第829話 お前たちが教えてやってくれ
朝練を終え、食堂にやって来た。
まあ、寮生活で俺1人のときだと、ここで一度シャワータイムを挟んでいたところだが、今は3人で行動しているからね。
というわけで、今回は汗の始末を浄化の魔法で済ませた。
いや、こんな言い方だと浄化の魔法がイマイチのように聞こえるかもしれないが、決してそんなことはない。
むしろ、身体をキレイにするだけなら、オーバースペック甚だしいレベルだと言えるだろう。
だって、浄化の魔法は「浄化」というだけあって、悪霊とか呪いみたいな目に視えない不浄なものにだって効果を発揮してくれるらしいからね。
だから、使うとしてもダウングレードバージョンともいえる清潔の魔法でじゅうぶん過ぎるだろうと思う。
ただまあ、俺からしたら浄化でも清潔でも使用魔力量的にそこまで大きな差を感じないので、浄化の魔法を使っちゃうけどさ。
とはいえ、それは身体という限られた範囲だからそこまで差があまりないだけで、建物まるまるとか浄化する範囲が広くなればなるほど差が大きくなる気もする。
とまあ、そんなこんなで「それでいいなら、普段からシャワーなんて浴びず、浄化なり清潔の魔法で済ませればよくね?」と思われたかもしれないが、それについては気分の問題だね、趣味と言ってもいいかもしれない。
あとは、そうだな……視聴者サービス? なんてね。
というわけで、注文した料理が来るまでのあいだ、ちょっとした雑談を楽しむとしますかね。
「う~ん……昨日から何度も見せてもらってますけど、やっぱ浄化の魔法は難しそうですねぇ……」
「習得するまで、まだまだ時間がかかりそうです」
「おっと、そうだった……見本とするなら、清潔の魔法のほうがよかったか?」
「う~ん、どうですかねぇ……こうやって、あえて難しい浄化の魔法を見学させてもらっているほうが、大は小を兼ねるって感じで効率がいい気もしますからねぇ……」
「私が魔法を習った家庭教師には、段階を踏むことを推奨されましたが……ケインの言うことも分かりますし、実際のところはどちらがいいのか……」
「ふむ……まあ、たいした負担でもないから、次からはどっちも使って見せよう」
「えっ? いや、そこまでしてもらうのは悪いですよ!」
「これまでにも、たくさん気を遣ってもらっているわけですし……」
「いや、繰り返すようだが、たいした負担でもないから気にするな……まあ、それでもということなら、少しでも早く清潔なり浄化の魔法を習得して、ほかのまだ習得できていない奴にお前たちが教えてやってくれ。一応、女子のあいだでは必須魔法みたいな扱いでそれなりに練習されているみたいだが、男子の中には『女々しい』とか言ってやりたがらない奴も多いと聞くからな。そんな中で、使える奴が少しでも増えれば、そういう奴の意識もいくらか変わるかもしれん」
そうしてお互いに教え合う文化が育てば、それだけ全体の底上げにつながるかもしれないしさ。
「お、俺たちが!?」
「光属性が得意ではない我々が……いや、なるほど……むしろ得意ではないからこそ、ほかのできない者の気持ちに寄り添うことができ、かつ効果的なアドバイスができるかもしれない……」
「うむうむ、ワイズの言うとおり天才的にすんなり習得できてしまった奴だと、ほかの奴がなんでできないのか理解できないという状態に陥ることもあるだろうしな……」
前世でもスポーツとかで、現役時代は名選手でも、そのまま名コーチや名監督になれなかったって人もまあまあ多かったみたいだしさ。
「そっか、俺たちがアレスさんから学んだことをみんなに教えてやれば……それだけアレスさんが俺たちに教えてくれたことの価値が大きくなる!」
「そしてさらには、このカイラスエント王国全体にとっても大きな意味を持ってくる……これはやらねばなりますまい」
「とはいえ、あまり気負い過ぎないようにな?」
「もちろん、分かってますって!」
「我々にできる範囲でやります……などと意気込みを口にしていますが、そもそも清潔の魔法も習得できておりませんので、まずは自分自身ができるように励みます」
「ああ、まずはそこからだな……だが、大丈夫だ! お前たちなら必ずできる!!」
「ハハッ! アレスさんにそう言ってもらえると、なんだかホントにできる気がしてくるってもんだぜ!!」
「1日でも早く、アレス殿に成果をお見せしたく思います」
「おう、楽しみにしているぞ! ただまあ、その前にミカルという娘とのことが上手くいくところを見せてもらうつもりだがな!!」
「おっ、そうだな! まずはそれが第一!!」
「ええ、分かっておりますとも……どんな形にせよ、ミカルには幸せになってもらいたいですから……」
さて、ワイズの恋路はこれからどうなっていくのか……
こうなるともう、トードマンがメチャクチャいい奴だったほうが困るな……
まあ、片想いの美学としては、そこで何も告げず身を引くほうが美しいとも言えるわけだけどさ……
そうして会話を楽しみながら、朝食の時間は過ぎていく。
そして朝食が終われば、今日もまたウインドボードで空の旅が始まる。
ふぅむ、今日1日でどこまで行けるかなぁ?
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