第688話 眠れる獅子が起きた

『さて、煙が晴れていきますが……果たしてシュウ選手は無事なのか……?』

『シュウさんはファイヤーアローに偽装したエクスプロージョンだと見抜いていたようで、直撃する前に回避行動に入っていましたからね……おそらく致命傷とまではなっていないと思いますが……』


 そうして爆心地から離れ、舞台の端に立つ1人の男が煙の中から姿を現した……もちろんシュウである。


「フゥ……今のは、さすがに肝が冷えましたね……」


 なんて言葉を発しながら、表情はどこか嬉しそうだ……

 まったく、この男も大概だなぁ……


『シュウ選手! 見事生還です!!』

『あちこち煤けていますが……見たところ、体そのものに深刻なダメージはなさそうですね』


 へぇ……あのレベルの大爆発でも煤けるだけで、そこまで大きなダメージはナシか……シュウの奴、やるじゃないの!


「ふむ……魔力をかなり練り込んだ一発だったのだが、その程度の結果しか得られなかったとは……全くもって残念だよ」

「そうはいいますが、僕も全力で防御に当たりましたし、爆発後は煙の中でしばらく回復に専念せざるを得ませんでしたからね……決して楽に防いだわけではありませんよ」

「フッ、対戦相手に言葉によるフォローを受けるとは……私もまだまだだな」

「おっと、これは余計な言葉をかけてしまったようですね」


 まあ、シュウとしても普通に本心を語ったまでなんだろうけどね……とはいえ、ロイターはプライドも高いからさ。


「おいリッド、今のエクスプロージョン……お前は見抜けたか?」

「う~ん……なんとなくファイヤーアローに違和感みたいなものを感じないでもなかったけど……かといってそれは、こうやって観察することに集中できていたからでもあるからなぁ……もしオイラがあの場に立っていたら、余裕がなくて見逃していたかも……」

「そっか、やっぱリッドでも見抜くのは難しかったか……」

「俺っちは完全に気付けなかったなぁ……それまでにいっぱい見せられたファイヤーアローが頭に残っててさ、正直『またそれ?』って思って、ちょっと舐めちゃったもん」

「分かる! ぶっちゃけ、あのとき『オレなら、どうカッコよく捌くかな?』とか考えかけてたし!!」

「お前って奴は、カッコばっかつけたがるからなぁ……その辺、もうちょっと考えたほうがいいぞ?」

「うぅ……それでも……カッコつけるのがオレの生き方だから……」

「そんならよ、アレスのアニキみたいにもっと修行して、もっともっと強くなんねぇとだな! そしたら、好きなだけカッコつけられるぜ!!」

「そ、そうだな! オレ、カッコつけるために頑張る!!」

「まあ、それはそうと……あのエクスプロージョンを見破れたとして、防ぎ切れたかどうかってのが問題だな?」

「確かに、全力で魔纏を展開したとしても……もって数秒って感じかな?」

「数秒だぁ? あのスンゲェ爆発だぞ、そんなにもつかぁ?」

「とりあえず、距離にもよるんじゃない?」

「とすると、どのタイミングで気付くかにもよるだろうなぁ……」

「目の前で爆発したら、たぶんその瞬間に終わりっぽい」

「……リッド……お前ならどうだ?」

「そうだなぁ……まず、全力で魔纏を展開するのは当然として……あとは風歩で思いっきり逃げるしかないだろうけど……あの舞台の上だと広さが限られるからなぁ……やっぱり、ちょっと厳しいかなぁ……じゃあ、仮にオイラたち全員で魔力交流をしながら一つの防壁魔法を展開できればどうだろう……う~ん、それでギリギリ耐え切れればいいけど……あとはそうだな……」

「あ、リッドが思考の海に潜っちゃった……」

「結局のところ、今の俺たちだとどうしても魔力が足んねぇってこったな……」

「ま! だからこそ、アレスあにぃに教わった魔力操作を一生懸命やって、魔臓を大きくしていかなきゃだね!!」

「こんな若いうちにアレスお兄様から魔力操作を教えてもらった私たちは恵まれているわね! そんなお兄様の気持ちに応えるためにも、さらに精進するわよ!!」

「「「おうっ!!」」」


 この試合からリッド君たちもさらに学びを得ているようだ、よきかな、よきかな。

 まあ、平民出身で初期保有魔力量が少なめだといっても、これからの頑張り次第で伸びていくからね……ぜひとも頑張るんだよ!!


「さて、この試合……少々防戦気味だと僕も感じているところですからね……そろそろこちらからも攻めさせてもらうとしましょうか!!」

「ほう! やれるものならやってみるがいい!!」

『先ほどのエクスプロージョンがシュウ選手の闘志にさらなる火をつけたのか! 攻勢に出るとの宣言とともに、溢れんばかりの闘気がこちらにまで伝わってくるのを感じます!!』

『これまでもシュウさんは手を抜いて闘っていたわけではないのでしょうが……とはいえ、受けが主体となっていたのは紛れもない事実……ここからどんな攻めを観せてくれるのか、期待したいところですね』


 ナウルンが実況したように、シュウからとても強い闘気が発せられているのを感じる。

 もしかしたら、これは眠れる獅子が起きた瞬間といえるのかもしれない……

 ロイターよ……この試合、どうやらここからが本番のようだぞ?

 お前もさらにギアを上げてかからんとな!!

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