第163話 僕たちがいます

 先ほど模擬戦を終えて、今は談話室で夜食と反省会をしている。

 戦績としては、ほとんどいつもどおりで、魔法ありなら全勝、魔法なしなら全敗だった。

 ロイターとサンズのほうも相変わらずで、魔法ありならロイター、魔法なしならサンズって感じ。

 ただ、結果だけ見れば変化がなさそうにも見えるだろう。

 しかしそれは、こっちが強くなったぶん、相手も強くなったってことなのだろうと思う。

 いやぁ、この切磋琢磨してるって感じ、実にいいものだね。

 そんなことを思いつつの夜食によって、腹内アレス君もある程度満足してくれたみたいだ。

 というわけで野営研修後に起こったあの、うさんくさい導き手が出現したときの話をロイターとサンズにした。

 その中で、騎士の男については話したが、エリナ先生がゴミクソな王族に迷惑をかけられた話はしなかった。

 まぁね、エリナ先生のプライバシーは守りたいからさ。

 とはいえロイターの場合、公爵家の子息という身分的に知っている可能性もあるが……

 いや、そもそも王族が謹慎するっていうのは、かなりの出来事な気もするし、大半の貴族は知っていてもおかしくないかもな。

 ……じゃあ、なんで俺は知らなかったのかって?

 その当時は原作アレス君だったからだよ。

 基本食べ物にしか興味のない原作アレス君が、そういった貴族のアレコレに興味があるとも思えないし……

 それはともかくとして、うさんくさい導き手にまつわる話をロイターたちにしたわけだが、果たして2人の反応は……


「……ゼンとかいったか、実にふざけた奴だな」

「なんというか……どれもそれっぽいことを言っているだけで中身のない……空虚な感じがしますね」

「アレス、そんな奴の言うことを真に受けるなよ? おおかた、お前に王国への敵対心を植え付けたいだけの奴だろうからな」

「そうですね……確かに、貴族の中にはアレスさんのことを悪く言う方もいますが、決して全てではありません……何より僕たちがいます、そのことだけは忘れないでください」

「ああ、分かった」


 ……最初はここまでの関係になるなんて思っていなかったけど、なんていうか、めっちゃいい奴らと仲間になったなって思うね。

 そして、ロイターやサンズのような奴が原作アレス君の仲間だったなら……あんな形で破滅せずに済んだのかもしれない、そんなふうにも思った。


「しかしながら、そのふざけた奴の言うとおりの動機だとするならば、あの騎士の行動は単なる八つ当たりでしかないな」

「ええ、まさしくですね。それに、あの人はコモンズ学園長のことを腰抜けだなんて罵っていましたが、コモンズ学園長は若い頃に家族だけでなく、領地ごとモンスターの氾濫で失ったというのに、その恨みを他者にぶつけなかった……それどころか他者を守る方向で考えた。そんな人のことを、あんなふうによく言えたものですよ」


 えぇ……コモンズ学園長の過去って、どんだけ重いんだよ……

 主人公じゃなく脇役だからだろうけど、ゲームではそんなこと語られてなかったぞ。

 それに、主人公敗北エンドでコモンズ学園長が輝くのも、どっちかというと隠し要素みたいなところがあるから、設定資料集の記述もアッサリとしたものだったし。

 う~む、当然のことではあるんだろうけど、原作知識だけでは分からないことも結構あるもんだな。

 ……エリナ先生のことも知らなかったしさ。

 ……いや、本来ならこれが普通なのか。

 そして、徐々にゲームのシナリオともズレてきているし、原作知識によるアドバンテージもこの先どんどんなくなっていきそうだ。

 まぁ、異世界転生の先輩諸兄も途中から「俺の原作知識もだいぶ役に立たなくなってきたな……」とか言うようになっていたし、そんなものなのかもしれないな。

 ……なんて、意識が少し逸れかけてしまったところで、ロイターの発言に耳を傾ける。


「サンズの言うとおりだな。加えて言うなら、コモンズ学園長ならゲンのことも喜んで受け入れただろうに……」

「はい、間違いなく……そしてほかの方だと、ゲンさんの特殊性を考慮せず討伐してしまうか……場合によっては実験動物のような扱いをしようとした方もいたかもしれません」


 そうか、その可能性もあったか……

 あのときの俺は、ゲンをそのまま逃がすことを考えていたが……それではダメだったのかもしれないな。

 野営研修中でも、既に多くの教師や騎士に存在を把握されていたようにも思うし。

 とはいえ、あの騎士の男さえしゃしゃり出てこなければ、おそらくパーティー内の誰かがそのことに気付いて指摘してくれたとも思うが……

 まぁ、ああだこうだ考えても結局、俺の至らなさでゲンを死なせてしまった、その一言に尽きるのだがな……


「おい、アレス! ゲンのことを考えていたのだろうが、落ち込んだ顔をするのはよせ。あのとき、あの騎士の接近に気付けなかったパーティーみんなの落ち度でもあったのだ、お前だけのせいじゃない」

「そうですよアレスさん、一人で抱え込もうとするのはよくありません。先ほども言いましたが、僕たちもいることを忘れないでください」

「……ロイター、サンズ……ありがとう」


 こうして今日は模擬戦の内容よりも、あのときのことが話題の中心となる反省会となってしまった。

 その後は自室に戻って、筋トレと魔力操作をしっかりおこなって眠りにつく。

 それと、やはり今日の昼間の成果は確かにあったようで、魔力交流をした際、ロイターとサンズに軽く驚かれたのは、ちょっと嬉しかった。

 そんな感じで気持ちが沈むこともあった反省会だったが、そこはよかったと改めて思いながら、気分を上向けにして眠りの世界へと旅立っていった。

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