第298話 幸せ過ぎて忘れるところだった

「アレス様、昼食にいたしましょう」

「ああ、もうそんな時間ですか、分かりました」


 などと返事をしたものの、腹内アレス君が「当たり前だろ!」と訴えかけている。

 それはともかくとして昼食をいただくわけだが、今ではお姉さんたちとご一緒している……してもらっている。

 ただ、護衛の任務を疎かにするわけにはいかないということで、全員で一緒に食べるというわけにはいかないようだ。

 そのため、6人いる護衛のお姉さんたちは3人ずつの交代制となっている。

 正直、護衛を舐め過ぎといわれてしまうかもしれないが、俺が魔力をガンガンに込めた障壁魔法で防御を固めたら大丈夫なんじゃないかって思わなくもない。

 しかしながら、お姉さんたちとしても仕事なので、はいそうですかとはいかないみたい。

 というわけで、あまり聞き分けのないことをいうわけにもいかず、おとなしく引き下がる。

 ……なんていいながら、護衛のお姉さん3人が食事を交代する際、俺もそのまま昼食を続けるから結局ご一緒しちゃうことに変わりないんだけどね。


「見るたびに思うが……アレス様は学園に入学してから食べる量をだいぶ抑えられたようだな?」

「ですよね……それに今だからいいますけど、お迎えにあがったときなんかは、本当に驚きましたもん」

「確かに~お屋敷で生活されてた頃とすっごく見違えましたからね~」


 ついに「アレス君って痩せたよね?」トークがきたか。

 よし、早速ここは「エリナ先生のおかげです!」でごり押そうじゃないか。


「あはは、おそらくそれはエリナ先生のおかげですね……入学後の最初の授業で、魔力操作のやり方を改めて丁寧に教えてもらったのですが、そのとき魔力操作の面白さ、奥深さに目覚めたのですよ……なので、痩せることができたのは魔力操作による部分が大きいんじゃないかなって思います」

「ふむ、魔力操作か……なるほどな」

「魔力操作がダイエットに効果的ってわけね! 痩せたいし、私も魔力操作をもっとやろうかなぁ?」

「いやいや、スタイル抜群なキミリさんがこれ以上痩せる必要なんかないと思いますよ? それとは関係なく、魔力操作に取り組むのはとってもいいことだとは思いますけど」

「そっかぁ……先輩、アレス様が私のことを『スタイル抜群』ですって! うふふ」

「むぅ……それは、よかったな……」

「おっと、メルヴァさんだってとってもステキですよ!」

「お、おお、そうか……『ステキ』か、うん」


 いくら褒めるのだとしても、あんまり事細かに体型についてアレコレ述べるのはマズい気がするからね……これぐらいの表現がギリギリかなって感じ。

 それでも、2人は割と喜んでくれたっぽいのでヨシとしておこう。


「それにしてもやっぱり~さすがは元宮廷魔法士団のエースって感じですね~」

「はい! それはもう! エリナ先生の指導はとっても素晴らしいですから!!」

「ふむ……アレス様にそこまで絶賛してもらえるとは、なかなかに羨ましいものだな」

「まあ、エリナさんはカイラスエント王国最強との呼び声も高い方ですから、アレス様の評価も納得ですね」

「学園都市からここまで一緒だったみなさんも、私にとってとても尊敬に値する方たちですよ!」

「あらあら~そんなふうにいってもらえるなんて、嬉しいですね~」

「ああ、それがたとえ世辞だったとしても、悪い気はしないな」

「うふふっ、アレス様のことだから、きっと本心からいってくれてますよ! ねっ?」

「はい、それはもちろんです!」


 そんなわけで、お姉さんたちのニッコリとした笑顔をいただきました!

 それと、エリナ先生が元宮廷魔法士団のエースだったっていうのは原作ゲームの設定だから、もともと知っていた。

 しかしながら、それに加えてカイラスエント王国最強ときたか……ま、当然だよね。

 これは別に、俺がエリナ先生推しだから特別にひいきしているとか、それだけの話ではない。

 以前にも述べたことがあったかもしれないが、エリナ先生は本当に強いんだ。

 原作ゲームにおいても、初登場の時点でラスボス戦に参加してもおかしくないぐらいの高レベルだったし。

 まあ、だからこそ1周目で攻略できないヒロインになってしまったんだけどね。

 とまあ、こんな感じで楽しくお姉さんたちとお話をしながらお昼をいただいたのだった。

 そうしてしばしゆっくりしていたところ、少し離れたところで馬の世話をしていたシノリノさんがやって来た。


「馬たちもじゅうぶん休んだからね、いつでも出られるからね」

「そう……アレス様、お聞きのとおりですのでお昼休憩はここまでとして、そろそろ出発いたしましょうか?」

「そうですね、分かりました」


 こうして馬車に乗り込み、移動再開である。


「アレス様、この調子で何事もなく進めば、おそらく明日の昼過ぎにはお屋敷に到着いたします」

「……そうですか、もうそこまで来ていましたか」


 そういえば、学園都市を出発してからそろそろ3週間になるのか……お姉さんたちとの旅が幸せ過ぎて忘れるところだった。

 でもそうか、ソエラルタウト邸がもうすぐなんだな……

 正直なことをいえば、あんまり行きたくないんだよなぁって思っちゃう。

 でも、ここまで来たからにはそうもいってられないもんね……元気出していこう。

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