第689話 それ以上は未知の領域ってわけか……

「さて、そろそろ……」

「フン……来るがいい!!」

「では、お言葉に甘えて……行きます!!」


 短い言葉のやりとりの末、シュウの掛け声が聞こえたと思った瞬間、一つの打撃音が場内に響き渡った。


「……クッ! 速い上に、なんて重さだ……」

「このスピードに対応するとは、さすがロイター君ですね! では、さらに上げさせてもらうとしましょう!!」

「さらにだと……フン! 負けてられん!!」

『シ、シュウ選手の……瞬間移動したかのごときスピード……全くもって信じられません……』

『今のはおそらく……ロイターさんも見切ったというより、戦士としての勘で対応したのではないかと思います……』


 シュウの突きをなんとか受けることに成功したロイターであるが……シュウとしては、まだまだ上げられるっぽいからな……

 う~む、これはなかなか厳しそうだぞ……

 というか、こちらとしてもあのスピードを捉えるには、もっともっと眼に魔力を集中させる必要がありそうだ……


「な、なあ……今のシュウの動き……見えたか?」

「おいおい、ムチャいうなよ……気付いたら『バシィン!』って音が聞こえただけだよ……」

「僕も……全然視えなかった……」

「俺もだよ……せっかく魔力操作狂いにいわれて魔力操作の練習をしてたっていうのに……魔力の動きを追い切れなかった……」

「あのスピード……もしかすると、サンズと闘ったときより速くねぇか?」

「たぶんね……あのときは、多少でも魔力の流れが読み取れたし……」

「しかもアイツ……まだスピードを上げるっていったぞ?」

「ああ、それも清々しい笑顔を浮かべながらいってたな……」

「なんなんだよありゃ……シュウこそ、マジもんのバケモンなんじゃねぇのか?」

「今回本戦に残った奴は、どいつもこいつもヤベェと思ったけど……シュウはその中でも、さらに飛び抜けてるといえるかもしれないな……」

「まあ、勘かどうかはともかくとして、それに対応できたロイター君もじゅうぶんオカシイと思うけどね……」

「確かにッ……!!」


 ふ~む……あのシュウの動きを捉え切れる人は、果たしてこの会場にどれだけいるだろうか……

 少なくとも、普通の学生レベルでは無理そうだな……


「ロイター様……」

「これほどまでにシュウさんが恐ろしい方だったとは……」

「神様、お願いします……ロイター様をお守りください……」

「……だ、大丈夫よ! きっとロイター様は勝つわ!!」

「気持ちで負けちゃダメ!!」

「そ……そうよね! わたくしたちが弱気になっていては、ロイター様に申し訳ないわ!!」

「それに! 私のサンズ君の仇も取ってもらわないといけないんだし!!」

「まあ、シュウがサンズ戦のときよりスピードを出してるっていうのも、軽くイラッとくるし?」

「ロイター様~っ! 頑張ってくださいませ~っ!!」


 シュウの動きを見て、ロイターのファンクラブ会員たちに動揺が広がっていたようだが……なんとか、自分たちでメンタルを持ち直したようだ。


「よっしゃ! いいぞ、シュウ!!」

「ふふっ……ようやく、その気になったようですわね?」

「ああ! これで勝ったも同然だ!!」

「そう! ホントそう!!」

「とはいえ……あれ以上のスピードとなると、さすがに私たちも見たことがないわよ……大丈夫かしら?」

「なぁ~に、シュウだもん! 心配いらないって!!」

「シュウはそんなにヤワじゃない」

「ま! シュウに勝てる奴なんていないんだ!! だから、ウチらもドンと構えとこうぜ!?」


 ふぅん? あのスピードまではシュウを取り巻く武闘派令嬢たちも見たことがあり、それ以上は未知の領域ってわけか……

 となると……シュウの限界も近付きつつといえそうだね。

 あとは、2人がどこまで行けるかっていう耐久力勝負になるかな?


『は、速過ぎて……こちらもシュウ選手の動きがほとんど認識できない状況ですが……響き渡る打撃音からして、おそらくシュウ選手の攻撃をロイター選手がひたすらに受け続けているのでしょう……』

『そうですね……音の感じからして、今のところロイターさんは受けや払いがしっかりとできているようで、大きなダメージを負ってはいないようです』

『あの速さで攻撃できるシュウ選手は当然として、ロイター選手もよくついて行けますね……』

『日頃からの鍛錬の賜物といえばそれまでなのでしょうが……ああいう攻防を成り立たせることができることに、ただただ驚愕するよりほかにないといった感じです……』


 そうした攻防のあいだ……打撃音の中に、地面に固形物が散らばって落ちた音が混ざった。


『あぁっと! ロイター選手の剣が砕け散ったようだぁッ!!』

『どうやら、戦闘の負荷に耐えられなかったようですね……まあ、むしろここまでよくもったともいえそうですが……』

『ですが、ロイター選手! 炎の剣を生成してそのまま戦闘を続行するようです!!』

『炎の剣を生成しているあいだ魔力を消費し続けることにはなってしまいますが……ロイターさんの魔力と技術をもってすれば、さほど問題もないでしょう』


 あの炎の剣……一太刀浴びたら、その部分が「ジュッ!!」と蒸発しそうだね。

 ロイターの奴め……なんちゅう威力の剣を生成してるんだよ……

 とはいえ、それぐらい本気ってことなのだろうな……

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