第406話 スライムハンター
「お2人とも、一点集中でいきますわよ!」
「よ~し、今日も頑張っちゃう!」
「ユニオンスライムの分厚いボディを貫通させるイメージ……」
「昨日のスライムダンジョンを経て、どこまで成長したかを見せていただきましょう」
「わ~っ! またギドがドヤ顔先生モードになってるぅ~!!」
「まあっ! メガネまでかけていらっしゃいますわよ!? 視力も悪くないはずですのに!!」
「無駄に小道具に凝る辺りも、実にうっとうしい」
「ほらほら、そういっているうちに時間がどんどん過ぎてしまいますよ?」
「うぅっ、それはマズい!」
「はっ! これは、わたくしたちの集中を乱すギドさんの罠ですわ!!」
「その手には乗らない、冷静に魔力を込めて……撃つ!」
とまあ、こんな感じで今朝も俺の障壁魔法に挑戦する3人娘であった。
ふむふむ、まだ障壁魔法を破るには至っていないが、昨日より進歩しているのは感じる、よきかなよきかな。
そうした挑戦のあとは、俺も起床して朝練に向かう。
今日はホテルの中庭でレミリネ流剣術の型稽古だ。
また、使用人たちにもレミリネ流を教えているので、一緒に型稽古をしている。
とはいえ、まだまだ完璧とはいえない俺なんかが教えるっていうのも、おこがましいことではあるんだけどね。
そんなことを思いつつ、約1時間の型稽古を終えた。
そして部屋に戻り、シャワーで汗を流したあとは朝食。
昨日の夜は食堂でご飯を食べられなかったからね、朝は食堂でしっかり食べるよ!
ちなみにこのホテルの食堂は、泊り客以外も利用しているらしく、なかなかにワイワイしている。
というわけで、聞こえてくる周囲の会話に耳を傾けてみると……
「なあ、もう聞いたか?」
「聞いたかって、何を?」
「昨日、スライムダンジョンから1週間ぶりに帰ってきたって奴がいるらしいぜ?」
「スライムダンジョンって……確か今、大繁殖中だから行ったらヤバいって話だった気がするけど?」
「そう、そのとおりだ! しかもソイツ、冒険者が本業ってわけでもなく、普段はその辺で猟師をしているだけの奴だって話だから驚きだよな!!」
「えぇっ! あの魔法士ですら、半端な実力しかなかったらキツイって聞いたよ!? ……それってホントに猟師なの?」
「ああ、それは間違いないらしい……まあ、一応腕は確からしいけどな」
「それでも信じられない……それとも、猟師ならスライムを余裕で倒せるとか?」
「まあ、腕さえよければ可能ではあるのかもしれないが……あのダンジョンのドロップ品のほとんどはしょうもねぇ菓子ばっかだろ? 矢とかの消耗品のことを考えれば、割に合わないって感じだな」
「ああ、あのグミとかってやつだっけ? あんなの、酒のつまみにもなりゃしないだろうからねぇ」
「いや、それは意外と合うって奴もいるから下手なことはいえないが……でもやっぱ、そんなもんのために命を張るのはバカらしいって話だ」
「うん、確かに」
おいおい、スライムダンジョンさんのドロップ品をバカにするのはいただけないぞ?
特に、腹内アレス君にとってはパラダイス級のダンジョンなんだからな!!
