第317話 おそろい

 よし、お土産用の茶葉やお菓子も買ったことだし、これでとありあえず「帰省してきたんだな」っていう格好はつくハズだ。

 あとは学園都市へ移動する途中で何かいいものを見つけたら、プラスアルファで購入してエリナ先生に贈るとしよう。

 なんてお土産の準備をしていることから、「もう学園都市に戻るの?」って思われるかもしれないが、もうしばらくソエラルタウト領に滞在するつもりだ。

 ただ、時間に余裕がある今、忘れないうちに買っておこうと思っただけさ。

 それに、異世界ファンタジーらしく時間停止仕様になっているマジックバッグに入れておけば、保存にも問題ないし。

 まあ、もともとソエラルタウト家の屋敷で特別やりたいことがあったわけじゃないからね、マヌケ族を始末さえしてしまえば、いつでも出発することができるだろう。

 しかしながら、そのマヌケ族が見当たらん!

 アレス付きの使用人の中に紛れ込んでいるかと思っていたのだが、兄上から次期侯爵の地位を奪え的な甘言を弄してくるような奴も今のところいないし。

 なんというか、使用人たちの態度からは、言葉で俺が暴発するように誘導しようって意図も感じられないのだ。

 そしてどっちかというと、俺に認められたいってだけのような気がする。

 筆頭というポジション的に一番怪しそうなギドも、おとなしく俺に付き従っているだけだし。

 そんなわけで、こうやって屋敷の外をチョロつけば、マヌケ族サイドが何かしらのアクションを起こしてくれないだろうかっていう期待をちょっとしているんだ。

 まあ、望み薄ではあるだろうけどね。

 そんでアレス派の中にマヌケ族がいないとすれば、あとはクソ親父派の中かもしれない。

 義母上や兄上夫婦に付いている使用人たちが俺に向けてくる意識というか魔力の波長みたいなものは、比較的良好だしさ。

 とりあえず、このまま何もなさそうなら、クソ親父派の使用人を調べてみるとするか。

 そんなことをツラツラと考えているうちに、街の外に広がる森に到着。

 ちなみに、やはりというべきか……屋敷を出た辺りから、ソエラルタウト家から護衛が2人ほど隠形の魔法で姿を隠しながらついてきているみたいだ。

 隠形の魔法は自分でも時々使うし……何より、この上なく痛い目を見せられているからね、見逃さないように気を付けているんだ。

 だからこそ、護衛がついてきていることにも気付けた。

 とはいえ、昼食時の兄上の態度からも予想がついていたというのもある。

 でもまあ、彼らも仕事だろうからね、「邪魔だから帰れ」みたいなことをいって困らせるつもりはない。


「さて、これから森に入るわけだが、心の準備はできているか?」

「ええ、もちろんです」

「大丈夫」

「私も、いつでもいけるわ」

「よし、いいだろう」


 こうして森の中に入っていく。

 ちなみに、お忍びということもあって、俺に対してあまり敬語を使わないよう指示したら、サナとノムルは割とスンナリ普段どおりの言葉遣いになった。

 だが、ギドはどうしても丁寧めな話し方になってしまうみたい……まあ、アレス付きの使用人として年季が違うからね、仕方ないかもしれない。

 それから、各自の使用武器としては、ギドが一般的な剣、サナがナイフの二刀流、ノムルは先端にゴツめな鉄球のくっついてるメイス。

 そんで俺の使用武器は、ミキオ君とミキジ君のコンビ。


「アレス君! 私たち、使用武器がおそろいだね!!」

「お、おう……」

「全然違う、近接武器の二刀流として考えれば、むしろ私のほうがおそろい」

「はぁ? 形状が一緒でしょ……えいっ!」

「大きさが全然違う」


 なんか、どっちが俺の武器と一緒かという論争をしながらモンスターを狩っていく女子2人。

 そんな2人が倒したモンスターの死体を、ギドは苦笑いを浮かべながら回収していく。

 ま、まあ、これも一種の分担ってやつかな……

 そして、ここはまだ森の浅いところとはいえ、あれだけ躊躇なくモンスターをサクサク狩っていけるのは、なかなかいい感じといえるだろう。


「でも、こうしてると学園時代を思い出す……わねっ!」

「……撲殺令嬢ノムル」

「ちょっとぉ~恥ずかしいからそれはいわないでって……ばぁっ!」

「ノムルの戦い方は雑で無駄が多過ぎる、だからすぐバテる……そして、最悪なことに男子たちからは恐れられ、モテなくなった」

「ひっど~あれは男子たちの見る目がなかっただけ……よっ!」

「それはなんとでもいえる……そして既に手遅れにもかかわらず『モテなくなるから』といって封印したメイスを、再びノムルが握ることになるとは……実に面白い」

「まあね……私も、このメイスはあのままずっとマジックバッグに入ったまんまになっているかなって思って……たっ!」


 放っておくと、2人はどんどん思い出話に花を咲かせていく……モンスターを狩りながら。

 そして、なおも苦笑いを浮かべながら、回収を続けるギド。

 そこで俺はというと、魔力探知で周囲を警戒しているのみ。

 いやまあ、マヌケ族の反応を見たかったというのもあるから、そっちに意識を多めに割くことができてよかったともいえるかもしれないけどね。

 ただし、期待した反応はない……ハズレかな。

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