第832話 前倒しでプレゼントしてもいいな
「だいぶ日が沈んできたな……よし、今日の移動はこれぐらいにしておこう」
「承知、しました……」
「オッケ……です……」
そして、一泊するのにちょうどよさそうな街を見つけて降下。
「うむ! 今日も1日ご苦労さん!!」
「……っ、く……くぅ……!」
「こ、今回……こそォ!!」
「おっ? いいぞ! そのまま、そのまま堪えるんだッ!!」
「そ、そのまま……!」
「堪……えるッ!!」
毎回ウインドボードによる長距離移動から地上に降り立った瞬間へたり込んでいた2人だが、今回はフラフラになりながらもギリギリのところで踏ん張っているようだ。
「……よし、それだけ立っていられたら、じゅうぶんだろう! ほいっ、ポーション!!」
「かたじけ……ない」
「よっ……しゃ! やっと、やっとへたり込まずに……立っていられたッ!!」
「うむうむ! 2人とも、素晴らしい根性だ!!」
「ありがとうございます……我々としても、なんとか少しでもアレス殿のアツい指導に応えたいと思いまして……」
「そうとも! やっぱ、毎回だらしなくへたり込んだ姿をアレスコーチに見せたくなかったからな!!」
「……コーチ?」
「あっ……! い、いや、なんていうか……アレスさんに鍛えてもらっているうちに、つい……あは、あはは……」
「とはいえ……昨日今日と、今まで我々が経験してきた以上のご指導を受けている実感がありますので、ケインが思わずアレス殿のことをコーチと呼んでしまったのも納得です」
「ふむ……まあ、どう呼んでくれても構わんよ」
学園では「魔力操作狂い」と呼ばれるのがデフォだし?
それに、俺の意識が目覚める前までの原作アレス君は陰口でもっとヒドイ呼ばれ方をしていたみたいだしさ。
そんなこんなで清潔と浄化の魔法でサッパリしたところで、街に入る。
「……どうやら、この宿屋みたいだな?」
「ええ、そのようです」
「まっ! この感じなら、大丈夫なんじゃないですかね?」
「ああ、そうだな……よし、それじゃあ中に入ってみるとしようか」
「「はい」」
というわけで、門番の兵士にオススメしてもらった宿屋で一泊することに。
まあ、俺としては普通にご飯が食べれて、あとは一晩グッスリ眠れたらじゅうぶんなので、そこまで宿屋に多くは求めていないんだけどね。
それにワイズとケインも、貴族にしてはそこまでゴージャスさを求めるってタイプではないようで、その辺もスムーズに進んでくれる。
ここで「こんなしょぼくれた宿屋など、高貴な自分にはふさわしくない」とか「えっ? ここって……馬小屋ではなかったのですか?」みたいなことを半笑いでほざかれたらイラッとしてしまったに違いない。
いやまあ、2人がそういうタイプだったら、俺もここまで一緒に来ようとは思わなかっただろうけどね。
それはそれとして部屋に着いたところで、冒険者スタイルの鎧から平静シリーズに着替える。
このことについて正直なところ、移動中も平静シリーズを着ていてもよかったのかもしれないが、何かあったときの保険として冒険者スタイルの鎧を装備していたのである。
だってねぇ、移動中は2人ともヘトヘトで仮に戦闘が起こったとしても、思うように動けない可能性があるからさ。
そうした状況下でソエラルタウト家の人間ではない他家のご子息を危険にさらした……なんてことになったらマズいもんね。
とはいえ、実際のところ平静シリーズを着こんでいたとしても、その辺の奴なんかに負けるつもりはないけどね……でも、だからといって油断は禁物であろう。
「その『平静』って刺しゅうの施された……運動着? まっ、とにかくその平静って服をアレスコーチたちは夕食後の練習会とかで着てますし、昨日や今日もアレスコーチは宿屋の中で着てますけど……そんなに凄い服なんですかね?」
「さらにいえば、王女殿下やその熱烈な支持者たちもご愛用のようですね……」
「おう! この平静シリーズは凄いぜ?」
そんなわけで、平静シリーズの効果について2人に語って聞かせた。
「一応、俺らもウワサで多少は聞いてましたけど……気分が高揚するぶん魔力操作が困難になるとか……ヤバ過ぎっすね?」
「それも、身に付ける数が増えていくたび効果が強まっていくとか……なんとまあ……」
「ふむ、そうだな……2人にも、今回の旅が終わって学園に戻ったときウインドボード耐久訓練の修了証代わりにプレゼントしようかと思っていたが……先ほどウインドボードから降りてへたり込まなかった祝いとして、前倒しでプレゼントしてもいいな」
「えっ? 俺たちに……その平静って服をですか!?」
「よろしいのですか? しかも前倒しだなんて……」
「まあ、夕食後の練習会に参加してくれているみんなにも、魔力操作の練習の進捗具合を見てプレゼントしようと思っていたしな……そして2人の場合は、これからまだ数日間は1日中魔力操作漬けになるんだし、渡すのが多少早まったところで問題なかろう……ただし、ウインドボードで移動中は危ないから、今までどおり普通の鎧を装備しておくべきだろうがな」
「マジか……俺も、あのウワサの平静って服を身に付けることになるとは……」
「アレス殿の期待を裏切らぬよう、これからより一層の精進をしていかねば……」
こうして、2人に平静シリーズをプレゼントしたのであった。
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