第315話 その意気やよし!

 朝食後、お茶を飲みながら義母上たちとしばしくつろいだあと、また訓練場に向かった。

 今日の午前中は、ガッチリと鍛錬に取り組もうかなって思ったのさ。

 まあ、昨日のお姉さんたちや兄上との模擬戦もいい刺激になったからね。

 そして、部屋の掃除や洗濯といった通常業務を割り当てられていないアレス付きの使用人たちもついてきている。

 そこで今回は、娘さんたちだけじゃなく男子諸君も一緒だ。

 ……男子といいつつ、みんなアレス君より年上だけどね。

 加えてその男子諸君だが、とても気合が入っている。


「アレス様! 我々もともに訓練をさせてくださいませ!!」

「ソエラルタウト家は武門の家柄! たとえ身の回りの世話をする使用人であろうと武人たれというアレス様のお気持ちに、私は感服いたしました!!」

「恥ずかしながら私は学園卒業後、いつも何かが足りないと感じながら日々を過ごしていましたが、その足りないものがようやく分かりました!!」


 みたいなことを口々に熱意のこもった瞳で語っている。

 たぶん、先ほどの娘さんたちに触発されたってところだろうね。

 それに、どういう情報の伝達のされ方をしたのかは知らないけど、早速「アレス付きの使用人は強さで序列が変わる」みたいな風潮になってきているっぽいし。

 まあ、なんにせよいい傾向じゃないか。

 いっちょ、みんなで強くなろうぜ!


「うむ、その意気やよし!」


 こうして、アレス付きの使用人たちと一緒に訓練を始めることになった。

 まずは、ウォーミングアップがてら訓練場内をランニング。

 その際、並行して魔力操作もしっかりとおこなうことを強く勧めた。

 まあ、彼らはもともと戦闘系の職種じゃないだけに、魔力操作の腕前もホント最低限っていう感じだった。

 そのため、これからの頑張りに期待したいといったところだ。

 とはいえ、まあまあな練度の者も何人かはいて、その1人がギドだったりする。

 なるほどね、筆頭の座は伊達じゃないというわけだ。

 ギドを見ながらそんなことを考えていると……


「私たちのような専属の使用人こそが、アレス様をお守りする最後の盾となるのではないかと思いましたので、私なりに自主訓練を積んでおりました」

「ほう、なかなか殊勝な心掛けだな」

「恐れ入ります」


 そんなギドの言葉を聞いて、周囲は悔しさを滲ませている。

 うん、そのライバル心が君らを次のステージへ進ませてくれるだろう、頑張れ!

 そして体が温まってきたところで、お次は剣術だ。

 しかしながら、男子諸君はすんなり剣術の訓練を始めることができたのだが、女子諸君はまごついている者多数。

 普段、ファティマやパルフェナを見ているから勘違いしてしまいがちだが、どっちかというと女子はお茶会とかそういった活動のほうがメインだろうからね、仕方ないのかもしれない。


「あの、アレス様……もしよろしければ、わたくしに剣術を教えてはいただけませんか?」

「あっ、私もっ! お願いしますっ!!」

「私も、お願いしたいです」

「……よし、いいだろう」


 一瞬、「男子どもに教えてもらえ」って返事しようかと思った。

 しかし、これを機会にレミリネ流剣術を教え広めるのもアリだろうと思い直し、オッケーしたのだ。

 こうして急遽、レミリネ流剣術の指導を開始する。

 そんな様子を見ていた1人の男子から、質問がきた。


「昨日のセス様との模擬戦から気になっていたのですが、アレス様がお使いの剣術は王国式ではありませんよね?」

「ああ、そうだ……俺が使っている剣術は『レミリネ流』という」

「レミリネ流……」


 ふむ、王国式との違いに気付く奴がいたか。

 まあ、多少なりとも剣術を身に付けているならば、気付いてもおかしくはないだろう。

 そうして、レミリネ流という未知の剣術に興味を持った男子諸君も加わることになった。

 ただ、男子諸君の場合は王国式を基本としているだろうから、剣術の見聞を広めるという意味合いのほうが強いのかもしれない。

 それはそれとして以前、夢の中でレミリネ師匠の剣術教室にも参加したんだった。

 ああいう感じを参考に教えてみょうかな。

 そしてさらに、あとでレミリネ師匠についてもみんなに語って聞かせよう。

 そうすれば、レミリネ師匠がいろんな人の心の中で生き続けることになるだろうから。

 また、この剣術指導という行為であるが、リッド君に魔法を教えたときから感じていたが、やっぱり自分自身にとっても実に学ぶところの多いものだね。


「よし、剣術はこれぐらいにして、次は魔力交流といこうか……というわけで、適当に近くにいる奴と手を合わせろ」


 ここで、モジモジしながらためらいがちに手を合わせる男女がチラホラといる。

 まあね、俺もエリナ先生と初めて魔力交流をしたときはドッキドキだったし、今でもお姉さんと魔力交流をするときは意識しちゃうもんね。

 だから、君らの気持ちは俺なりに理解はできるつもりだ。

 なんだったら、新しく君らのストーリーを始めちゃうのもいいんじゃない? 応援するよ!

 そんなこんなで、お昼までの残りの時間は魔力交流をして過ごしたのだった。

 その後はお決まりのシャワーを浴び、お昼をいただきに食堂へ向かう。

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