第164話 余計なお節介だったかもしれんがな

「早起きのアレスとは俺のこと!!」


 ……というわけで、目覚めの一言が飛び出したところで、本日闇の日。

 昨日までが野営研修後の特別な休日で、今日と明日が本来の休みの日となるわけだね。

 なんてことを考えながら、服を着替えて朝練へ、いざ参らん!

 そして朝練中、いつものように朝の散歩をお楽しみ中のファティマ嬢へご挨拶申し上げる。

「おはようございます、ファティマ嬢」

「……おはよう、今日はとてもご機嫌なようね」

「ははっ、さすがはファティマ嬢だ、なんでもお見通しのご様子! 爽やかな朝には爽やかな汗がよく似合う! 実に爽快なものですな!!」

「……さて、そろそろ戻ってきてもらおうかしら、今のあなた、少し面倒よ?」

「……あっ、ハイ……ちょっと、朝のテンションではっちゃけちゃいました、すいません」

「……まぁいいわ、元気があるのはいいことだものね……あり過ぎるのも対応に困るけれど」

「はは……」


 そんな乾いた笑いを一つしたところで、そういえば模擬戦のお誘いをするんだったことを思い出した。

 忘れないうちに、今言っておこうか。


「……それで話は変わるが、最近俺はロイターとサンズの2人と一緒に、夕食後に模擬戦をしているんだ、知っているだろうけど」

「ええ、もちろん。それがどうかしたかしら?」

「……今更って思うかもしれないが、もしよかったら、お前とパルフェナも参加してみないか?」

「ふふっ、そんなかしこまって言わなくても、参加してあげるわ。それと、パルフェナには私から声をかけておくわね」

「おお、そうか!」


 正直、「今更どうした?」って感じになるんじゃないかと思ったが、そうでもなかった。


「……野営研修で遭遇した慎みのない女性騎士をきっかけとして、この先、女性との戦闘も避けて通れないかもしれないと思ったからってところかしら?」

「え!? なんでそれを……」


 ……単語のチョイスにトゲがあるし、ミオンさんが直接のきっかけってわけじゃないんだけど、理由としては正解。

 マジでファティマさんには、お見通しなんだなぁ……


「そうねぇ、あなたって結構、分かりやすいもの。それにあなた、私やパルフェナと模擬戦をしたとき、明らかに闘いづらそうにしていたし」


 えぇ……分かりやすいってなんだよ。

 ……こんなんじゃ俺、クール道から破門されてしまうんじゃないか、大丈夫か?

 いや、ここで動揺していては、それこそ破門されてしまう。

 余裕だ、男の余裕を見せるんだ。

 そしてニヒルな笑みなんかも加えて……


「……フッ、まぁ、そうだな、お前の言うとおりだ」

「ふふっ……でも、女性に対して力を行使することに忌避感があるのは、騎士道精神として尊ぶべきことでもあるわ……時と場合を選ぶ必要はあるけれどね」

「お、おう」


 ファティマの、なんかこう、さりげなく褒めてくる感じ、認められた感じがしてちょっと嬉しいんだよな。

 とはいえ、クール道に身を置く俺としては、ここでニヘラっとするわけにはいかない、あくまでもクールにいかなくちゃだな!


「それで模擬戦だが、いつもだいたい夕食後に運動場でやっているから、都合がいいときに来てくれ」

「そう、分かったわ」


 とまぁ、こんな感じでファティマに模擬戦のお誘いをしたところで、ひとまずお別れ、次に会うのは夕食後になりそうかな?


「それじゃあ、またな!」

「ええ、それじゃあ」


 そしてまた朝練に戻り、1時間ほどしたところで自室のシャワーへ。

 

「あ~サッパリした。そ・し・て……お待ちかねのポーションだ! ゴクリと行くぜ!!」


 ふぅ……やっぱ、運動とシャワーのあとにはポーションだね。

 この一杯のために頑張ってるって言っても過言じゃないかもしれない。

 この点については腹内アレス君も同意してくれている。

 ……いや、運動とかはどうでもよくて、飲みたいだけかもしれないけどさ。

 そんなことを考えたりしながら、朝食をいただきに食堂へ移動。

 手頃な場所を見つけて座り、さぁ、いただきます!


「ねぇねぇ、野営研修も済んだことだしさ、そろそろ僕たちもダンジョンデビューしていい頃じゃない!?」

「おお、ダンジョンか……確かに頃合いとしてはそろそろって感じだよな!」

「……お主ら、あまり浮ついた気持ちで行くと大変なことになるぞ? ……余計なお節介だったかもしれんがな」

「わ、分かってるよ、それぐらい……」

「あ、ああ……忠告、ありがたく受け取っておくよ」


 なんか同年代……というか見た目的に一番幼く見える奴が一番年長者っぽいことを言っていた。

 しかも、声変わり前だからか、声もちょっとかわいらしいっていうね。

 それはともかくとして、ダンジョンか……

 原作ゲームにもあったし、こっちの世界に来てからも時々その単語を耳にしていたからな、ダンジョンの存在は認識していた。

 ただ、魔法の練習を優先したり、いろいろやったりしているうちに、なんとなく先延ばしになってたんだよな。

 まぁ、急いで行かなきゃいけない理由もなかったしさ。

 でも、逆に今は特に急いでやらなきゃいけないこともないし、時間的に余裕もあるから、ちょっと行ってみるのもアリかな?

 それに、俺に敵対的とかいうクソめんどくせぇ貴族も、さすがに「ダンジョン攻略などけしからん!」とは言えないだろうし。

 ……言ったら、そこの坊やたちみたいのにキレられるんじゃない?

 よし、ダンジョンに行く方向で考えてみるとしよう。

 ふっふっふっ、これぞ異世界って感じがしてきたな!

 ……あ、さっきの年長者っぽい坊やに「浮ついた気持ちで行くな」って怒られちゃうかな?

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