第160話 そいつはモグリに違いありません!!

 朝食を食べ終えたので、自室に戻ってきた。

 店が開くまでの時間、さて何をしようかな……

 ああ、そうか、ポーションを買うだけじゃなくて、薬草を売るのもいいな。

 そして、今は手持ちの薬草がないので、街の外に生えている草を適当に採集して、魔力を込めて売ろう。

 しかも! エリナ先生に魔力交流を教えてもらった今の俺なら、今までよりいい感じで魔力を込めることができるような気がするし!!

 よっしゃ! 俺はただの草に魔力を込めて薬草にするぞ、それも大量に!!

 そして俺の魔力を込める技術の向上に、きっとトレルルスも驚くことだろう。

 ふふふ、楽しみだなぁ。

 よし、そうと決まれば、冒険者スタイルに着替えて移動開始だ。


 そんなわけでやってきました、街の外。

 まずは森の中で、その辺に生えている草を適当に大量に採集。

 通りかかった冒険者が何をしているのかと不思議そうな顔をしていたが、気にしない。

 ……まぁ、教えを請うてくるような、殊勝な心掛けの者がいた場合には教えてやらんでもない。

 とまぁ、そんな上から目線なことをチラッと考えつつ、ある程度の量を採集できたので、森の中でほかの冒険者の邪魔にならなさそうな静かな場所に移動し、いざ魔力込め。

 ……よく考えたら、これって草相手の魔力交流みたいなもんだよな。

 とはいえ、草さんサイドから俺に魔力が送られてくることはないんだけどさ。

 ただ、草じゃないけど、ソレバ村で出会った泥遊び大好きっ子のカッツ君なら、土相手に相互作用的に魔力交流を成立させてそうな気がしちゃうけどね。

 なんとなくそれっぽいことを言っていたような気もするし。

 ……そう考えるとあの子、やはり地属性魔法の天才かもしれないな。

 さて、そんな考え事も一段落したところでそろそろ本格的に魔力込めに集中しますかね。

 草の魔力を最大限に感じ取って、それに合わせるんだ!

 ……しかしながら、当然といえば当然かもしれないが、人間とはやはり結構違うものだなと思わずにはいられないね。

 だが、感じさえつかめれば、あとはそれに合わせるだけ、大丈夫だ、やれる。

 そして、草の魔力許容量的にあとちょっとというところで、集中のレベルをもう一段階上げる。

 これまでだって、ここまではわりと簡単にできていたんだ。

 しかし、ここからはちょっとしたミスで枯らせてしまうのだ、慎重にいこう。

 そうして草の魔力との真剣な語り合いの末、ようやく草の魔力許容量すり切り一杯で止めることに成功した。


「……ふぅ、なかなかにタフな草の魔力との対話だった……」


 思わずそんな言葉が漏れてしまうほどに深く集中していたようだ。

 とか思っていたら、なんか新人冒険者って雰囲気の少年少女が数人寄ってきて、話しかけてきた。

 彼らの装備は部位ごとにチグハグで統一感に欠け、しかも中古ばっかりの中でたまに新品っぽいのが混ざっている。

 それから察するに、学園の生徒が野営研修前のモンスター狩りで放置していた下位モンスターの素材を回収して回っていた子たちの一部だろうと思われる。


「あの~さっきから、ただの草に向かって何かを念じていたみたいですけど、あれは何をしていたんですか?」


 ほほう、俺のあの姿を見て、「なんとなくキモいから避けとこう」とならずに声をかけてくるとは……

 ふふん、なかなか見込みのありそうな子たちじゃないか!

 いいねぇ、教えてあげようじゃないの!!


「あれは、ただの草に魔力を込めて薬草にしていたんだ」

「は!? え!? そんなことできるんですか!?」


 なんか少年少女たちみんな、初耳って顔でザワザワしている。

 ……アレス君、うそは言っていないからね、うそつきとか言わないでね?


「……あ、あの! それって、僕たちにもできますか!?」

「ふむ、そうだな……」


 そう聞かれたので、思案顔で魔力探知を発動させ、少年少女たちの魔力を探る。

 まぁ、当然のことながら、魔力操作を頑張ってもらう必要はあるだろうが、今の時点だと最下級の薬草1本ぐらいならギリギリなんとかなるかも? ってところかな。

 そう感じたままを、正直に伝えた。


「……そうですか」

「まぁ、中途半端に期待も失望もして欲しくなかったからな、俺の感じたままで答えさせてもらった」

「……あの、でも! 魔力操作を頑張ったらって言いましたよね!?」

「ああ、言った……なんだったら、教えようか?」

「ッ!! い、いいんですか!?」

「もちろん」


 一瞬、あのうさんくさい導き手のニヤニヤとした軽薄そうな顔が頭をよぎったが、関係ない。

 まぁ、ゼスやリッド君から始まって、既にいろんな人に魔力操作の素晴らしさを伝えてきたわけだからな、正直今更という感じもある。

 ああ、でも腹が減ってきたな……と腹内アレス君が言っているので、まずは昼飯にしよう。

 そしてついでだから、この少年少女たちにも奢ってやろう。


「そろそろ昼だし、理論的な部分は飯を食いながらするとして、実践は食後からにしよう。ああ、飯は俺の奢りだから気にするな」

「え! そんな、本当に、いいんですか!? 僕たち、なんにもお返しできるようなものを持っていないんですよ?」

「ああ、別にそういうのはどうでもいいんだ。ただ、そうだな……草に魔力を込めるのはもっと一般的になってもいいような気がするし、飯も大勢で食べたほうが美味いからな」

「ありがとうございます、アレスさん!!」

「ん? 俺のことを知っていたのか?」

「もちろんです! 学園都市の冒険者でアレスさんを知らない奴がいたら、そいつはモグリに違いありません!!」

「そ、そうか……」


 そして今まで話していたリーダーっぽい子の後ろで仲間の少年少女たちもウンウンとうなずいているので、たぶん、そういうことなのだろう。

 あと、さっきからずっとリーダーっぽい子とだけしか話していなかったのだが……もしかすると、有名人を前にして照れてただけって感じなのかな!?

 いやぁ、それだと逆にこっちが照れちゃうなぁ~

 とまぁ、そんなデレデレとした内心をクールという仮面で覆い隠し、いざ飯屋へ!

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