第830話 じゃんじゃん持って来てくれ!!

「ふむ……そろそろ昼だな、向こうに見えてきた街で昼食としようか」

「ええ、そう……ですね……」

「あともう少し……それまで頑張れ、俺……」

「ハハッ、ここまでノンストップでよく来た! あとちょっとで食事休憩だ、それまでファイットォ!!」

「お、応……」

「おぉっ……」


 まあ、ウインドボードで飛ぶっていうのは、つまり魔法を継続して発動させ続けるってことだからね、そりゃ精神的に疲れるのは仕方ないよね。

 しかも今日は、俺から送られる魔力が純然たる無属性ではなく、光属性が混じっているからね。

 あまり光属性の魔力の扱いが上手ではない2人には、そのぶん困難さが昨日よりアップしていることだろう。


「そぅれ! ファイト! ファイットォ!!」

「ファイ……」

「トォ……」


 こうして街に向かってしばらく進み……ようやく到着。


「はい! ご苦労さん!!」

「や、やっと……着いた……」

「ふぃ~っ、やっぱ今日も……フラフラだぁ~!」


 地上に降り立ったところで気の抜けた2人は、またしてもへたり込んでしまった。

 まあね、昨日も今日も限界に挑戦しているわけだから、むしろこうしてへたり込むぐらいでないと負荷が足りないと言えるかもしれない。

 とはいえ、「もうイヤだァァァァァッ!!」って感じで心が折れてしまわないよう、様子を見ながら負荷を調節する必要はあるだろう。

 そう考えるとこの旅は、俺にとっても加減を調節する練習になると言えるかもしれないね。

 そんなわけで、まずはポーションを飲んで心身を回復。


「フゥ……生き返った心地がします」

「ああ、なんとか元気を取り戻したって感じだぜ!」

「うむ、それはよかった……では、汗の始末に清潔の魔法をかけてやるから、感覚に集中するんだ」

「「はい!」」


 そうして心身の感覚に集中してもらい……


「よし、お次は浄化の魔法だ」

「「はい!!」」


 実際のところ、身体の汚れは清潔の魔法でキレイになっているので浄化の魔法は必要ないのだが、朝食のとき話したように少しでも感覚をつかめるよう、あえてって感じだ。


「……当然というべきでしょうが、やはり浄化の魔法のほうが力を感じますね」

「だな! なんていうか、身体の内側にまで浸透してくるっていうか、癒される感じがするぜ!!」

「ほう、その感覚を突き詰めていけば、いずれ習得に至ることができそうだな!」

「この感覚を突き詰めていけば……なるほど……」

「まっ、昨日の夜からアレスさんの光属性の魔力を流してもらっているから、俺たちでも多少は感じ取りやすくなっているんだろうなぁ」

「うむ、それはあるかもしれんな……といったところで、そろそろ街に入るとしようか」

「ええ、そうしましょう」

「よっしゃ! モリモリ食って、昼からまた頑張っぞ!!」

「うむうむ、その意気だ!」


 そんなこんなで特に何事もなく街に入り、門番の兵士にオススメされた店へ向かった。

 てなわけで、やって来ました焼肉屋!

 また、この地ではミノタウロスの肉が特に美味しいと評判らしい。

 まあ、前世で言うところの「牛肉が美味いよ!」って感じかな?

 そこで俺は一応、豚肉派ではあるものの、だからといって牛肉が嫌いというわけではない……というか好きである。

 そしてもちろん、鶏肉だって好きである。

 結局のところ、「お肉全般好きだよ!」ってことだね。

 そんなことを思いつつ店に入り……焼肉屋特有の匂いに期待感が膨らんでいく。

 そうして席に着き、注文も完了し……ついにミノタウロスの肉とご対面!


「おぉっ! コイツは美味そうだ!!」

「それでは、早速焼きましょうか」

「よっしゃ、どんどん焼いて! ガンガン食うぞ!!」


 こうして俺たちは、しばし焼肉に集中。

 うんうん、美味い……ミノタウロス! 実に美味いぞッ!!

 また、先ほどまで空腹を訴えていらっしゃった腹内アレス君も、ミノタウロス肉に大満足のご様子。

 やはり、モンスターのランクとしてそれなりの高さがあるミノタウロスだけあって、ランクに恥じない美味さを誇ると言えるだろう。


「おい、店員! ミノタウロス肉をじゃんじゃん持って来てくれ!!」

「は~い!」


 そうして、店員がじゃんじゃん持って来てくれるミノタウロス肉をガンガン食べていく俺たち3人。


「おぉ、あの兄ちゃんたち……なかなか気持ちのいい食いっぷりだねぇ」

「へへっ、そりゃそうだろ! なんたってこの街のミノタウロス肉は超が付くぐらいの一級品だからな!!」

「う~ん、初めて見る顔だし……評判を聞きつけて食べに来てくれた観光客ってところかなぁ?」

「よしよし! この調子で観光客がバンバン増えてくれれば万々歳だな!!」

「いやぁ、領主様ももっとミノタウロス肉を他領に宣伝していけばいいのになぁ?」

「確かに! それだけのポテンシャルはあるハズ!!」

「でもよぉ……そうやって客が増え過ぎちまったら、今度は俺らが食うぶんがなくなっちまうんじゃねぇか? ミノタウロスを狩るのって、なかなか大変だって聞くぜぇ?」

「まぁ、品薄で値上がりするって可能性はあるかもなぁ?」

「うへぇ……今でさえ、たまの贅沢なんだから、これ以上の値上がりはマジ勘弁」

「そうすっと、今ぐらいの『知る人ぞ知る』ってぐらいがちょうどいいのかねぇ……?」

「……かもなぁ」


 そんな地元のオッサンたちの会話も耳にしつつ、ミノタウロス肉の美味さを堪能する。

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