第162話 矯正されたのだ

 トレルルスの店を出て、学生寮の自室に戻ってきた。

 ちなみに、先ほどまで一緒だった少年少女たちはトレルルスに任せることにした。

 なんか、錬金術師の道に興味津々って感じだったからね。

 というか、そもそも彼らは俺みたいにやりたくて冒険者になったというよりは、やれることがないから冒険者になったみたいでさ……

 だから戦闘も苦手……というかあんまり戦ったことがないらしい。

 そんで普段は街中の雑用をメインとしつつ、そういった依頼を受注できなかったときは森の浅いところで採集活動をしていたところ、最近は学園の生徒が残した素材拾いがアツいって感じだったようだ。

 そうした日々を過ごす中で、俺と出会ったというわけだね。

 まぁ、今日の経験を活かして、これから魔力操作を頑張ってくれさえすれば、そのうち戦闘もバリバリこなせるようになると思うのだが……

 とはいっても、そんなに戦いたい系ではない人に戦闘を強要するのも違うだろうからさ。

 そして、戦いたくないからこそ、今日の頑張りにつながったというわけでもあるのだろう。

 ま、彼らがこの先どうなっていくのかはわからないが、ひとまず心の中でエールを送っておこうと思う。

 なんてことを考えながらシャワーを浴びていた。

 そうしたシャワータイムを終えたあとは夕食だ。

 というわけで、食堂へ移動。

 今日はロイターとサンズのほうが先に来ていたようで、彼らのいるテーブルへ。

 食事中、ファティマたちを模擬戦に誘うかどうか、ロイターたちに相談してみることにした。


「なぁ、今やっている夕食後の模擬戦だが、ファティマたちも誘ったほうがいいだろうか?」

「……急にどうしたのだ?」

「そうですよ、確かアレスさん、『女と戦うのは気が引ける』とか言ってませんでしたか?」

「いや、そのな……先日変な奴に絡まれてな……それでこの先、女との戦闘も避けて通れないかもしれないと考えたとき、そうもばかり言ってられないような気がしてきたんだ……」

「ふむ、なるほどな」

「変な奴……ですか?」

「ああ、それについては後で……反省会のときにでも話す」


 あのうさんくさい導き手の話をするには、ここはちょっとオープンなスペース過ぎる気がしたのでね、今は控えた。

 それに……あの騎士の男の話も出てくるからさ……


「それで話を戻すと、ファティマさんたちを誘うって話だったな? 私はいいと思うぞ?」

「僕も、特に反対する理由はありませんね……それに、ロイター様はファティマさんと一緒……」

「サンズ! 余計なことは言わなくていい……アレス、お前も生暖かい眼差しを向けてくるな」

「……そんなつもりはないんだがな?」

「顔は無表情を繕おうとしているが、眼だ! 眼がそういう眼をしている!!」

「ロイター様、あまり大きな声を出されますと、周りに迷惑ですよ?」

「……くっ!」


 といいつつ、周りもわりとガヤガヤしているので、そこまでじゃないんだけどね。

 しかしながらサンズの奴、たまにぶっ込んでくるんだよな。

 まぁ、こんなふうにイジり合えるだけ、心の距離が近いと言えるのかもしれない。


「とはいえ、ロイターとサンズは女相手の戦闘を苦手に感じないのか?」

「……それは、まぁなぁ……感じないわけでもなかったが……」

「……そうですねぇ……僕たちにもそういう意識はありましたが……」

「どうした? 歯切れが悪いぞ?」

「……その、なんだ……そういう気持ちは、師匠によってバッキバキに矯正されたのだ」

「……はい、そのとおりです」


 うわぁ、またヤベェ師匠が出てきたよ。

 そして話によると、幼少期のロイターたちも俺みたいに「女の子とは戦えません!」みたいなことをメソメソ言っていたみたいなんだ。

 それに対し、ヤベェ師匠がロイターの実家に仕える女性の騎士や魔法士を集めて、ロイターとサンズにひたすら模擬戦をさせたそうだ。

 いくらロイターとサンズに才能があったとしても、まだ子供なうえ相手は現役だからね、それはもう徹底的にボコボコにされたらしい。

 そうしてボッコボコにされつつ、模擬戦の相手をしてくれたお姉さんたちの真剣な顔の中に隠しきれず漏れた、いたたまれないという雰囲気を感じ取ったときに悟ったらしい、「自分たちはまだ、そういうカッコいいことを言える立場ではない」ってね。

 なんというか、よくトラウマにならずに済んだなって思っちゃう、それはお姉さんたちに対してもね。

 ああ、もしかしたら、「子供と戦うなんて……」とか思ってしまうような心優しいお姉さんに、それを克服させる意味もあった可能性があるな。

 ……いずれにしても、ヤベェ師匠だよ。

 とまぁ、そんな感じでロイターたちの昔語りなんかも聞きつつ、ファティマたちを誘う方向で決定した。

 あとは俺も、ロイターたちを見習って、女性相手の戦闘に慣れていかなきゃだなぁ。

 ちなみに、ある程度実力のついてきた今のロイターたちは、相手の力量に合わせて適度に手加減して戦える立場になってきたそうだ……よかったね。

 ま、まぁ、手加減の練習なら俺だって頑張ったし?

 そんな感じで、心の中で微妙に張り合いつつ、夕食を終えた。

 さて、今日の模擬戦もいっちょ楽しみますか!!

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