第405話 機会は意外とどこにでも転がってそう

 ギドの手配したホテルに到着。

 ただ、今は既に夜の11時、ホテルの食堂は閉まっている。

 その点お菓子的な意味合いの強い物とはいえ、スライムダンジョンでたくさん飲み食いしたのだから、俺としてはもういいでしょって感じ。

 でもね、腹内アレス君が「主食も別腹」とかおかしなことをおっしゃるのだ……

 はぁ……分かりましたよ。

 というわけで、部屋で適当にマジックバッグから主食と呼べそうな食べ物を取り出して食べることに。


「今日はいっぱい動いてカロリーを消費したから、これぐらいイイよねっ!?」

「こんにゃくゼリー程度なら、大丈夫なはずですわ!」

「マスカットの粒がまるごと……はぅっ!」

「これはしばらく、お夜食には困らないかもしれませんねぇ」

「はわぁ~っ、この甘味の中に酸味と苦味の利いたグレープフルーツゼリーも絶品!」


 とまあ、俺がサンドイッチを食べているあいだ、使用人たちはスライムのドロップ品をまた食べていたのだった。

 なんというか、サナのフルーツゼリーに対する並々ならぬ執着具合もなかなかヤベェけどな……

 こうして腹内アレス君も満足してくれたところで、風呂に入ろう。

 そこで嬉しいことに、ここのホテルでは深夜でも大浴場が利用可能らしい、これは行かねば!


「というわけで大浴場に行ってくる! ギド、供をいたせ!!」

「御意!」

「あ~っ! いいなぁ~っ!!」

「悔しいですが、こればっかりは仕方ありませんものね……」

「甘くてトゥルットゥルのピーチが舌にとろけて……まさに夢見心地」

「……サナさんは未だにフルーツゼリーに夢中のようですわね」

「こうならったら、私もっ!」

「はぁ……わたくしもご一緒しますわ……」


 そして向かった先の大浴場は……オシャレなスパって感じだね。

 まあ、なんとなくホテルらしいっていえるかな?

 それはともかく、大浴場の名に恥じぬ広い風呂を堪能させてもらうとしよう!

 そんな感じでしばらくは無心で風呂を楽しむ。

 ある程度くつろいだところで周囲に声が漏れるのを魔法で遮断し……


「ギドよ、ハナさんは病気だといわれていたが……吸命の首飾りか、それに類するものが使われていた可能性はないか?」

「やはりその懸念をお持ちでしたか……しかし、その可能性はないと見てよろしいかと。また、先ほど軽く調べてみたところ、街に同族が何かを仕掛けている痕跡も見当たりませんでしたので、ご安心ください」

「そうか、ホテルの手配だけでなく、そこまでしていたとは……さすがギドだな」

「お褒めに預かり、光栄にございます……ただし、情報収集をしている者がこの街に訪れることはじゅうぶん考えられます。そこで今回は助かりましたが、運悪く父親と母親が命を落とすようなことがあった場合……その後のヒナさんが狙われる可能性はあったかもしれません」

「そう……なのか? でも、ヒナちゃんは貴族の娘でもないし、今のところ保有魔力量だってそうでもないぞ?」

「はい、おっしゃるとおり力のある貴族の子女のほうが狙われやすいでしょう……ですが、だからといって平民が狙われないとは限りません。現にアレス様もそのような場面に遭遇しましたでしょう?」

「そういえば、そうだったな……」


 というか、俺が始末したマヌケ族って平民相手に暗躍してた奴らだったよな……


「ヒナさんであれば大丈夫だったかもしれませんが……不幸が重なって道を踏み外す方というのは少なからずいらっしゃいます……そして、その際に人が持つ負の感情……エネルギーと言い換えてもいいかもしれません、これが狙い目でもあるのです」

「ああ、そうか……必要なのは別に魔力に限った話じゃなかったんだったか……」

「それに、負の感情を持った人間の瞬間的な爆発力とでもいいましょうか……ときに彼らの行動力は身分や身体能力からは信じられないぐらいの結果を生み出すことがあります……そうして始まった負の連鎖はさらなるエネルギーを生み出し、我々はそれを集めていたというわけでもあります」

「う~む、なるほどなぁ……」


 原作アレス君もそうだが、これまでにも追放されてきた貴族の子女たちが一旦破滅させられてたのって、そういう負の感情を抱くように仕組まれていた部分もあったのかもしれん。

 まあ、原作ゲームでも主人公に対する負の感情バリバリだったもんね……

 そしてソレバ村でも、ナミルさんが命を落としたあとで、あのマヌケ野郎がテグ助に真実を語って……とかそういうシナリオが待っていたのかもしれない。

 それに、あのうさんくさい導き手のゼン……アイツが「導く」と称して動き出すのがそういう人の心が弱ったタイミングなのかもしれんしな。

 むむむ……人が生きていれば、そういう機会は意外とどこにでも転がってそうだし、これはなかなかに厄介だぞ……


「私が話し始めたことですが、あくまでもこれはひとつの可能性に過ぎないものですので、あまり深刻にお考えになりませんように……」

「あ、ああ……さすがに、そこまでは俺の手に余ることだからな……俺にできるのは、目の前で困っている奴がいたら、ちょっと手を貸すぐらいだろう」

「困っている者に手を貸すだなんて、ご立派になられて……」


 とかいいながらタオルで目元を拭うマネをするギド……

 まあ、シリアスになり過ぎないよう気を使ったのだろうね。

 そんなこんなで、今回のことについてマヌケ族の関与がなかったということに一安心しながら、風呂を上がる。

 そして風呂上りには、タピオカ入りアイスミルクコーヒーで乾杯。


「くぅ~っ、コイツは美味いっ!!」

「それはようございました」

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