第402話 帰ってきた

 ユニオンスライムの魔石とドロップ品を回収しているあいだに、11階へ続く階段と1階へ飛ばしてくれる転移陣が出現していた。

 また、この10階は中ボスの部屋ということもあってか、ダンジョン攻略おめでとう的な隠し部屋はないようだ。

 でもまあ、ノーマルスライムの魔石とはいえ大量だったし、たくさんフルーツゼリーの詰め合わせも頂いた。

 それに何より、ゲイント念願の上級ポーションを授けてくれたわけだからね、隠し部屋なんかなくてもオールオッケーさ!


「よし、それじゃあ忘れ物はないな? 転移陣で1階へ戻るぞ!」

「は~い! それにしても、今日は上級ポーションも出たし、とっても充実した1日だったよねっ!!」

「そうですわね、ボスが特別だったからというのもあるのでしょうが……運がよかったと思いますわ」

「……果実充実」

「あっ! サナがフルーツゼリーのことしか考えられなくなってるぅ!!」

「サナさんはなんと申しましょうか……フルーツゼリーがよほどお気に召したようですわね……」

「これで、ハナの病気を治すことができる……ハナ! ヒナ! お父さんやったぞ!!」

「……皆さん、ここはまだダンジョンですよ? おそらくこれからモンスターと遭遇する恐れはないとはいえ、外に出るまでダンジョンアタックは終わっていません、まだ気を緩めませんように」


 確かに、前世でも家に帰るまでが遠足だったからな……それを考えると、ダンジョンを出るまでといったギドはかなり譲歩してくれたのかもしれない。

 まあ、俺は魔纏を常時展開していることもあって、気を緩めてなんかいなかったといえるけどね!

 安全のため、ゲイントにも魔纏を施したままだしさ!!

 あ、ちなみに「ハナ」っていうのはゲイントの奥さんであり、ヒナちゃんのお母さんのことね……皆まで言うなって感じだったかな?

 そんなこんなで、転移陣で1階へ飛ぶ。

 そして、1階に着いてみると……やはりというべきか、スライムがここまで降りてきている様子はない。

 まあ、最短距離を選んで10階まで進んだとはいえ、それなりにスライムを間引くことはできていただろうからね。

 というわけで、無事ダンジョンから外に出る。


「う~ん、やっぱり外の空気は違うねぇ~」

「ええ、夜風が心地いいですわ」

「……果汁がじゅわぁ~っと」

「あ、約1名、まだダンジョンから帰ってきてないみたい」

「ええと……サナさんについては、今日はもうこのままにしておいたほうがよさそうですわね……」


 ゲイントを発見してから、進行速度が多少のんびりしたものになったとはいえ、それまではハイペースで進んでいた。

 それで今、外は夜。

 約半日でゲイントを連れ帰ってこれたのは、まあまあだったんじゃないかなって気がするのだが、どうだろう?

 なんて思っていると、少し離れたところで明かりが灯っており、ガヤガヤとした声も聞こえてくる。

 そっちに街があることもあり、向かって行くと……


「……お? おいッ! あれを見ろ!!」

「なんだよ……って、おあっ! アイツら、帰ってきやがった!!」

「……ん? 1人多い気がするが……ということはもしかして!?」

「そうだ、あれはゲイントだ! よかった、生きてたんだな!!」

「あんにゃろう、家族を心配させやがって……」

「起きて、ヒナちゃん! お父さんだよ! お父さんが帰ってきたんだよっ!!」

「……うぅん……お……とう……さん? ……お父さん!?」


 アルコールらしき匂いがする……コイツら、飲んでやがったな!

 それにいくつか屋台も並んでいるし……俺たちがダンジョンにいるあいだ、宴会三昧だったというわけか、なんて奴らだ!!

 ……まあ、ヒナちゃんと一緒に待ってたって感じでもあるのかな?

 そしてそのヒナちゃんも、夜が更けていたのと、心配し疲れていたのとで寝てしまっていたのだろう。

 知り合いらしきお姉さんに起こされて、ゲイントのもとへ飛んできた。


「お父さん! お父さぁ~ん!!」

「ヒナぁ!!」


 抱き締め合う父娘。

 とても感動的なシーンだね。


『……』


 そこで俺の中の……原作アレス君の部分が、なんともいえない複雑な気持ちになっている。

 まあ、原作アレス君も父親というものに対して、いろいろ思うところはあるだろうからね……

 それにちょっと前までソエラルタウト家の屋敷で父親を除く家族と触れ合ってきたばかりなこともあって、自分の父親の冷淡さがより色濃く感じてしまっても無理はないだろう。


「……坊ちゃまには、我々がついております」


 そんな原作アレス君の心情を感じ取ったのか、ギドが声をかけてきた。

 ……俺自身は無意識のつもりだったのだが、たぶん切なそうな表情になってたんだろうな。


「……なんのことだ? 俺のことは『アレス様』と呼べといつもいっているのに、まったく頭の弱い奴だ」

「おっと、これは失礼いたしました」

「フン!」


 ……と原作アレス君がおっしゃっていました、もちろん俺の言葉ではありません。


「……蜜月」

「はぁ……ギドさんはいつも抜け駆けをしますわね……」

「え? えっ? ……あっ!」

「ノムルさん、それ以上は口を慎みますように……よろしいですわね?」

「い、いえす……」


 というわけで、無事ゲイント救出も成功したところで、ギルドのオッサンに帰還報告でもしますかね。

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