第314話 序列が変動するかもしれない

 リィコさんが放った一撃への驚きから一段落したところで、今日はリィコさん1人なことを聞いてみることにした。


「そういえば、ほかのみなさんは一緒ではなかったのですか?」

「みんなは領内警備に出ていますね~私は非番だったので、アレス様に会いに来ちゃいました~」


 まあ、ソエラルタウト領は侯爵家の領地というだけあって、なかなかに広大だからね。

 休日が終われば早速、優秀な騎士や魔法士であるお姉さんたちも領内警備に出動というわけなのだろう。

 そこで、リィコさんが非番だったのは、たまたまの可能性もあるが、もしかしたら俺に対する配慮もあったかもしれないね。

 俺がお姉さんたちと親しくさせてもらっていることも周知の事実だろうし。

 なんにせよ、今日もリィコさんと会えた、そのことを喜ぶとしよう。


「なるほど、そうでしたか……ほかのみなさんとお会いできなくて寂しい気持ちもありますが、リィコさんが会いに来てくれて、とても嬉しく思います」

「そういってもらえると、私も嬉しいですね~」


 とまあ、そんな感じで言葉を交わしながら、朝練のため訓練場に移動する。

 もちろん、アレス付きの娘さんたちもついてきている。

 また、その娘さんたちをチラリと眺めてみたところ、先ほどのリィコさんの一撃を見てへこんでしまったのか、弱気な表情の娘さんがいる。

 それとは逆に、「負けねぇ!」っていう闘志に燃えた目をしている娘さんもいる。

 この闘志溢れる娘さんたちは期待できそうだなって気がしてくる。

 それから、意気消沈している娘さんたちがこれからどのような選択をしていくのかってところも注目したい。

 できることなら、気合いを入れ直して魔力操作等の修行に励んで、再チャレンジしてもらいたいところだ。

 そんなことを思いつつ訓練場に到着し、早速ランニング開始である。


「アレス様! 私たちもお供いたします!!」

「おう、そうか! ならばついてこい!!」

「はい!!」


 闘志溢れる娘さんたちが一緒に走ると名乗りを上げた……メイド服のままでね。

 それはそれとして、反対に意気消沈している娘さんたちは応援に回るようだ。

 そうして走ってみた感じ、やはりもともと体を動かすことに力点を置いていなかったためか、娘さんたちのペースはそんなに速くないし、魔力操作による体力回復もあまり効率がよくなさそうだった。

 そこで、せっかく頑張る気になった娘さんたちの気持ちを折らないようにするため、今日のところは走るペースを彼女たちに合わせることにした。


「アレス様……申し訳……ありません」

「気にするな、俺がダイエットを始めたときなんか、走るどころか歩くことにすら苦労したのだからな。それに比べたら、お前たちはよくやっている! 自信を持つがいい!!」


「アレス様の……お心遣いに……感謝……いたします!」

「俺のほうこそ、お前たちの頑張る姿に元気をもらっているぐらいだ! そのことに礼をいわせてもらおう、ありがとう!!」

「アレス様……」


 こうして、疲労によりヘトヘトな娘さんたちであったが、その顔色に輝きを取り戻し始めた。


「よし、あともう少しだ! 最後まで気合いを入れていくぞ!!」

「はい!」

「アレス様と一緒だと~頑張る気力が湧いてきますからね~」

「いえいえ、その気力はみなさん自身で発揮しているものですよ」

「うふふ~今はそういうことにしておきますね~」


 こんな感じで、1時間ほどの早朝ランニングに取り組んだのだった。

 そして、気合いで最後まで走り抜いた娘さんたちだったが、さすがに疲れ切っていたので、トレルルス謹製のポーションを配ることにした。

 フッ、これはよく効くぞぉ~


「あの、アレス様……私たちは走っておりませんが……」

「お前たちも応援で喉を酷使していただろう? だから飲むといい……まあ、俺が信頼している錬金術師が作ったポーションではあるが、等級は最下級でさほど高いものでもないからな、遠慮する必要もない」

「分かりました……ありがたく、頂戴いたします」

「おう!」


 というわけで、みんなでグイっと一本いっといた。

 そして、体力回復を済ませた闘志溢れる娘さんたちはササッと浄化や清潔の魔法を唱えていた。

 ふむ、そういった魔法はキチンと習得しているあたり、筋は悪くないのだろう。

 なんて思いつつ俺も浄化の魔法を自分にかけた上で、自室に戻ってさらにシャワーを浴びる。

 このとき、娘さんたちに「浄化の魔法をかけたんじゃないの……?」って顔をされてしまったが……これはまあ、クセになっているからね、その辺のところを君らにも理解しておいてもらいたいって感じ。

 てな具合に身嗜みを整えて、朝ご飯を食べに食堂へ向かう。

 ちなみに、リィコさんはというと訓練場から戻る際に、自分の持ち場へと戻って行った。

 それから、食堂へ移動するタイミングでギドが現れ、使用人としての業務を開始する。

 それにしても、ギドよ……お前は今のところアレス付き筆頭という地位に収まっているようだが、このまま娘さんたちがメキメキと実力を伸ばしていけば、近々その序列が変動するかもしれないが、どうする?

 娘さんたちの会話の中でも、「まずはギドを追い抜くことから始めよう」みたいな意見も出ていたぐらいだしな。

 さて、これからどうなることやら……とにかくまずは、君らが魔力操作にしっかりと取り組んでくれることを期待するばかりだね。

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