第316話 この調子で、まとまるのか?
「午後からは街で買い物をしたり、街の外に広がる森でモンスター狩りなんかをしようかと考えております」
「そう……気を付けて行くのよ」
「はい! 義母上に心配をかけないよう、気を引き締めて行ってまいります!!」
「まあ、アレスの実力なら心配ないってことは、昨日の模擬戦で僕自身も実感できたことだし、森の間引きも定期的におこなっているから大丈夫だろう……でも、奥まで行けばそれなりに強いモンスターも出てくるし、油断して思わぬケガをしないよう、くれぐれも慎重にね」
「兄上の忠告、しかと心に刻んでおきます!」
「ギドたちも、アレス君のことをよろしく頼むわね」
「お任せください、マイネ様」
そうか、そうだった……なんとなく学園都市にいた頃の感覚でソロ活動をする気になってたけど、ここはアレス君の実家だもんな。
とはいえ、あんまり仰々しく護衛を用意するっていわれなかっただけマシかもしれない。
いや、お姉さんと一緒なら嬉しいって気持ちはもちろんあるけど、余計な仕事を増やすのは申し訳ないって気もしてくるからね。
ただし、兄上が目配せをした使用人の1人が、スゥーっと音もなく下がっていったので、もしかしたら用意されるかもしれないけどさ。
とまあ、こんな感じで昼食を終え、自室に戻って冒険者モードに着替える。
そしてこのとき広間から、アレス付きの使用人たちのうち、誰が俺についてくるかという熱い激論が繰り広げられているのが聞こえてくる。
「マイネ様直々にお声がけいただきましたし……あまりこういう物言いはしたくありませんが、私はアレス様付きの筆頭ですからね、当然枠の一つはいただきます」
「仕方ありませんわね……ならば、わたくしがもう一つの枠を頂戴いたしましょう」
「ぶっぶ~それは無理~」
「そうそう! アレス様が『お忍びで行く』っていってたんだから、アンタみたいな貴族感を隠せない子は無理ってもんよ!!」
そう、あくまでも今日は冒険者として活動しようと思っているからね。
だから、装飾過多な格好とかをされたら困るのである。
「何をおっしゃっているのかしら? わたくしの平民力を見くびらないでもらいたいものだわ」
「なんだよ、その平民力って……」
「わたくしの実家は辺境の士爵家なこともあって、地元の友達は皆『平民』ですもの……あなたたちよりわたくしのほうがより『本物』を知っているということですわ!」
「フン! そんなことをいうのなら、俺の初恋は花屋の娘だ!!」
「アンタの初恋なんて、誰も聞いてないっつーの」
「なんだったら、今からでもその子を口説きに行けばいいじゃん、アレス様とのお出かけ権を私に譲ってさ!」
さて、装備品の装着も済んで、そろそろ準備が整うってところなんだが、話が脱線しつつ盛り上がってきているな……
この調子で、まとまるのか?
「……そもそもみんな、装備は準備できているの? ちなみに、私は既に準備万端」
「あっ!?」
「しまった!!」
「私も、あなたたちが無駄なおしゃべりに興じているあいだに準備を整えさせてもらったわ!」
「くっ、出遅れてしまった……」
「どうやら決まりですね、今日のところは私とサナとノムルの3人がアレス様のお供をいたしましょう」
「それがいい」
「ま、当然よね!」
このまま話が平行線のままかと思っていたが、意外とアッサリまとまったみたいだ。
そんじゃあ、俺も準備ができたし、そろそろ広間に向かうか。
そうして、広間に集まっている使用人たちの中で、落ち着いた雰囲気の装備に身を包んだ3人に意識を向ける。
よし、あれなら華美になり過ぎてもいないし、ちょうどいい。
「ふむ、見たところお前たち3人がついてくるようだな?」
「そのとおりでございます」
「モンスターを、いっぱい狩ります」
「ノムルです! アレス様の足手まといにならないよう、頑張ります!!」
そういえばこの3人……午前中の訓練で見たとき、魔力操作の練度がまあまあだったメンツだな。
これなら、一応安全に配慮するつもりではあるが、そこまで神経質になる必要もなさそうなのでよかった。
「それじゃあ、行くか……ほかの者は各自の仕事に戻れ」
「かしこまりました」
こうして、ようやく出発である。
そして、街で買い物ということで具体的に何を買うのかって話だが……もちろん、エリナ先生へのお土産だ!
それから、うちのパーティーや、これから模擬戦で絡みも多くなりそうなヴィーンのパーティーに……
ああ、そうそう、ソレバ村にも寄るつもりだし、リッド君とナミルさん親子や村の子供たちにも用意しておこう。
あとはそうだな、学園都市で日頃から付き合いのある人のぶんも何かあったほうがいいな。
「というわけで、ギドよ……おすすめの茶葉専門店を知らんか?」
「それでしたら、こちらです」
そうしてギドの案内の下、茶葉専門店に向かう。
「ここか……うむ、なかなかオシャレでよさそうな店じゃないか」
「恐れ入ります」
そして、美味しそうなお茶の匂い漂う店内に足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ~」
「どうも、こんにちは。お土産として茶葉を贈りたいと考えているのですが、ソエラルタウト領の特産か……もしくは、こちらの店でおすすめのものは何かありませんか?」
「そうですね~こちらの紅茶は、ソエラルタウト領で採れた茶葉を使用していますので、ご希望に沿うのではないでしょうか」
「ほほう、紅茶ですか、とても美味しそうだ……では、それをいただきましょう」
「ありがとうございます」
てな具合のやりとりを経て、紅茶を購入。
また、結構多めに買ったからということもあるだろうが、紅茶のシフォンケーキもオマケしてもらった。
これには、腹内アレス君も大喜び。
ありがとうございます、お姉さん!
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