第831話 あんなに食う男たちを見たのは初めてだ……

「ふぅ~っ……食った食った……」


 まあ、食ったとはいえ店にある肉を全て食べてしまう……みたいなムチャはしていないから安心してほしい。

 いや、俺……というか腹内アレス君が本気を出せば、できなくはないと思うけどね。

 しかしながら、そんなことをしてしまっては店やほかの客に迷惑をかけることになってしまうだろうから、遠慮しておいたのだ。

 そのため、たくさん食べたことには変わりないものの、極めて現実的な量だったと思う。


「昨日のオーク肉のステーキに続き、今日はミノタウロス肉の焼肉……まさに肉づくしですね」

「まっ! そんだけ頑張ってるってことでもあるんだろうから、ガッツリ行ってオッケーって感じだな!!」

「うむ、そして午後からもまた楽しい空の旅が再開されるのだ、しっかり英気を養って当然と言えるだろう!」

「そうですね……では、そろそろ出ましょうか?」

「よっしゃ、パワー全開だぜ!」

「店員、会計を頼む」

「は~い!」

「ああ、ここの支払いは私にお任せください」

「なんだぁ? 変な気を遣わなくていいんだぜ?」

「それに、食べた量としては俺が一番多いのだしな」

「いえ、ただの気持ちですから……」

「ふぅん? なら、次は俺が払おうじゃんか!」

「では、ケインの次に俺が払うとしようかな?」

「いえいえ、アレス殿には既に何本もポーションを頂いておりますし……」

「それだけじゃなく、いっぱい指導もしてもらってますからね! むしろメシを奢ったぐらいじゃ、俺たちのお返しとしては全然足りませんよ!!」

「配っているのは味がいいとはいえ、最下級のポーションだぞ? それに指導のほうだって、俺自身が教えることで学ばせてもらってもいるのだし……」

「それでも……です」

「まっ! 俺らのほうが圧倒的にもらっているものがデカいってことですよ!!」

「そうか……では、お言葉に甘えるとしようか」

「はい!」

「それがいいです!」


 そんなたいしたことでもないのだが……まあ、それで多少でも2人の気が楽になるならいいかな。

 というわけで、ワイズに昼食をゴチになるのである……ごっそさん!


「あ、あの兄ちゃんたち……凄かったな……」

「だな……いくら特級のミノタウロス肉が美味かったとはいえ、あんなに食う男たちを見たのは初めてだ……」

「とりあえず……この店が食い放題をやってなくてセーフだったってところか……」

「違ぇねぇ」

「なんか、微妙に聞こえてきたところによると……あの中で一番大人しそうに見えた兄ちゃんが奢ることになったみたいだな?」

「うひゃぁ~! どんだけ金持ちだよ!?」

「彼らが身に付けていた装備から察するに……貴族か豪商の坊ちゃんたちといったところか……」

「なんだ、ボンボンかよ……はぁ~あ、一気にシラけちまったよ……」

「いや……それにしては雰囲気のある男たちだったぞ? もしや、優秀な冒険者たちだったのでは?」

「まあ、メチャクチャ稼ぎのいい冒険者なら、ミノタウロス肉だってたらふく食えるってもんか……」

「う~ん、そんなに稼げるんならぁ……俺もいっちょ! 冒険者をやってみっかなぁ~?」

「やめとけ、やめとけ……お前みたいなボンヤリした奴だと、命がいくつあっても足んねぇよ」

「あぁ~? オレの機敏さを知らねぇってかぁ~?」

「とりあえず、昼から酒飲んでフラフラしてる奴の機敏さなんて分かんねぇって」

「ハハッ、言えてる」

「ばっきゃろぉ~! 分かってねぇなぁ……酒は俺の燃料なんだよ、ね・ん・りょ・う! だからこうやってぇ~グイッといくんだよぉ!!」

「おいおい、昼からも作業があるんだろ? その辺にしとけって……」

「とはいえコイツ……ホントに作業自体はちゃんとこなせてるみたいだからなぁ……正直、信じられんけども……」

「へぇ……そりゃ凄い……」

「そんなん、シラフならもっと効率よく作業をできてただろうよ!」


 酒を飲んでの作業ねぇ……なんとなく危なさそうだから、気を付けてもらいたいところだよ。

 そんなことを脳内で適当に考えているうちに……ワイズの支払いが終わったようだ。


「ありがとうございました~! また来てくださいね~!!」

「ああ、機会があれば立ち寄らせてもらおうと思う」

「よっしゃ! またこの3人で来ましょう!!」

「うむ……では、美味かったぞ! またな!!」

「は~い! またのご来店をお待ちしておりま~す!!」


 店員の子は、おそらくまだ成人してそんなに経っていないのではないだろうか……

 この子が20歳を超えていれば……「あのお姉さんに会うため!」みたいな感じで、なおさらこの店に来る理由になるんだろうけどなぁ……

 そんなこんなで店員の子や……なんとなく客のオッサンたちにも見送られながら焼肉屋を出るのだった。


「さて……すぐ飛べそうかね?」

「そうだなぁ……飛べなくはないと思いますけど、まだちょ~っと腹が重たい感じもしますかねぇ……?」

「……この街の広場を少し歩いてからにしましょうか?」

「ふむ、そうするか……おっ、あそこにクレープ屋の屋台があるじゃないか! ちょうどいい、食後のデザートをいただくとしよう!!」

「あれだけ食べて、まだ入るアレスさん……やっぱ、さすがっすね!」

「ええ、まったくです……」

「……ん? お前らは食わんのか?」

「いやぁ、もう腹がパンパンですからねぇ……」

「我々は遠慮しておきます」

「そうか? まあ無理することでもないからな……では、ちょっと買ってくる」

「オッケーです」

「承知しました」


 ふんふ~ん、デザートは別腹! これ、前世からのお約束……だよね!?

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