第313話 メッセージ
「またこの壁ぇ~?」
「さすがにガードが堅過ぎでしょ……」
「……私、思ったんだけど、これはアレス様からのメッセージなんじゃない?」
「はぁ? メッセージってぇ?」
今日も朝から小娘どもがガヤガヤしている。
そんな声によって俺の意識も既に起こされてはいるのだが、まだ目はつぶったまま。
いや、なんかね、聞こえてくる小娘どもの会話を聞いていると、この先の展開がどうなるんだろうって気がしてさ。
だって、俺のメッセージだよ? 何それ? って思わない?
というわけで、寝たフリを継続しているのだ。
「アレス様がお帰りになってから今までの言動……特に昨日のセス様やあの人たちとの模擬戦を勘案してみるとさ……アレス様は『力』を求めている気がする」
「力って……そりゃ、ソエラルタウト家は武系なんだから、そんなん当たり前じゃん?」
「そうそう、それに学園でも『強さこそ全て』みたいな感じの男子もいっぱいいたんだから、フッツ―のことでしょ?」
「う~ん、それもそうなんだけど、それだけじゃなくて……力を持つことを私たちにも求めている気がするのよね」
「えぇ!?」
「それって……つまり?」
「きっとアレス様は『俺の寵愛が欲しければ、力を示せ』そういいたいのよ」
「なんですって!?」
「そんなぁ、文系出身のか弱い私にそんなの無理ぃ~」
「……あ、終わった」
いや、別にそんなこといってないからね?
思いっきり勘違いだからね?
「ま、まあ……私はもともとそんな期待してなかったし? 今のままおとなしく使用人をしてればいいし?」
「いいえ……力を示すことができなければ、そのうちアレス様付きを外されるかもしれないわ」
「そんな、ウソでしょ……」
「じゃあ、どうすればいいっていうのよ!?」
「だから、いったでしょ……力を示すのよ」
「力を……」
「……示す?」
「でも……どうやって?」
なんというか、話が妙な盛りを持ち始めてきたな。
それで、どのように力を示してくれるというのだろうか、実に興味深い。
「この防壁魔法を突破するのよ! そして、この壁を越えた先にはアレス様の寵愛が待っている!!」
「えぇ……」
「……これを?」
「はわわ」
「そんなん……無理に決まってんじゃん」
「無理かどうかなんて関係ない! それがアレス様の求めているものなのだから……あなたたちだって、学園を卒業するために最低限の魔法は習ったはずでしょ? だったら、挑戦するべきよ!!」
「そんなこと……本当にできるのかな?」
「でも、やんなきゃ外されちゃうのかぁ……」
「……うっしゃぁ! やったろうじゃん、諦めたザコは帰んな! そんで、この壁を突破してアレス様の寵愛を得たアタイを遠くから羨んでろってんだ!!」
「なっ!? 別に諦めたなんていってないし!!」
「誰一人欠けても駄目……私たち個人の力では、どうやったってこの防壁魔法を打ち破ることはできない……だからこそ、全員で協力して一点突破を狙うべき」
「そうか! 一点に集中すれば、もしかして!?」
「なるほど、やってみる価値はありそう」
「……あんまり自信ないけど……私もがんばる」
「あ~あ、攻撃魔法をまともに使うのなんて、卒業以来久しぶりなんだけどな~まっ、仕方ないか」
ふむ、俺の障壁魔法に挑戦することで意見が一致したようだね。
そういえば俺も、不注意で障壁魔法に閉じ込められて、自力で突破したんだった。
あのときはミキオ君の蹂躙モードで1時間ぐらいガリガリやってようやくって感じだったっけ、懐かしいなぁ。
とはいえ、それだけの防御力を誇る俺の障壁魔法だ、君たちに破ることができるかな?
「みんな、準備はいい? 狙いはココよ、それじゃあ……いくわよ!!」
「うっしゃぁ!!」
「がんばるっ!」
「そ~れっ!」
「はぁ~しゃぁない」
………………
…………
……
こうして、挑戦者たちの戦いが始まりを告げたのだった。
……あっ! やべぇ、起きるタイミングはどうしよう?
このまま挑戦者たちが障壁魔法を突破するのを待つのか?
いや、待つにしても、本当に突破できるのか?
できたとして何時間かかるんだ?
う~む……仕方ないから、ある程度のところで俺のほうから障壁魔法を弱めてやるか?
それで、挑戦者たちにちょっとした成功体験をプレゼントするっていうのはどうだ?
ああ、でも、その場合「なんだ、防壁魔法かと思ったら、意外と脆い薄壁魔法じゃん」とか思われちゃうかもしれないな。
この屋敷内の一部の奴から俺は「魔力の化け物」と呼ばれているらしいからな、そんな俺が魔法で舐められるわけにはいかんだろう。
さて、どうしたもんかな……
「あらら~今日のアレス様は~珍しくお寝坊さんですか~?」
……!?
この声は、リィコさん!!
よっしゃ! 起きるタイミングはここだな!!
「……おはようございます、リィコさん」
「おはようございます~」
そして別な方向に視線を向けてみると……やや慌てた様子で整列をしている挑戦者たちがいる。
まあ、頑張った彼女たちにも労いの言葉をひとつぐらいは贈るとするか。
でも、俺って今まで寝てたことになってるんだよな。
そして、彼女たちのストーリーにも合わせたほうがよさそうだし……
「おはようございます、アレス様!」
「おはよう……そして、ようやく挑戦を始めたようだな……まあ、俺の障壁魔法を破るにはまだまだだが、最初にしてはよく頑張ったといえるだろう」
「お褒めの言葉をいただき、恐悦至極にございます!!」
よし、これでなんとか上手く話がつながった気がする。
「挑戦って~これのことですか~?」
「はい、そうです」
そこで、リィコさんが俺の障壁魔法をコツンコツンと手の甲でノックする。
ちなみに、リィコさんがベッドの周りに障壁魔法が展開されていたことを知らなかったのは、学園都市からの移動の際に俺が魔纏しか使っていなかったからだ。
「面白そうなので~私も挑戦してみますね~」
「分かりました」
そうして構えを取り、拳に魔力を集中するリィコさん。
「いきますね~」
「どうぞ」
ドゴォ! という効果音とともに、強烈な突きが俺の障壁魔法に炸裂した。
「……う~ん、かなり本気だったんですけど、挑戦失敗でしたか~残念ですね~」
とはいうものの、俺の障壁魔法はリィコさんの拳の形にへこまされている。
ただ、へこんでいるだけで破壊されたわけではない。
それでも、やはりもう少し魔力を込めて強度を高めたほうがいいかもしれんね……野営のときとかは特に。
「なんて威力なの……」
「信じ……られない……」
「はわわ」
「くっ……」
そして、リィコさんの一撃を見て、挑戦者たる娘たちもワナワナさせられていたのだった……
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