第403話 巡り合わせの幸運

 感動の再会が一段落ついたところで、ゲイントも一緒にギルドのオッサンに帰還報告をしに行く。


「いったとおり、無事に戻ってきたぞ」

「おう、そうみたいだな! ……それにアンタも、元気そうで何よりだ!!」


 そういって、オッサンがゲイントに話しかける。


「……心配をかけて申し訳ない」

「いやぁ~大繁殖中のスライムダンジョンから生きて帰ってくるとは、大したもんだよ!!」


 まあね、セーフティーゾーンがあったとはいえ、モンスターに囲まれた状況で1週間1人で持ちこたえたんだ、オッサンの称賛にも納得だね。


「……俺の戦闘スタイルが上手い具合にスライムとの戦闘にマッチしていたのと、安全地帯があって食べる物もドロップしてくれたなど、条件に恵まれたんだ……そうした心細い中で、アレスさんたちが救出に来てくれて本当にありがたかった」

「まあなあ……アンタの事情も分からんでもないが、これからはもうちょっと自分を大切にな!」

「ああ、もう今回ほどのムチャはしない……と思いたい」

「その口ぶりからして……もしかして、あの逸品を手に入れたのか!?」

「ああ、アレスさんたちのおかげでな」

「おおっ、そいつはよかったじゃないか! 本当にアンタは幸運男かもしれないな!!」

「俺1人の運じゃ無理だったさ……きっと、アレスさんたちが最高のツキを運んできてくれたんだ」

「そうか、それなら巡り合わせの幸運に感謝しないとな!」

「ああ、感謝の気持ちでいっぱいだよ」


 もしかしたらユニオンスライムって奴は、レア度の高いガチャを核の数だけ何度も回せる、みたいな扱いだったのかもしれない。

 まあ、俺ってなかなかモンスターの引きがいいもんね。

 といいつつ、原作ゲームに登場予定のはぐれオーガにはなかなか出くわさなかったけどさ。

 そして結局、その個体に出会っていたのかどうかすらも定かではないし……

 そしてオーガといえば、ゲン……最近見ていないものの、夢でたまに会えるから寂しさと申し訳なさも和らいではいる。

 だが、思い出すたび、やはり自分のふがいなさに後悔の念が湧いてくるのも事実。

 ……それを思うと、今回はゲイントを救出できてよかった。

 あまり感傷に浸っていると、周りのみんなを心配させてしまうからね、今はこれぐらいにしておこう。

 気持ちを切り替えて、ダンジョン内の様子やユニオンスライムのことをオッサンに報告しようじゃないか。


「さて、そろそろ話題をスライムダンジョンの現状に移そうと思うのだが……」

「おっとっと、ついおしゃべりが過ぎてしまったな……よし、聞かせてくれ」

「まず、俺たちはゲイントがいた8階のセーフティーゾーンまで最短距離を選んで進んだ。その道すがらスライムも狩りながらだったので、ある程度は間引きもできたんじゃないかとは思っている……まあ、選んでない道には討ち漏らしもいくらか残っているだろうけどな。そして8階はゲイントが既にある程度狩っていたのもあるが、9階も含めて多少ペースを落としてそれまでよりも多めにスライムを狩っておいた」

「ふむふむ……ということは、10階のボスを倒して転移陣で帰ってきたのか?」

「ああ、そのとおりだ。そして10階に出てきたボスなんだが……確か、ここではビッグスライムが出るのが定番なんだよな?」

「おう、このダンジョンに挑戦した数少ない冒険者たちの話ではそうだったし、同じように領軍の人らもそういっていた、もちろんギルドに残されている資料にもそう書かれている。それがどうかし……ああ、ビッグスライムじゃないモンスターが出たのか?」

「そう、やたらデカくて、複数の核を持つスライムだった。まあ、サイズに関しては大繁殖中だったからといえるかもしれないが……複数の核を持っていたっていうのは、ビッグスライムと少し違うだろう?」

「複数の核……それって、全ての核を破壊するまで倒したことにはならなかったってことだよな?」

「ああ、最後の1つを砕くまで魔石やドロップ品も出なかったし、階段や転移陣も出現しなかったからな……ああ、そのとき出た魔石がこれらだ」


 そういいながら、ユニオンスライムの魔石を出した。

 ほとんどノーマルスライムの魔石と変わらないかもしれないが、念のため分けて回収しておいたのさ。


「ふむむ……いわれてみれば、確かに少し違うな……そして、聞いた特徴からして……たぶん、ユニオンスライムだったんだろうな……なんてこった、ただでさえ不人気ダンジョンだというのに、さらに敬遠されてしまうかもしれん」

「まあ、レア度の高いスライムではあるのだろうが……そこまでか?」

「ああ、実質的に核の数だけビッグスライムと戦うみたいなことだからな……1体だけでもキツイっていうのに、体力、魔力、そして精神力がどこまで持つのかって話だよ」

「ふむ……そうともいえるか」

「だが、知らせてくれてありがとう……この点についてはきちんと報告を上げておくよ」

「ああ、そうしてくれ」

「ところで、今回は10階までで帰ってくることになったが、この先に挑戦……もっといえば攻略するつもりか?」

「ああ、そのつもりだ」

「そうか、お前さんたちならやり遂げてしまいそうだしな………………これはギルドマスターから領軍の出動を一旦保留してもらうようにいってもらったほうがいいか?」


 後半部分は、オッサンが小さくつぶやいた独り言だった。

 確かになぁ、領軍が来る頃には、スライムの数もいつものダンジョンに戻っていることだろう。

 そうなると無駄足、どころか軍を動かしたぶん大損だな。

 というか既に10階まである程度の間引きも済んだ状態だ……階が進むほどモンスターが強くなり、ドロップ品も高価になるとはいえ、今の時点でもまあまあ損になるかもしれん。

 ま、どういう判断をするのかは、ここの領主……は王都かもしれないので領主代理か、とにかくその辺の責任者に任せるとしよう。

 ……それで文句をいわれたら、傲慢アレス君で受けて立とう、それがいい。

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