第825話 そんな差があるのか……

「うぅ……しばらくオーク肉は食わなくていいな……」

「ああ、私もだ……」

「ハッハッハ! 2人とも、なかなか見事な食べっぷりだったと思うぞ?」

「そりゃどーも……しっかし、同じように食べてたはずなのに……アレスさんはまだまだ余裕があったみたいですね?」

「ええ……我々など、こうして部屋までのちょっとした道のりを歩くのですら億劫になっているというのに……」

「フッ! 俺を誰だと思っているのだ、アレス・ソエラルタウトだぞ?」

「さすがって感じですね……まっ! 今はこんなですけど……そのうち俺も、ライバルとして名乗りを上げられるよう頑張りますよ!!」

「同じく……」

「ハハッ、それは実に頼もしい! 期待しているぞ!!」

「よっしゃあ! やってやるぜ!!」

「私も! 負けていられない!!」


 雰囲気で察しておられるだろうが……大食い勝負的な部分では、2人がギブになった辺りでフィニッシュを迎えた。

 つまりは、まだ食べる余裕のあった俺の勝利といったところだ。

 まあ、腹内アレス君としては「なんだ、もう終わりか?」と言いたげではあったみたいだけどね。

 とはいえ、だんだん周囲のお客さんたちから注目を浴び始めるぐらいの食べっぷりだったことは、2人の名誉のためにも言っておこうと思う。

 そんな感じで、大食い勝負自体は半分お遊びみたいなものだったが……この経験が今後の2人のチャレンジ精神に少しでもプラスに働いてくれれば思う次第だ。


「はぁ~っ、やっと部屋に着いたか……」

「普段であれば、なんてことない距離であったはずなのに……こうまで動きが緩慢になってしまうとは……」

「俺もダイエットを始める前は、ちょっとした移動にも苦労したものだ……あの頃を思い出すと、懐かしさすら感じるよ」

「た、確かに……学園入学当時のアレスさんは、その……お見事な体格をしてましたからね……」

「ええ、貫禄いっぱいでいらっしゃった……と思います……」

「ハッハッハ! そう言葉を選ばず、あっさりデブと言ってくれていいぞ?」

「いや、そんなことは……なぁ?」

「ええ……体を大きくするには、それなりに才能も必要だと聞いたことがありますし……」

「ああ、ロイターも一生懸命食べているはずなのに、スラリとしたイケメンのまんまだもんなぁ? サンズはサンズで『なかなか身長が伸びてくれません』とかってぼやいていたし……そう考えると、これから俺たちが出会うことになるであろうトードマンは、巨漢の才能持ちってことになりそうだな?」

「う、う~ん……トードマンの場合は平民ですからねぇ……俺たち貴族とは、また少し条件が違う気がしますよ……」

「我々のあいだで、いつのまにかトードマンで定着してしまっていますが……そもそも、ミカルに縁談を申し込んだ者が本当にトードのような体型をしているかどうかすら定かではありませんからね……」

「ふぅむ、平民と貴族で違うとなると……やはり、保有魔力量の差といったところか……」

「俺も専門に研究してるわけじゃないんで分かりませんが、その可能性はあるかもしれませんねぇ……」

「私もケインも、今日の移動中に大量の魔力を全身に巡らせたことで、かなり脂肪が燃焼された感がありましたからね……まあ、そのぶんは夕食で補充されたと思いますが……」

「ああ、先ほどは2人とも滝のように汗を流していたもんなぁ」


 そうはいっても、2人とも全然太っていないので、そこだけは勘違いしないであげてほしい。

 いや、それどころか俺の前世感覚からすれば、2人ともしっかりイケメンである。

 ただまあ、あれだけ汗をかくことができたということは……まだまだ魔力操作の練習が足りていないと言えるかもしれない。

 俺なんか、常に魔力操作を同時におこなっているので、もうそれだけで汗が出るって段階を過ぎているからね! ドヤァ!!


「ほかにも、本人の美意識……というか、その国や地域ごとの美の基準が関係しているとか? ほら、このカイラスエント王国では貴族とか平民に関わらず、太った女ってほとんどいないでしょう?」

「そして、ふくよかな女性が美しいと考えられているところだと、特別食べる量が多くなくても、ふくよかな女性が多い傾向にあると聞きますからね……」

「……ほう? 国や地域によって、そんな差があるのか……なかなか興味深いな」


 学園卒業後は、そういった観点に着目しながら旅をしてみるのもいいかもしれない。

 ただ、その理論からすると……潜在意識的な部分でロイターは「スリムなままがいい」と思っていて、サンズは「身長が低いままがいい」と思っているのかもしれないな……

 そして、さらに! ファティマの場合は「デッカくならず! きゅるんとしてたい!!」って思っている可能性すらあるというわけだ!!

 なんてことを考えた瞬間……ため息をつくファティマの顔が脳内に浮かび上がった。

 おいおい、そんな呆れ顔をすることないじゃないか……まったく。


「えっと……アレスさん?」

「まあ、国や地域の特色に思いを巡らせるのは、我々貴族にとって大事なことでもありますからね……」

「……ああ、そうだな」


 今のところワイズとケインは、ロイターたちほど俺の心を読んでくる感じじゃないのでセーフといったところか……

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