるかもしれないけどさ。
でも、そういった全てを出し切った相手と闘うことこそが、一番の学びになると思っているからね。
それにやっぱり、そういうバトルが楽しいって思っちゃうからさ……
この辺はやっぱり、俺のゲーム脳的部分が強いんだろうなって気がする。
「おっと、係の人が呼びに来たみたいだ……それじゃあ、行ってくるよ!」
ここで、セテルタの出番ってわけだね。
「セテルタなら大丈夫だと思っているが……油断しないようにな?」
「相手は捉えどころのないトイさんですからね……気を付けてください」
「セテルタさん! ファイトだぜ!!」
「セテルタさんの鮮やかな闘いぶり、楽しみにしていますよぉ!」
「頑張ってください!!」
「……2回戦で会おう」
「期待しているわ」
「セテルタ君なら大丈夫だよ! 自信を持ってね!!」
「セテルタよ……勝ってエトアラ嬢にいいトコを見せるんだぞ!!」
「みんな、ありがとう! おかげで、ますますヤル気が漲ってきたよ!!」
うむ、まさに気力充実といったところだな! これなら、イケる!!
「はぁ……めんどくさいなぁ……」
そしてトイは相変わらずといった感じで、ぼやきながら舞台に向かってトボトボと歩いて行くのだった。
ホント、あのモチベーションでよくここまで残れたもんだよな……
しかも今年って、例年に比べてレベルがかなり跳ね上がってるって、もっぱらのウワサだというのに……
やはり、トイという奴は天才ということなのかもしれんね。
「コラァ、トイ! もっとシャキッとしろォ!!」
「とりあえず、今日頑張ることができたらっ! しばらく遊んでもいいからねぇ~っ!!」
「まあ、ハメを外し過ぎない程度であれば、我々も付き合おう! だから、とにかく今日だけは集中して取り組むのだっ!!」
「……はぁ……サボりたいけど……どうせ捕まえられて、この中に放り込まれるだろうからなぁ……はぁ……めんどくさ~い……」
うん……やっぱり、あの3人が周りにいてくれたってことが、トイにとっては大きかったんだろうなぁって気がする。
あの3人が引っ張ってくれているから、トイの天才性が埋もれずに済んでいるんだ……そう思うと、他人のことながらありがたくも感じてくるってもんだよ!
なぜなら、それだけ強い奴から学べるってことだからね!!
といいつつ、この武闘大会で俺とトイが対戦する可能性があるのかって考えると……ほとんどないだろうけどね。
だって、セテルタとヴィーンに勝たないと、俺の前に出てこれないんだもん……いや、俺だって主人公君に勝たなきゃだけどさ。
まあ、この武闘大会では機会がなかったとしても……いつか、どっかのタイミングで手合わせできたら……それはとってもステキなことだよね!
『……さて、舞台の整備も完了し、トイ選手とセテルタ選手の装備も確定致しました! そして両者、舞台中央にそろって王女殿下から胸ポケットに最上級ポーションを挿入していただきます!!』
「あぁ……やっぱり、いいなぁ……」
「王女殿下にッ! 羨ましいッ!!」
「しっかし……今回の2人も、まあまあ淡泊な反応だよな……?」
「まあ、セテルタさんはエトアラ先輩一筋だから……」
「その点、トイは何を考えてんのか……よく分からんね」
「いや、あの天然野郎のことだから、何も考えてねぇって! マジで!!」
「ああ、まったくだ! 才能に恵まれただけのクソ野郎め……」
「俺! この試合、セテルタを応援しよっと!!」
「僕も僕も~」
「ま、当然っしょ!」
「でもなぁ……セテルタはセテルタで、エトアラさんを取りやがったからなぁ……」
「それは、お前がボーッとしてたからだろ?」
「でも、エトアラ先輩の心の中にはセテルタしかいなかったんだから、ほかの奴がどう頑張ったって無理だっただろ……」
「それはまあ……ね」
「ま、なんだかんだいって、とりあえずトイを応援する理由はないね!」
「だな! やっぱ、セテルタさんだよ!!」
「そうだ、そうだ!」
「お前ら………………俺もだ! セテルタさん、ファイトォッ!!」
「おい! その無駄なタメはなんだったんだよッ!?」
「う~ん、トイ君はあの性格だからなぁ……どうしても、反感を持たれがちになっちゃうよねぇ……」
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