第161話 めまぐるしく動く状況の変化

 新人冒険者の少年少女たちを連れて、ソートルの酒場に向かう。

 やっぱ、ソートルが作るソーセージは絶品だからね。

 あと、大人数でワイワイするのにも適していると思ったからっていうのもある。

 そして、もしかしたらと思ったが、店にはグベルとエメちゃんがいた。


「おお、2人とも久しぶりだな」

「アレスさんじゃないですか!」

「久しぶり、アレスお兄ちゃん!」


 それとどうやら少年少女たちもグベルとエメちゃんと知り合いだったようで、軽く挨拶を交わしている。

 まぁ、冒険者をしていれば、知り合う機会はあるだろうし、そんなに驚くことじゃないな。

 ただ、エメちゃんも冒険者になっていたのには驚かされたね。

 ……いや、むしろそのほうがいいのか? グベルの目が届くわけだしな。

 なんて思っていると……


「いやぁ~アレスさん、俺も魔力操作を頑張ってはいるつもりなんですけど、お恥ずかしながら、魔法の技術はエメに先を越されてしまいました」

「え~そんなことないよぉ、攻撃魔法はお兄ちゃんのほうが上手でしょ? それに私、武器で戦うのは全然だもん!」

「ふむ……エメちゃんはもともと保有魔力量が多かったからな、ある程度仕方ない部分もあると思うぞ? それに、グベルも前に会ったときより、魔力の流れがだいぶ滑らかになっていて成果も出ているから、自信を持っていい」

「あっ、すいません、気を使わせてしまって。でも、アレスさんに褒めてもらえて嬉しいです」

「思ったままを言ったまでだ」


 しかしながら、エメちゃんの魔法はよくて武器がいまいちっていうのは、なんか俺と似たものを感じるな……

 まぁ、その辺はこれからの努力次第かつ、兄妹で補い合っていくって感じになるんだろうなぁ。


「おっと、すまんな、そろそろお前たちに魔法の説明をするとしよう。ああ、グベルとエメちゃんも時間があるなら復習がてら聞いていくといい、それに新しく知った技術とかもあるからな」

「へぇ、それは興味ありますね! 昼ちょっと過ぎから、ゼスさんの馬車を護衛する依頼があるんですけど、その待ち合わせの時間まで聞かせてもらいます」

「おう、ゼスにも暇なときに教えてやってくれ」

「任せてください!」

「さて、それじゃあ、一番大事な基本ともいえる魔力操作の説明から始めよう、グベルとエメちゃんはこの部分を復習のつもりで聞いてくれ」


 というわけで、合間合間にソーセージをかじりながら魔法の説明をした。

 これは自画自賛となってしまうが、いろんな人に魔法の話をしていたおかげで、かなり説明も上達してきているように思う。

 そしてお昼の時間という限られた時間の中で、いかに効率よく要点を伝えられるかという点にも意識を向けて話した。


「とまぁ、こんな感じだな。とはいえ、実際にやってみないと分からないだろうし、魔法はイメージや感覚でつかむ部分も多いからな、説明はこれぐらいでいいだろう」

「ま、魔力操作って……凄いんですね……」


 新人冒険者の少年少女たちが圧倒されているが、まぁ、それは今だけだろう。

 魔力操作を始めたら、きっとすぐヤミツキになるはずさ!


