第404話 ご心配には及びません

 ギルドのオッサンに帰還報告を終えた。

 また、魔石やドロップ品の換金については、当然のことながら腹内アレス君がお菓子類を売ることに強く反対したため、魔石のみとなった。

 まあ、魔石オンリーでも物凄い量があるからね、それだけで一財産といえる。

 ちなみにユニオンスライムの魔石だが、多少違うとはいえノーマルスライムとほぼ同じため、その珍しさぶん査定金額に多少色が付いたという程度だった。

 もしかしたらその辺について渋さを感じてしまうかもしれないが、フルーツゼリーの詰め合わせというドロップ品は腹内アレス君にとって金額以上の価値があるからね、魔石の査定金額など気にならないんだ。

 というか、ソエラルタウトは経済力に自信アリだからね、その程度のことについてゴチャゴチャいう必要がないのさ。

 それにしても、今回はダンジョンのモンスターだからドロップ品という嬉しい物品も付いてきたが……地上だとそれがないんだよな。

 スライムを討伐しても、魔石以外は強酸性の水たまりを残すだけだし……普通の冒険者はまず手を出さないだろうなぁ。

 ダンジョンでも地上でも敬遠されてしまうスライム……実に不憫だ。

 でもまあ、地上のスライムってその辺に転がってるゴブリンの死体なんかを消化したりする森の掃除屋みたいな存在でもあるみたいだし、世の中的には極端に増えたり進化したりしない限り、無理に倒す必要がないという認識なのかもしれない。

 なんてことをつらつらと考えていると、宴会野郎どもの声が聞こえてくる。


「お前ら、わかってんだろうな?」

「へっへ~儲けさせてもらったなぁ?」

「クッソ……」

「お前だぞ! お前が『大丈夫だ、スライムはヤベェんだからよ!!』っていったからこうなったんだからな!!」

「そうだそうだ! 責任を取れぇ!!」

「うっせぇ! お前らだって自分の意思で賭けに乗ったんだろうがよ!!」

「うぅ……あのときゴメンナサイしとけば……」

「か、感動の涙は流したわけだから……涙って部分は正解にしてくんないかな……?」

「えぇい、もういい! どうとでもしやがれ、コラァァァ!!」


 そういえばコイツら、賭けをしてたんだったな……

 そして、昼間のメシ屋で最初に煽ってきた連中が盛大に外したってわけだね。

 まあ、煽ってきた連中ってイキりたい盛りの比較的若そうな奴ばっかだったしなぁ……

 そんな中で、俺みたいなさらに若い奴が動くってほざきだしたら、イラついてしまうのも仕方がなかったのかもしれない。

 とはいえ、一応俺も魔力を抑えていたとはいえ、装備品とかである程度の実力も想像がついただろうに……

 それにギドや3人娘も周りにいたんだからな、煽るにしても相手のレベルを把握してからにしろって話ではある。


「ま、これに懲りて誰彼構わず突っかかっていくのは控えるこったな!」

「というわけで、今日の賭けはこの場の酒代だけで勘弁してやる」

「え! それって……?」

「ん? なんだ、もっと払いたいのか?」

「い、いや! じゅうぶんです!!」

「そうか、そんじゃまあ、ごちそうさん!」

「アリガトッ! ザイマスッ!!」

「ふぅ……助かった……」

「俺なんか……あのままだったら、装備を売って金に換えなきゃだったぜ……」

「チッ、ビビらせやがって……」

「ちょ、おまッ! 余計なこというなっての!!」

「おう、どした? もっと俺たちに酒を奢りたくなったか?」

「いえッ! ホントにもう、大丈夫ですんで!!」

「あ、あはは……もうマジで勘弁してぇ……」

「ホラ、お前はもう、しゃべんな!」

「……チッ」


 たぶん、あの若い冒険者たち……しばらく賭けに勝ったオッサンたちにイジられそうだな。

 ま、強く生きてくれたまえ! 若人たちよ!!

 とまあ、そんなこんなで宴会もお開きとなり街に戻るわけだが……なんだろうこの祭りのあと感は。

 それはそれとして、ヒナちゃんがにっこにこでゲイントと手をつないで歩いている姿が微笑ましい限りだね。

 そして、上級ポーションでお母さんの病気も完治するだろうし、もう心配しなくていいんだ、存分に笑顔でいてくれ。

 ただし、ひとつ気がかりなのは……ハナさんが病気ではないかもしれないことだ。

 やっぱり、ソレバ村のナミルさんの件があったからな……吸命の首飾りの存在が頭をチラつく。

 というわけで、悪い奴に上級ポーションを奪われたらいけないからという建前で、ゲイントとヒナちゃんを家まで送る。

 そしてその際、魔力探知で吸命の首飾りの有無を調べるつもりだ。

 そうしてしばらく歩き、家の前に着いた。


「今日は世話になりっぱなしで、本当に感謝の気持ちでいっぱいだ、ありがとう」

「アレスさん、それに皆さんも! どうもありがとうごうざいます!!」

「ヒナちゃんの優しい想いが神様に通じたのさ」


 この出会いも、転生神のお姉さんのお導きなのかもしれないしな。

 そうした挨拶を交わしながら、家の中の様子を魔力探知で探る。

 ……ふむ、人間の反応がふたつ。

 魔力の感じ的に、片方は比較的弱っているので、こちらはハナさんだろう。

 そしてもう片方は、看病か何かをしているって感じかな?

 それはいいとして……うぅむ……ないな……吸命の首飾りの反応がない。

 ということは、違うのか? 本当に病気?

 まあ、それならそれでいいが……あとでギドにも確認しておいたほうがいいな……ってあれ? ギドがいない!!

 えぇ……どこ行ったんだ……

 とりあえず、それはひとまず置いておこう。


「それじゃあ、今日のところはこれで……お母さんによろしくね」

「はいっ! それじゃあ、おやすみなさい!!」

「アレスさん、まだ街にいるんだろ? そのときまたな!」

「おう、もう夜遅いが、家族みんなで幸せな時間を過ごしてくれ、それじゃあな!」


 こうして、ゲイントとヒナちゃんと別れる。


「そういえば、泊まるところを探さなきゃだったな……」

「いえ、宿泊施設の手配を済ませましたので、ご心配には及びません」

「おあっ!?」

「え? いつの間に?」

「……やられましたわ」

「気付かなかった……またしても不覚」


 いないと思ったら、ホテルの部屋を手配しに行ってたらしい……なんて奴だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る