第477話 あのとき感じた素朴な疑問

 女子との昼食を終えた。

 短い時間ではあったが、魔力操作について俺なりにエッセンスを凝縮して語ったつもりだ。

 あとは彼女次第……是非とも、魔力との新たな関わりのきっかけにしてもらいたい。

 なんて思いつつ、午後からの活動を開始する。


「さて、昨日は学園都市に到着してそのまま寮の自室に直行したからな……今日は街のみんなに挨拶をしに行くとしようか」


 というわけで、学園の敷地から出て、街に繰り出す。

 まあ、不在期間はたったの2カ月程度だからね、そんなに大きく街並みが変わっているなんてこともない。

 ただなんとなく雰囲気として、季節が秋に移り変わり始めているのかなぁって思うぐらいだ。

 そうして気の赴くままに街を巡り、顔見知りの人たちにこれからまたよろしくねって感じで挨拶をしていった。

 その中で残念なことにゼス、グベル、エメちゃんの3人とは会えなかった。

 なぜなら、3人が街を出ていたからだ。

 今年の猛暑、その影響が比較的軽微だった遠方の地域へ食料の調達に向かっているらしい。

 一応、学園都市は貴族の子女が集まっているだけに、ほかの街よりは優先的に食品も集まってきているらしいが、それでも一般市民向けには不足もあるみたいだからね。

 そしてゼスの馬は元気いっぱいで移動速度もかなりのものがあるらしいので、ここが活躍のしどころって感じなのかもしれない。

 そんなわけで、今日会えなかったのはちょっぴり寂しい気もするが、またの機会を楽しみにしたいと思う。

 こうして挨拶回りも終えたところで、ソートルの酒場で購入したソーセージに噛り付きながら学園の寮までの道のりを歩く。


「ふむ……この味も久しぶりだね、実に美味い」


 さて、学園都市内はこれでよしって感じだろう。

 明日はスケルトンダンジョンに行って、ギドの自滅魔法の解除に力を貸してくれたレミリネ師匠や廃教会のスケルトンへお礼の祈りを捧げよう。

 そんな感じで明日の予定を立てつつ自室で勉強などをして過ごし、夕方になったところで食堂へ移動。

 もちろん、男子寮のね!

 ……うん、やっぱりこっちのほうが落ち着く。

 なんて思っているうちに、ロイターやサンズと合流。


「それで、今日の昼食はどうだった?」

「楽しい時間を過ごせましたか?」

「それなのだがな……俺は『魔力操作狂い』と呼ばれるぐらい魔力操作の印象が強い男だろう?」

「まあ、そうだな……それが悪口と聞こえんぐらいには定着した感がある」

「はい、『アレスさんといえば、魔力操作』そういっても過言ではないでしょう」

「だよな? それなのに今日食事を共にした女子は魔力操作を1時間しかやっていないというのだ、しかも実際はもっと少ないだろう……これは自分でいうのもなんだが、俺のことを知らなさ過ぎだとは思わないか?」


 あのとき感じた素朴な疑問をロイターたちにぶつけてみた。


「確かにな……だが、身も蓋もないことをいってしまえば、そんなものだ」

「えっ、そうなの?」

「そうですねぇ……こんな言い方はアレスさんに失礼かもしれませんが、その方はもともとアレスさんに興味がなく、家の意向で声を書けただけかもしれません。それか、文系貴族の中には『役割分担として魔法は武系貴族に任せる』という考えの方もいらっしゃるので、その方もそうだった可能性があります」

「なるほど、それならあんな感じだったのも仕方ないかもしれん」

「あとはそうだな……単純に自身の魅力に自信があって、相手に合わせる必要を感じていないっていうタイプもいるだろう」

「ふむ……『私が声をかけたらイチコロよ!』ってなもんか?」

「まあ、そんな感じだな」

「そういった方への対応を誤ると、怒らせてしまうのはまだいいほうで、場合によっては気持ちを燃え上がらせてしまうこともありますね」

「その場合『きぃ~っ、悔しい! こうなったら、絶対オトしてみせるわ!!』って感じだろうか……?」

「プライドの高い令嬢だと、そういうこともあるだろうな」

「アレスさんも気を付けてくださいね?」

「ああ、まあ、そうだな……」


 気を付けろといわれてもなぁ……

 この俺が、そんな器用に女性と接することなどできるわけがないだろう。


「とはいえ、侯爵子息相手にそこまでプライドを高く保てる令嬢など多くはないだろうから、あまり心配することもなかろう。それにお前のいうとおりなら、他家とのつながりも家から期待されていないのだろう? それなら、ある程度適当でも許されるだろうさ」

「どうせアレスさんのことだ、今日ご一緒した令嬢にも時間いっぱいまで魔力操作について語ったのでしょう?」

「そうだが、よく分かったな?」

「お前のやりそうなことだからな……そして相手の令嬢が浮かべていたであろう表情も想像できるというものだ」

「はい、きっと『スンッ……』って顔をされていたことでしょうね」

「はて、どうだったかな……?」


 なんてとぼけてみたが……まさしくそんな感じだったかもしれん。

 ……いやいや、そうじゃない! 彼女は魔力操作の有用性を改めて認識し、その凄さに圧倒されていただけのハズ!!


「とりあえずその調子で、お前の思うとおりにやっていけばいいだろう」

「アレスさんと食事を共にした令嬢たちが魔力操作に目覚めるかどうか……見ものですね」

「俺としては期待したいところだがな」

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