第299話 だいたいのことは知られている
学園都市から出発して約3週間が経過した今日は闇の日。
また、ソエラルタウト邸に到着する日でもある。
それを思うと、心が重くなってしまうのも仕方ないことだろう。
なんて思いつつ着替えを済ませ、泊まっていたホテルに併設されている庭園へ向かう。
もちろん朝練をするためだ。
「アレス様、今日は元気がないっすね!」
「いえ、それはまあ……ははは」
「でも、そんなアレス様だからって手加減はしないっすよ!」
「はい、それは望むところです!」
「おおっ! ちょっとは元気が出てきたみたいっすね! それじゃ早速いくっすよ!!」
「お願いします!!」
こうして、タナさんと朝の模擬戦開始である。
ちなみにタナさんは、デッカイ斧をメインウェポンとしている。
いくら魔力によって筋力もアシストされるからといって、女性がデッカイ斧を振り回すのは、やっぱりインパクト大って感じがしちゃう。
「ほいっす!」
「おっと!」
「そいっす!」
「なんの!」
「せいっす!」
「まだまだぁっ!!」
タナさんが斧を振り下ろすときの掛け声は軽い感じなんだが、それは声だけ。
あんなものを真正面から受けるわけにはいかないという感じ。
なので、回避に専念する。
「やるっすね! それならこうっすよ!!」
「おわっとと!」
最初は振り下ろしだけだったのが、徐々に横薙ぎが加わり、さらに突きも増えていく……
しかもその全てが、一度でもヒットしたら即アウトってレベルの一撃たちである。
とはいえ、それは実戦ならというもので、今は訓練用の斧を使っているのでそこはご安心をって感じではある。
それに加えて、俺も魔纏できっちりと防御を固めているので、仮に当たったとしても致命傷とかにはならないはず。
でもやっぱ、威圧感とかがマジで半端ないので、おっかないことこの上ない。
「ふむ、今日もタナは実に楽しそうに斧を振り回しているな」
「相対するほうの身になれば全然楽しくないですけどね……」
「アレス様も~上手く回避ができてますし~合間合間に反撃もちゃんとできてて~とってもいいですよね~」
「そうだな……あれで実は魔法のほうが得意だというのだから、恐れ入るよ」
「ホントですね」
そんな感じで、荒れ狂う斧の嵐を耐え抜きながら、朝練の時間が過ぎてゆく。
「う~ん、そろそろ時間っすね……寂しいけど、今日はこれで終わりっす」
「はいっ! ありがとうございます、タナさん!!」
こうして今日の朝練が終わった。
今回も、実に学びの多い模擬戦だった。
そんなことを思いつつホテルの部屋に戻ってシャワーを浴びてから、朝ご飯をいただく。
「アレス様、昨日も申しましたが、今日の昼過ぎにはお屋敷に到着できると思います」
「はい……」
改めてルッカさんから、この幸せな3週間の旅がもうすぐ終わることを告げられた。
ああ……家に着いたらいろいろと面倒な感じになるんだろうなぁ。
いやまあ、義母上は俺に歩み寄ろうという気持ちがあるのだろうから、そこはあんまり心配していない。
それについては今回の旅の、かなり気を使ったであろう人選からも窺い知ることができる。
ただ、それはいいのだが……いわゆるアレス派という俺の意思に関係なく勝手に後継者争いをしている連中がいるはずだからね……
しかも、その中にマヌケ族も紛れ込んでいる可能性がある……これが実に厄介だ。
あ、そういえば、俺が学園に入学してからのことってソエラルタウト家の中ではどの程度知られているのだろう?
ちょっと聞いてみるか。
「あの、私の学園入学後について、屋敷内ではどれぐらい知られているのですか?」
「そうですね……学園で真面目に魔法や勉強などに取り組んでいることは当然知られています」
「そういえば、初めてその話がソエラルタウト邸に伝えられたとき、ほとんどの者が信じていなかったな……」
「確かに……でも痩せたって聞いて期待し始めた子もいましたよね?」
「いましたね~きっとあの子たち、今のアレス様を見たら喜びますよ~」
お姉さんからの期待なら嬉しいけど……「子」っていうのが引っ掛かるな。
「そして、王女殿下の派閥結成に深く関わったという話……」
「つーか、ほかの家に仕えている奴に聞いた話だと、アレス様が主導してできた派閥だっていってたぜ?」
いや、確かに熱血教室は開講したけどさ……そういう捉え方をされているのか……
「それから、ミーティアム家のご令嬢を巡ってエンハンザルト家のご令息と決闘なされた話……」
「ああ、あったっすね! その話を聞いたときは、私も燃えたっす!!」
うん、あったね。
しかもそれで異世界あるあるの「自重せよ」って話をされたんだっけ……懐かしいな。
「それ以降については、学園都市に移動を始めていたので私は分かりません」
「そうねぇ、それ以降だとゴブリンダンジョンを攻略したという話が伝わってきたわね……しかもそのとき、ゴブリンエンペラーを討伐したとか! 本当にアレス様は凄いわぁ」
そういってルネさんは、俺の頭をよしよししてくれる。
これについて気恥ずかしさもないではないが、嬉しくもある。
そしてなるほど……伝わり方が微妙な部分もあるが、だいたいのことは知られているようだ。
こうやって改めて聞くと、「アレス派が息を吹き返しつつある」というファティマの予測は間違っていないかもしれん。
これはやはり、後継者争いに参加する気がないことを義母上に今一度しっかりと伝えておかねばならないだろう。
信じてください義母上! 私は決して兄上の地位を脅かすつもりなどありませんから!!
そんなことを思いつつ朝ご飯を食べ終わり、ソエラルタウト邸へ向けて出発である。
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