第686話 じれったさを感じてしまうのは仕方ない

「フンッ!」

「フッ! ハァッ! ……ツッ!!」

『ロイター選手の突きを躱し、シュウ選手! 大きく距離を詰め、一撃を叩き込もうとしましたが……すかさずロイター選手も後方に跳び、さらにファイヤーウォールを展開して追撃を防ぎます!! いや、それだけでは終わりません! ファイヤーウォールから次々とファイヤーアローが射出されます!!』

『あれほど巧みに火属性の魔法を使いこなすとは……さすがロイターさんですね』

『しかしながら、シュウ選手も負けてはいません! 次々と飛んでくるファイヤーアローを見事に打ち落としてしていきます!!』

『まさに正確無比とでも形容すべきシュウさんの対応力ですね……あの一瞬でもタイミングがずれたら、あとはもう永遠に被弾し続けるほかないでしょう……』


 ロイターのファイヤーアローは、その一本一本が勝負を決められるだけの威力を秘めているものだ。

 そんなファイヤーアローを徒手で打ち落としていく……それだけでも、シュウの防御能力の高さが分かろうというもの。


「ロイターのファイヤーウォール……なんていうか、攻防一体って感じでイケてるよな……」

「うん、見た目のカッコよさはピカイチだね!」

「俺もマネして、今度練習してみっかな……?」

「いいんじゃない? そうやってほかの人の技術を学ぶことも、この武闘大会の目的だろうしさ」

「そうだよな! よっしゃ、あのファイヤーウォールを使いこなせるようになって……そんでもって、俺もロイターに!!」

「……ま、まあ……目指すのはね……うん、人それぞれ自由だし……?」

「おいおい、無責任なこといってやるなよ……技術はともかく、ロイターになるとか無謀過ぎるって……」

「ああ、顔なんかは特にな……」


 う~ん……前世のことを思えば、この世界の男もみんなイケメンだと思うんだけどなぁ……

 まあ、俺は未だにこの世界の美の基準をハッキリ理解できていないからっていうのもあるんだろうけどさ……

 とはいえ、その辺の奴よりロイターのほうが強いオーラを放っているっていうのは、なんとなく感じるものではあるけどね!


「きぃ~っ! あのメガネ男ったら! さっさとロイター様に屈しなさいよね!!」

「まったく……よく粘るものねぇ……」

「どんどん行っけぇ! ロイター様!!」

「貫け! ファイヤーアロー!!」

「もう! 私のハートは撃ち抜かれているけれどね!!」

「……はぁ? あなたのハートがどうなっていようと、知ったこっちゃないわよ!!」

「とりあえず……ポーションでもかけとけば?」

「ああ、それはいいかもしれないわね? そしたら、ついでにささやかなところも多少は変わるかもしれないし?」

「いやいや、ケガや病気でささやかなわけじゃないんだから……さすがのポーションでも無理でしょ……」

「ふふん! あなたたち、分かってないわねぇ?」

「分かってない……ですって?」

「さて、何を言い出すのかしら……?」

「なんというか……頭の中までささやかになっていなければいいのだけれど……」

「そのときは……頭にもポーションをかけとく?」

「それいい!」

「ま、それはそれとして……ウチらは何を分かっていないっていうの?」

「ふふっ! それはね……答えはファティマさんに在りよ!!」

「えぇと……ファティ……マ?」

「「「……あっ!!」」」

「ふっふっふっ……ようやくあなたたちも気付いたようね? そう! このささやかさは……この上ない武器なのよ!!」

「「「……くっ!!」」」

「う~ん、ロイター様がファティマ様にご執心な理由……本当にそこなのかしら……」

「んなわけないでしょ……まったく、アホらしい……それよりも! ロイター様の応援に専念しときましょ!!」

「そ、それもそうね……ロイター様! 頑張って!!」


 まあ、ロイターほどの男が、人を見た目だけで選ぶわけないわなぁ……

 なんというか……ロイターのファンクラブは人数が多いこともあってか、かなりわちゃわちゃしてるなって感じがするね……


「あぁ~っ、もう! ジリジリすんなぁッ!!」

「シュウ様! そんな魔法など早々に蹴散らして、サッと決めてくださいませ!!」

「そうよ! ロイターがどんだけだっていうの!? シュウには絶対に敵わないんだからね!!」

「そう! ホントそう!!」

「魔法より剣より拳のほうが強いってところ、みんなに見せてあげるといい」

「ほら、そこ! ダッと行って! ガツンと打って! ビシィッと決めるのよ!!」

「とはいえ、やはりロイター君も本物の実力者……シュウ君、負けないで……!」

「勝つわよ! シュウは! 必ずね!!」


 そして、シュウを取り巻く武闘派令嬢たちも応援に余念のない様子。

 それでまあ、現状はロイターのほうが手数は多いからねぇ……武闘派令嬢たちとしては、その辺にじれったさを感じてしまうのは仕方ないかもしれない。

 だが……このままシュウの奴が、これといった攻撃を繰り出すこともなく受けてばかりだとも思えない。

 どのタイミングで本格的に仕掛けるつもりか……これは、目が離せないな。

 そしてロイターよ……シュウからデカいのを貰う前に決めねば、キツいことになるかもしれんぞ?

 とはいうものの、それで勝負を焦って中途半端になってもいけない……なんとも難しい攻防だな! だが、面白い!!

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