第393話 その線

「そうだったのか、俺はスリングショットを撃つとき眼に魔力を集中させていたのか……知らなかったな」

「やはり、無意識だったか」


 そうかなって思って話してみたら、やっぱりだった。


「最初は遊びで子供の頃からスリングショットに慣れ親しんできて、いつしか狙っているうちになんとなく『ここが急所』っていうポイントを感じ取れるようになっていたのだが……これは経験を積むことで勘が鍛えられて、誰でもできるようになることだと思っていたよ」

「確かに、そういった経験によって培われる部分は大いにあるのだろうな」


 気が向いたのか、ここでギドも話に加わってきた。


「そうですね……誰かに教えられることなく、自力でその域に到達したというのは才能といえるかもしれませんね」

「えっ! 俺に才能!? そういわれるとちょっと照れてしまうなぁ~」

「それだけ凄いことなんだから、誇っていいことだと思うぞ」

「はい、私もそう思います。そして、今回そのことを知ったのですから、これを機会に意識的にその能力を磨いてみてはいかがでしょう?」

「磨く? まあ、これからも猟は続けるわけだし、必然的に能力を磨いていくことにはなると思うが……意識的にってどうやるんだ?」

「フッ、それは決まっている……『魔力操作』だ!」

「魔力操作ぁ? う~ん、『魔力』って聞いて、もしかしたらとうすうす察するものがあったけど、やっぱりか……」

「まあ、みんな最初はそういうんだ……でも、ゲイントの場合はたとえ無意識でも既に、眼に魔力を集中させることはできているのだから、それを意識的にやるだけだ……できれば全身でな。それに、魔力操作で空気中の魔素を取り込んで体内で魔力に変換できるようになると、今みたいにいちいちセーフティーゾーンに戻って回復する必要がなくなって、スライムを狩る効率も上がるんじゃないか?」

「スライムを狩る効率が上がる!? そうか、そうすれば上級ポーションが手に入る確率も上がるのか!!」

「ああ、そのとおりだ」

「これは、やらないわけにはいきませんね?」

「そうだ、全面的に大賛成だ! よし、俺は魔力操作をやるぞォ!!」

「うむ、その意気だ!」

「………………またひとり、坊ちゃまは運命をお変えになられましたね」


 ギドがボソッと小声で独り言をつぶやく……聞こえてはいるんだけど、あえて黙っておこう。

 しかしながら今回は、ギドも率先して話の方向を魔力操作に向かわせていたように感じるんだけどな。


「……アレス様は男性の方とばかり仲良くなられるように思われるのですが、あなたたちはいかがお考えかしら?」

「確かに……雪山でも、男子とばっかり遊んでたよね?」

「アレス様はまだ、そういう年頃なのかもしれない」

「……これは由々しき事態かもしれませんわね?」

「でも、女好きっていうのも、それはそれで困るんじゃない?」

「……いや、今思い出したけど、あの人たちみたいな強い女には関心を示していたから、決して女に興味がないというわけではなさそう」

「そういえば、そうでしたわね……」

「そっか! それじゃあやっぱり、私たちが目指すべきは強い女ってわけだね!!」

「間違いない」


 ……3人娘のほうも少し離れたところでヒソヒソとアホみたいな話し合いをしている。

 俺は聞いてないフリをしているだけで、難聴系というわけじゃないからな?

 まあ、それはともかくとして、ここで少し魔力操作の練習をやっておいた。

 そしてこの際、魔力交流も併せてやっておくことで、身体の中を魔力が流れる感じをより一層体感してもらった。


「なるほど、こういう感じか。魔力の扱いに慣れたら、今より無駄なく狙いを定められるようになるかもしれないな……それに、いくらかゴムを引くのも楽になったかもしれない」

「全身に魔力を巡らせると、そういう恩恵もあるということさ」

「これなら、もう少し上の階のスライムも狙えるかもしれないな……ああ、でも、今はまだ安全地帯が近くにあったほうが安心ではあるから、もう少し先になるかもしれないな」

「ああ、無理は禁物だ。そしてソロでは厳しいと思うなら、スリングショットでスライムを狩る仲間を作ってみるのもアリかもしれないぞ?」

「それも案としてはいいかもしれないが……果たして何人スライム狩りに興味を持ってくれるかってところな気もする」

「まあなぁ……スライムダンジョンは渋くて割に合わないっていうのがこの街の共通認識みたいだもんな」

「そのとおり……だけど、街の住人だけでスライムダンジョンを上手く間引いて管理できるようになれば、領軍が出動する必要もなくなって、そのぶん税金が安くなるかもしれない……その線で街のみんなに話をしてみるのはいいかもしれない」


 確かに、軍を動かすっていうのは金がかかるだろうからな。

 それがなくなるのだとすれば、税金が安くなる可能性はあるかもしれない……領主によるだろうが。

 また、場合によっては演習目的でスライムダンジョンを使っている、なんていう可能性もあるからな……そこまでいくとなんともいえないね。

 でもまあ、なんにせよ今みたいにスライムに怯えて暮らすっていうよりはマシだろう。

 そう考えれば、この街の住人たちがスライム狩りに興味を持ってくれればいいなぁって思ったりなんかしちゃうね。

 まあ、余計なお世話だろうけど。

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