第687話 いずれは

『攻防一体のファイヤーウォールにシュウ選手が対応しているあいだにロイター選手、じゅうぶんに距離を取ります』

『ここからロイターさんの魔法を多用した遠距離戦が展開されていきそうですが……この距離をシュウさんはどう詰めていくか、見ものですね』

『それにしても、ここまで大技といえる魔法を惜しげもなく使用してきたロイター選手ですが、魔力切れはないのでしょうか……?』

『ええ、ロイターさんは保有魔力量がもともと豊富な上、日々魔臓の容量を増やしているようですし……それに加えて空気中の魔素を取り込んで魔力に変換する技量も磨いているようですからね、その心配はないと見ていいでしょう』

『なるほど……それが努力する天才の凄さというわけですか……まったくもって恐ろしいですね』

『はい、私もそう思います……ですが、そんなロイターさんと互角に渡り合っているシュウさんもまた、同じく恐ろしい存在といえるでしょう』

『ふぅむ……遥か高みで繰り広げられる実力者同士の言葉に依存しない語らい……なんだか、そんな2人が羨ましくもなってきますね?』

『そうですね、あの舞台に立つ者だけに許される高揚感といったら、それはもう何物にも代えられないでしょう』

『といったところで、ロイター選手! どれだけ強烈な魔法を放つのか!? ……と思いきや、またしてもファイヤーアロー?』

『とはいえ、ロイターさんのファイヤーアローなら、勝負を決めることができるだけの威力はありますからね、甘く見るわけにはいきませんが……』

「……ッ!!」

『ここでシュウ選手! 今までのファイヤーアローと同じく拳で打ち落とすのかと思いきや……』


 そうナウルンの声が聞こえたかどうかといった瞬間、舞台で大爆発が起こった。


「……なッ!! なんだァ!?」

「え、えっと……魔法の暴発?」

「いやいや、ロイターに限ってそんなミスはしねぇだろ……」

「つーか、爆発の直前……シュウが思いっきりファイヤーアローから跳んで逃げてたように見えたんだが?」

「うん……なんか焦ってたっぽい?」

「えぇ、そうかぁ? 爆発に巻き込まれて吹っ飛んだのかと思ったんだけどな……」


 いや、シュウは単なるファイヤーアローではないと見切って、回避行動に移っていた。

 しかし、ロイターの奴もファイヤーアローと見せかけてエクスプロージョンをかますとか……エゲツないねぇ。

 それに、最上級ポーションがあるからとはいえ、威力高過ぎでしょ……もし相手がシュウじゃなかったら、消し飛んでてもおかしくなかったんじゃないか?

 まあ、ロイターとしては、それだけシュウに対する信頼があったんだろうね……「いや、どんな信頼だよ!?」ってツッコミが入りそうだけどさ……


「と、とりあえず……こっちまであんなデッケェ爆発に巻き込まれなくて助かったって感じだな……」

「ああ……さすが学園長の防壁魔法だよ」

「まあ、学園長の防壁魔法は王国一……いや、世界一といっても過言ではないだろうからなっ!」

「とはいうものの、学園長を絶賛してばかりもいられないか……俺たちだって、いずれはこのレベルの爆発に自力で耐えられるようにならなきゃいけないんだろうし……」

「そんなこと……できるのか? 今の……すんげぇヤバかったぜ?」

「ロイターのことだから……たぶん、今のも意図しての爆発だろうしなぁ……正直、耐え切れる気がしないよ……」

「残念ながら……僕も無理そうです……」

「う~ん……さっきスタンたちがいってた『努力する天才の凄さ』ってのを、改めて見せつけられたような気分だ……」

「ということは……このままだと、さらに差を広げられてしまうってわけか……それは悔しいな……」

「……イヤだ……このまま他人を『スゴイ! スゴイ!!』っていいながら眺めてるだけの人生なんかイヤだ! ボクだってもっとできるんだってところを見せたい……誰より自分自身に!!」

「自分自身に見せてやる……か、そうだな……ロイターとか、遠くばかりを見てないで、比べるべきはこれまでの自分なのかもしれないな……」

「なるほど、『昨日の自分に勝て!』ってわけか……そのほうが心は折れずに済むかもしれないな!」

「一歩一歩でも歩みを止めなければいい……諦めがちな俺たちに必要なのは、きっとそういう精神性なんだろうなぁ……」

「ま! それが分かったんなら、あとはもう行くだけだろ!? 俺たちも、行ってやろうぜ!!」

「よっしゃ! オレはもう、止まらねぇ!!」

「先ほどの僕の言葉、訂正します……『今の』僕には無理そうだってね!!」

「おぉっ、いいねぇ! そんじゃあ、俺も『今は』耐え切れる気がしないって言い直しとくよ!!」

「ハハッ! ここにもアツくなっちまったバカ野郎共がそろったってわけだな!! いいぜ! 一緒に行こうぜ!!」

「……なあ、盛り上がってるトコ悪いが……お前ら、シュウの心配はナシか?」

「「「……あっ! そういえば!?」」」


 ロイターの凄さを目の当たりにして、完全に心がポッキリいかなかった奴ら……ナイスだね!

 それによって君らは今日、一つの勝利を収めたわけだ! おめでとう!!

 それから、無意識にだろうけど君らも深刻に受け止めなかったように、シュウなら大丈夫……奴がそんなヤワなわけないからね!

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