「……まあ、それがこの街に住むみんなの見解だったわけだが……あのダンジョン、意外とオイシイかもしれん」
「美味しい? そりゃ、お菓子の好きな女子供ならそうかもしれないけどさ……」
「いや、その点についても最近は『スィーツ男子』とかいうのがいるらしいからな、一概にはいえんだろう……お前はその辺ちょくちょく偏見があるから、気を付けとけ……ああ、そうじゃなくてな、オイシイっていったのは……あのダンジョンから上級ポーションが出たらしい、しかも最奥まで攻略したわけでもなくな!」
「じ、上級!? しかもそれで完全攻略じゃないって……それなら、最上級も!?」
「ああ、それもあり得るし、最上級とまではいかずとも、等級の高いポーションが定期的に手に入れば……」
「……ゴクリ」
まあ、そういう一攫千金を狙うっていうのも……ダンジョンの醍醐味ではあるんだろうなぁ。
「おい、そこのアホガキども、黙って聞いてたら……スライムダンジョンを舐めると痛い目にあうぞ?」
そんな比較的若そうな兄ちゃんたちの会話に割って入るオッサンがいた。
「あ? オッサンが偉そうに、なんのつもりだ?」
「ああ、そっかそっか、な~るほどね、ライバルを減らしてポーションを独り占めってわけだね?」
「アホ、そんなんじゃねぇ……ゲイントの腕は超一流でオメェらとは違うんだ……甘い考えで行くのはやめとけ」
「ケッ! ビビりのオッサンは黙っとけよ!!」
「いるんだよね~こういう説教したがりのオジサンってさ……恥ずかしいからそういうのはやめといたほうがいいよ?」
「ったく、適当に聞きかじっただけなんだろうが……ゲイントだって自分だけの力で生還したわけじゃねぇからな?」
「ハァ? ゴチャゴチャうるせぇなぁ! オッサンに関係ねぇだろうがよ!!」
「えぇっと……そうなの?」
あ、さっそく片方は弱気になっちゃった。
「ほら、オメェらの斜め向かいのテーブルにいる人ら! その人らがゲイントを救出してきたんだ……少し話を聞かせてもらって、頭を冷やせ」
あのオッサンは昨日ダンジョン前で宴会をしていたうちの1人なんだろうなぁ。
それはともかくとして、話を振られたのなら仕方ない、聞かせてあげようじゃないか……俺たちの武勇伝をな!!
そんなわけで、1階から10階までの様子を語って聞かせてやった。
「と、当然、スライムダンジョンが危険なのは俺もじゅうぶん承知していたつもりだったが……30メートル級のスライムってなんだよそりゃ……」
「あわわ……そんなの、無理だよぉ……」
「……すんません、調子に乗ってましたァ!!」
まあね、あんまり軽い気持ちで行くのはどうかと思うからね、現実ってやつを教えてあげた。
「……だが、本気でスライムダンジョンで稼ぐ気があるのなら、ゲイントに弟子入りでもしてみたらどうだ? 中級ポーションなら10階のボスを倒さなくても出たみたいだしな、8階のセーフティーゾーンを上手く利用しつつ中級ポーション狙いで9階までを主な狩場にするのは悪くなかろう……それに、オークとかの素材には負けるかもしれんが、ドロップ品のスィーツも意外と悪いもんじゃないぞ?」
「弟子入りって……オレらが?」
「中級ポーションでも悪くはないけど……う~ん……」
「そいつはいいや! どうせオメェらも暇でブラブラしてんだろ? この際だからゲイントに弟子入りしてみろ! なんだったら、俺がゲイントに紹介してやらぁ!!」
なんか、今度は逆にオッサンが乗り気になってきたぞ……
「まあ、俺からもゲイントに口添えしてやってもいい」
「おっしゃ、決まりだ! ゲイントの技術をシッカリと叩きこんでもらいやがれ!!」
「なんか、話がどんどん進んでくぞ……」
「あ、あはは……僕らの将来は猟師……なの?」
「なるほど『スライムハンター』か……フフッ、カッコいいじゃないか!」
「スライムの恐ろしさを知った上でなら、俺も文句はいわねぇ、存分に狩ってこいやァ!!」
「ま、まあ、当初の目論見どおりではあった……のか?」
「……ねぇ、僕って完全に巻き込まれだよね?」
こうして、若きスライムハンターたちが顔に疑問符を浮かべながら産声を上げたのだった。
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