第824話 本当に止まんなかったもんなぁ……

 食堂の席に着き、注文した料理が来るのを待つ。

 ちなみに今回は、オーク肉のステーキをチョイスした。

 そこで、わざわざ俺に気を遣って合わせたわけではないのだろうが、ワイズとケインも同じオーク肉のステーキを注文していた。


「お前たちもオーク肉のステーキを選ぶとは……フッ、どうやら食べ物の趣味も合うようだな?」

「ええ、そのようですね。それに、オーク肉は食べ応えもありますから」

「だよな! 今日みたいな気合全開で頑張った日っていうのは、オーク肉でガッツリいくのが男ってもんだぜ!!」

「うむ、全面的に同意だ」

「そして明日は、今日よりさらに頑張ることになるでしょうから、そのためにもしっかり食べて英気を養っておきたいものです」

「それに何より! さっき話したとおり、まず俺たちは食べる量でアレスさんに挑戦するんだからな!!」

「ああ、それが我々にとって、非常に貴重な一歩となるはず……」

「よしよし! 2人とも、その意気だぞ!!」


 待っているあいだの俺たちは、そんな感じの話をして過ごしている。

 また、食堂だけあって、ほかの客もそれぞれ夕食の時間を楽しんでいるようだ。


「それで、お前……確か、学園都市に武闘大会の観戦に行ってたんだよな? どうだったんだ?」

「おお、それだよ、それ! オレも今年は観に行けなかったからなぁ……街に戻って来たお前から、その感想を聞くのを楽しみにしてたんだ!!」

「ワクワク」

「ふっふっふっ……ようやく、その話を振ってくれたか……そうだよな? 聞きたいよな? でも、ちょ~っと話題を出すのが遅いんじゃないのかなぁ~? こっちは、今か今かと思いながらスタンバってたって言うのにさぁ~?」

「まあ、興味がないと言えば、ウソになってしまうが……」

「そうだな……だけど、そうやって無駄にもったいぶられると……ちょいイラついてくるってもんだ」

「ぶっちゃけ、その得意そうなツラに一発ビンタをかましてやりたくなった……ていうか、やっぱ一発入れていい?」

「いやいや、待てって! 君ら、どんだけ気が短いんですかって感じだよ!!」

「御託はいいから……そろそろ武闘大会について話してくれないか?」

「ひとつ言っとくと、オレ……ちょいイラつくってレベルから、だんだんマジになりかけてるからな?」

「もう、ビンタどころか……拳でいっちゃうべき?」

「わわっ、分かったって! 話すから! すぐ話すから、落ち着けって!!」


 そうして、武闘大会を観に来ていたらしい男が感想を述べ始めたようだ。

 それでどうやら、俺たち1年の部と2年の部を観戦していたみたい。


「そんでさぁ、そのファティマ様っていう1年生が凄いのなんのって! メチャクチャ愛くるしい外見に似合わず、激ヤバのエゲツナイ魔法を披露してくれちゃって、もう! あのとき俺は、心底震えるとともに感動もしてさ! ファティマ様に畏敬の念を持たずにはいられなかったね!!」

「……その激ヤバのエゲツナイ魔法というのは、どんな魔法だったんだ?」

「なんというか……お前の話は、全体的に抽象的過ぎる」

「ファティマ様という1年生が、とにかくかわいくて凄いということしか伝わってこない……」


 そうなんだよ、なんとなく聞こえてくる話に耳を傾けてみたら、「それ以外は観ていなかったの?」って聞きたくなるぐらい、ひたすらファティマの話しかしてないんだよね……

 その様子から、おそらく彼もファティマヲタの一員となったのであろうと思われる。


「そうだなぁ……あれはもう、神が使うレベルの魔法だね! そう思わされてしまうぐらいの黒い炎でさ! そんで、普段からエルフ族の魔法は人間族なんかとは比較にならないレベルで凄いって言われてるだろ? そんなエルフ族の魔法に勝っちゃうんだから、ファティマ様はもうね! 女神といっても過言ではないよ!!」

「へぇ……あのエルフ族に魔法で勝つとか、確かに人間族を超えた天才と言えそうだな……」

「くぅ~っ! そんな凄い魔法が披露されてたなんて、オレもどうにかして観に行けばよかった!!」

「もったいないことをした……」

「ふっふ~ん、まあねぇ、確かにあの光景は恐ろしくもあったけど……それ以上に! 俺の人生観がガラッと変わってしまうほどの衝撃だったね!!」


 その後も彼は、ただひたすらにファティマのことを語り続ける……

 あの姿を見ていると……うん、前世の友人であるアイドル好きの鈴木君が思い出されるよ……

 鈴木君も、応援してるアイドルについて熱く語り出したら、本当に止まんなかったもんなぁ……


「おいおいアレスさん、思ったより食べるペースがゆっくりしているが……ひょっとして俺たちに花を持たせようとでもしてるのか? そんな気遣いまでは、さすがに無用だぜ?」

「まあ、そもそも論として、食べる量で競争する必要もなかったかもしれませんがね……」


 ……おっと、周囲の話に集中力の一部が割かれてしまっていたようだ。

 でもまあ、こんなふうに情報収集の一環として、市民の声に耳を傾けてみるのも悪くはあるまい。

 だが、それはそれとして……


「フッ……ここまでは、ウォーミングアップというものだ」

「おっ、そっか! そうこなくっちゃな!!」

「なるほど、本番はここからというわけですか……ではこちらも再度、気を引き締めねばなりますまい」

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