第833話 意欲がどんどん湧いてくる……

「これがウワサの……よ、よし! 試しに早速、着てみっか!!」

「私も、どんな感じで気分が高揚するのか……そして魔力操作の困難さが純粋に気になるので……」

「うむ、実感してみるといい……ただし、さっきも説明したが、1つや2つだけではシリーズ装備の効果が発揮されず、3つ目を身に付けてからだからな?」

「オッケーっす!!」

「承知」


 こうして2人は、平静シリーズに初めて挑戦するのであった。


「とりあえず、3つということなら……ジャージとシューズ、あとはヘアバンドってところか……って、うぉっ!?」

「ケイ……ンッ!? こ、これは……!!」

「おっ、早速効果を実感したみたいだな?」

「なんか自信っていうか……『俺はスゲェんだぜ!?』って気持ちが湧いてくるッ!!」

「全能感とでも表現すればいいのか……とにかく、なんでもできそうな気がしてきますね……」

「まあ、平静シリーズを体験するのはこれが初めてだもんなぁ、特に効果を強く感じたとしても不思議じゃない……さて、その状態で魔力操作をやってみろ」

「よっしゃ! やってやるぜ!!」

「ええ、我々にできないことなどありません!」

「フッ、素晴らしい意気込みだ……だが、その勢いのまま行くことができればいいのだろうが……」

「……ッ!? な、なんだこりゃ……上手く集中できねぇ!!」

「わ、私もだ……地道に魔力操作などしていられない……そんな気持ちが込み上げてきて、全身に魔力を巡らせるのが難しい……」

「そうだ、それが平静シリーズのトレーニング効果といえるものだ……どうだ? 実力を磨くのに役立ちそうだろう?」

「お、おう! この状態で魔力操作を余裕でこなせるようになったら……そのときはメチャクチャ実力が付いてそうだぜ!!」

「ああ、間違いない……それで、アレス殿はいくつ身に付けられているのですか?」

「俺か? 最近7つ目に挑戦し始めたところだな」

「な、7つ……だってェ!?」

「凄い……いや、凄過ぎる……これが我々との厳然たる差ということか……」

「まあ、俺は夏休み中から使い始めていたし……それまでにも魔力操作の練習に全力で取り組んでいたからなぁ……」

「う~ん……俺たちだって、それなりに魔力操作の練習をしてきたつもりだけど……たった3つでこんなに大変ってことは、まだまだ練習が足りなかったってことだな……」

「それにしても……アレス殿がすぐにこの装備を皆に配ろうとしなかった理由もよく分かる気がします……ある程度やり込んでいないと3つでさえ全く扱えず、心が折れてしまっていたでしょうからね……」

「ああ、ただでさえ魔力操作の練習は多くの者たちから敬遠されがちだからな……その辺のところは慎重にならざるを得ないといった感じだ」

「くぅ~っ! まだまだ先は長いぜ!!」

「しかしながら、それだけ我々にも伸びしろがあるということなのでしょうね……」

「そのとおりだ、ガンガン励めよ! なぁに、努力を重ねさえすれば、いずれはもっともっと数を増やしていけるさ!!」

「うぉぉぉぉッ! 俺も負けてらんねェ!!」

「私も、意欲がどんどん湧いてくる……まあ、これは気分が高揚している影響でもあるのかもしれませんが……」

「まあ、平静シリーズの影響も多少はあるかもな? だが、いずれにせよ、お前たちの心の中に元から存在していた意欲ではあるはず! それが刺激され、眠りから覚めただけのことだ!!」

「ハハッ! この平静シリーズってのが俺の中に眠っていたヤル気を叩き起こしてくれたってわけか! ありがてぇぜ!!」

「ああ、まったくだ」


 ……なんて話しているうちに、腹内アレス君から夕食の催促がきた。

 やれやれ、もうそんな時間か……オーケーだ、食堂へ向かおう。

 そんなわけで俺たちは、平静シリーズを部屋着感覚で身に付けつつ部屋を出たのだった。

 そうして食堂の席に着き、注文した料理がくるのを待つ。

 この間、周囲を見回してみた感じ……冒険者っぽい雰囲気の奴が一番多い印象だが、商人とか職人っぽい雰囲気の奴なんかもいる。

 まあ、総じて男率が高いといったところか……


「なぁ、お前ら……腕狩りって知ってっか?」

「腕狩りだぁ? なんだそりゃ……?」

「知らないが……新種のモンスターでも発見されたのか?」

「いやいや、新種のモンスターなんかじゃねぇ……」

「あぁ? じゃあ、なんだよ……もったいぶってねぇで、さっさと言えや」

「なんとなくマンティスみたいなモンスターを想像していたのだが……違ったか……」

「腕狩りってのはなぁ……おそらく人間族で、その呼び名のとおり腕を狩るんだよ……いきなり勝負を挑んできてな……」

「おいおい、もう冬になろうかって時期に……怪談のつもりか?」

「だな……そういうのは夏にしてもらいたいところだ……」

「いや、これはそういう作り話の類なんかじゃない、実際にあった話らしい……そう他領から来た奴に聞いたんだ……」

「へぇ……でも他領で起こったことなら、俺たちには関係ねぇことだろ?」

「いきなり勝負を挑んでくるというが……それは恨みのある奴の仇討ちとかではないのか?」

「いや、被害者は誰かに恨まれるような奴ではなかったらしい……ただ、腕が立つと評判ではあったらしい……」

「はは~ん、なんだ結局は腕試しってことか! そんなら、たまに勘違いした身の程知らずがやらかすこったろ? 神妙な顔して何を言い出すかと思えば……くっだらねぇ」

「まあ、とりあえずオーク1体を討伐するのにも苦労している俺たちには関係ない話だろうよ」


 腕狩りねぇ……なかなかあぶない奴もいたもんだ……

 でも、腕だけならポーションでじゅうぶん回復できるだろうし……

 マジで目に余るようなら、懸賞でもかけられてそいつ自身が狩られてしまっているだろうなぁ。

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