「アレスさん、そろそろ時間なので、俺たちはこれで失礼しますね」

「アレスお兄ちゃん、魔力交流をあとでお兄ちゃんとやってみるね!」

「おう! あとゼスにもよろしくな!!」

「はい、それでは」

「アレスお兄ちゃん、またね~」


 それと魔力交流だが、どんな感じかを体感してもらうためにエメちゃんと手を合わせたとき、グベルの顔から一瞬だけ感情が消えたのは見なかったことにしておこうと思う。

 ……まぁ、前世の妹がほかの男と手をつないでいる情景を目にしてしまったら、俺も似たような反応になりそうだしな。


「さて、薬草に魔力を込める実践の前に、一度トレルルスという錬金術師の店に行こうと思う」

「「「「「はい!」」」」」


 ああ、そうそう、新人冒険者の少年少女たちだが、男子3人女子2人の5人パーティーだ。

 ……将来的に男1人があぶれそうだが……ま、まぁ、余計なお世話だよな。

 そういえば、俺たちのパーティーも同じ構成だったか……

 それはともかくとして、トレルルスの店に移動。

 あと、なんでここに来たかというと、俺が勝手に薬草になりましたって言うより、専門家のお墨付きがあったほうがより信頼性も増すだろうし、頑張ればちゃんと薬草ができるって自信が持てるかなと思ったんだ。


「いらっしゃ~い……ってアレス君、今日は団体さんだねぇ」

「ああ、この5人に草への魔力込めを教えているのだが、専門家であるトレルルスにもちゃんとただの草が薬草になっていることを保証してもらおうと思ってな」

「なるほどねぇ、うん、いいよぉ」

「ありがとう……ああ、それと、ポーションをいつもの数頼む」

「まいどありだねぇ~」


 こうして、ただの草が薬草になっていることの確認とポーションの購入を済ませ、トレルルスの店を出る。

 まぁ、夕方また来ることになるとは思うがな。

 そして、人通りの少ない空き地の一角に移動中、リーダーっぽい子が話しかけてきた。


「……アレスさんほどの冒険者ともなれば、ポーションもたくさん必要になるんですね」

「ん? う~ん、それは人によるかもしれないな……俺の場合、お茶やジュースみたいな飲み物感覚でポーションを飲んでる部分もあるからなぁ」

「へ、へぇ……そうなんですか……」


 あ、若干引いてる。

 それはそれとして、空き地に着いたところで早速、魔力操作の練習から始める。

 また、最初のうちは俺が魔力交流で5人の魔力操作をアシストすることで、より感覚をつかみやすくした。

 そんな感じで魔力操作をしばらく続けたことで、5人も拙いながら魔力操作の感覚をものにしたようだ。

 うむ、感心感心。


「さて、それじゃあ草に魔力を込めてみようか」

「「「「「はいっ!!」」」」」

「うん、いい返事だ」


 ただ、この子たちの保有魔力量ではすぐ魔力を使い果たしてしまうので、俺が魔力交流で魔力を譲渡してあげることで練習を継続できるようにしている。

 これ、地味に俺にも魔力交流の練習になってて凄くいいね。

 そうして夕方近くまで、ひたすらただの草に魔力を込めるという作業を続けた。

 それにより、みんな最低限はできるようになった。

 とはいえ、今はまだ魔力が少ないから量産は難しいけどね。

 まぁ、魔力操作を続けていれば保有魔力量も増えていくし、スムーズに空気中の魔素を変換して魔力にもできるようになっていくだろう。

 あとは努力あるのみ!

 というわけで、もう一度トレルルスの店に行き、今日薬草にした草を売却。


「アレスさん、薬草の売却代金までもらってしまっていいんですか? 僕たち、アレスさんにもらってばっかりなのに……」

「ああ、いいぞ。それに今日は俺も学ぶことが多く、有意義な時間を過ごせたからな、むしろお前たちに感謝しているぐらいだ」


 なんか、5人の少年少女たちが感激しましたみたいな雰囲気でフルフルと震えている。

 しかしながら、これはお世辞でもなんでもなく、ガチ。

 今日だけでわりと魔力交流の練度が上がった気がするからね!


「ふふふ~僕としても、未来の優秀な錬金術師候補たちに会えて嬉しいねぇ~どうだい、君たち、錬金術に興味があったらいつでもおいでよ、いろいろ教えてあげるよぉ」

「「「「「えっ!?」」」」」

「ほう、トレルルスにも認められたようだぞ、よかったな!!」


 そうして5人はめまぐるしく動く状況の変化に驚きつつも、将来への期待感に表情をほころばせていた。

 俺もいつか、この少年少女たちが作ったポーションを飲む日が来るかもしれないな。

 ……あ、腹内アレス君がアップを始めたみたいだけど……まだ先だからね?

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