第8章 救国の剣聖女

第159話 言動一つ一つが心配になってくる

 今日は光の日であるが、学園はお休み。

 野営研修が終わって、今週いっぱいは休みが続くのさ。

 まぁ、休みの日だからといって、朝練をサボるわけにはいかない。

 というわけで、早速行くとしますかね!

 そしていつもどおりのコースには、いつもどおりにファティマがいるので、挨拶をする。


「よっ!」

「おはよう、元気が戻ったようね」

「ああ……お前にも世話をかけてしまったな」

「構わないわ……それに、あの小さな人間への復讐を止めたこと、今でもその判断は間違っていなかったと思っているけれど、あなたには辛い選択をさせてしまったから……それはごめんなさい」

「いや、お前が謝ることではない……むしろ、お前がフォローしてくれていなかったら、今頃俺はどうなっていたか分からないからな……」

「そうね……いくらあなたでも、王国そのものと戦うのは無理でしょうから、国外逃亡といったところかしら……でもあなたなら、案外どこででもそれなりにやっていけるかもしれないわね」

「ま、まぁ……正直なことを言えば、堅っ苦しい貴族社会の中よりは、冒険者のほうが向いていると思うからな……だからこそ卒業後は冒険者として旅に出ようと思っているし……」

「あら、それは面白そうね……私も行こうかしら、それにパルフェナやロイターたちを連れて行くのもいいわね」

「え!?」


 おいおいファティマさん、正気ですか?

 ソエラルタウト家当主に嫌われ過ぎて無関心とされているだろう俺はともかくとして、君らは家族に愛され、大事にされているのだろう?

 そんなの許されるわけないだろ。


「ふふっ、そんな心配そうな顔をしなくても大丈夫よ。私は前も言ったけれど、両親に自由を認められているし、パルフェナたちも後継者として決められているわけではないから、いくらでも進路を自由に決められる……むしろ、後継者争いにおいて強力なライバルがいなくなるわけだから、ほかの候補者たちから喜ばれるかもしれないわね」

「えぇ……」

「とはいえ、本格的に決まったわけでもないし、今はまだ素晴らしい選択肢の一つといったところかしら」


 そんなこと言ってファティマさん……顔は無表情なはずなのに、もう決めたって顔に書いてあるよ……

 おかしい……予定では孤独を愛するソロ冒険者としてクールに決めるはずだったのに……

 でもまぁ、こいつらとだったら……それはそれで面白い旅になるかもしれないって気はするから、アリといえばアリなのかなぁ……

 あれっ、実はコレ、漫画とかでよくあるような黒い背景に白文字で「あとになって、これが人生における大きな分岐点だったのだと悟ることになる」ってコマじゃない? 大丈夫!?


「それじゃあ、私はそろそろ戻るわね」

「……あ、ああ」


 人生の岐路について、心の中で冷や汗ダラダラな俺を気にすることなく、ファティマは涼しい顔で去って行った。

 ……おい、これも俺の導き手としての役割だったとか言うんじゃないだろうな?

 ……やべぇ、あのうさんくさい導き手のせいで、自分の言動一つ一つが心配になってくる。

 そうはいっても、そんなことばかり気にしていたら何も言えなくなるし、何もできなくなるぞ。

 くっそ! めんどくせぇ奴にめんどくせぇことを言われちまったもんだ!!

 ……冷静に、クールな思考を取り戻すんだ。

 まずは深呼吸……ふぅ……ふぅ……よし、とりあえず朝練の続きだ。

 こうして、少しばかりの不安を感じながらも朝練を終え、自室でシャワーを浴びる。

 余計な心配は汗と一緒に全て洗い流そう、それで心は晴れやかさ!

 そしてシャワーのあとはポーションをグビッと一本!

 ……と思ったが、ないんだった。

 やっぱ、ないとダメだな。

 よし、朝ご飯を食べて、店が開くぐらいの時間になったら、ササッと買いに行こう。

 いやまぁ、ポーション自体は学園の売店でも売ってるんだけどね。

 でもさ、トレルルスのポーションはほかのものとはひと味違うんだ。

 魔力操作等で自分自身、魔力に対する理解度が増すにつれ、それがよりよく分かる。

 そう思うと、ほかのものは選べないよ、たとえそれが最下級ポーションであったとしてもね。

 なんてちょっと意識高めなことを考えながら、食堂へ移動。

 ふむ、みんな元気に食事をしているね、結構結構。

 よっしゃ、腹内アレス君も空腹を訴えていることだし、いっぱい食べるぞぉ!!


「で? そっちのパーティーはどんなもんを集めたんだ?」

「いやぁ、こっちはお茶を飲んで、お菓子を食べてばっかのお茶会しかしてなかったからさ……たいして集めてないんだ」

「えぇ……マジかよ、それで大丈夫なのか?」

「まぁ、うちは代々文系だからさ! その辺はたぶん大丈夫! だと思う!!」

「うわぁ……そのカラ元気……心配になるわぁ」


 なるほど、みんな野営研修の思い出話に花を咲かせているんだな。

 そう思うとなんか、前世の修学旅行後のワイワイした感じを思い出すなぁ。

 高校時代の修学旅行で集まった班員たちは、みんなまぁまぁオタク趣味な奴が集まったからなぁ、聖地巡礼とか言って、作品縁の地を巡ったものだよ。

 まぁ、上手い具合に神社とかもあったから先生に怒られることもなかったからいいんだけどね。

 ……あ、よく考えたら俺って、そのものズバリな場所にいるのか!!

 そう思うと、なんか不思議な感慨だなぁ。

 そして、このゲームを愛する同好の士の皆様は羨ましがってくれるかな?

 ただ、そうはいっても異世界転生も思ったより難しいものなんだぜ? って教えてあげたいね。

 自分自身が異世界転生してみて、先輩諸兄がどれだけ上手いことやってのけていたのかってことがよく分かるよ。

 そんなリスペクトの念を改めて抱きながらの朝食となった。

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