第360話 さらに賑やかになりそうですね

 お昼までスノーボードを楽しみ、これから昼食といったところ。

 そこで、先ほどのスポーツ用品店の店員を誘ってみた。

 すると、快く応じてくれた。


「それにしても、まだ道路も完成していなかったのに、よく思い切ったものだな?」

「なんのなんの、これでも少し前まではマジックバッグに夢と商品を詰めて独りで行商をしておりましたからね、ちょっとやそっとじゃ物怖じしませんよ」

「ほう、独りで行商とは、やるじゃないか」

「まあ、今にして思えば、若さゆえの怖いもの知らずだったのでしょうね」


 この店員……いや、期待を込めて支店長と呼ぶべきかな、身体から発する魔力の感じから見て、保有魔力量は一般的な平民と変わらないだろう。

 そんな中で、独りで行商をして回っていたとなると……なかなか胆力のある男といえそうだね。

 おそらく剣術など物理戦闘にそれなりの自信があってのことなのだろうが、それにしてもよくやったというものだ。


「それに領都からここに至るまでの工事中の道路には、ソエラルタウト軍の方々が大勢いらっしゃいましたからね、野盗はもちろんモンスターどもも容易には近づけなかったことでしょう」

「ふむ、確かにそうだな」


 大半が工兵とはいえ、兵士には変わりないからな、そう考えれば今はむしろ安全だったともいえるか、なるほどな。

 なんにせよ、なかなか面白い支店長だね、気に入ったよ。

 そんなおもしれー奴には、魔力操作の素晴らしさを語ってやろうじゃないの!

 これから客がいない暇なときとかにやっとくといいよ!!

 などと思いながら、昼食の後半は支店長に魔力操作について語って聞かせたのだった。

 そして、そろそろ食事を終えようかといったところでメメカがやってきた。


「アレス様、今お時間よろしいでしょうか? お頼みしたいことがあるのですが……」

「おう、いくらでも構わんぞ」

「……アレス様……アレス様!? それってもしかして……でも……えぇっ!!」

「フッ、ウワサとは全然違う見た目だっただろうからな、驚くのも無理はあるまい」

「……どこかの由緒ある家柄の方だろうとは思っていましたが……まさかソエラルタウト家のご子息様だったとは……」

「おっと、今は冒険者のアレス君だからな、そのつもりで気楽に接してくれていいぞ?」

「そ、それは……いえ、そういうことでしたら……私の大事なお客様の1人として、今までどおりに対応させていただきましょう」

「おう、そうしてくれると嬉しい」


 サッと俺の希望を汲み取ってくれるとはね、ますますナイスな支店長だ。

 これからソエラルタウト領にいるときに買い物をするときは、まず支店長に声をかけてみるとするかな?

 とはいえ学園もあるし、そんなにここにいないけどさ。


「ああ、待たせてしまったな……」

「いえ、お気になさらず」


 こうしてメメカの依頼に応えるため、スノーボードはひとまずお預けだ。

 そしてメメカの依頼というのは、街の開発予定地の外周に城壁と堀を築くことだった。

 というのも、道路工事が終わりに近づいて、工兵の手が空いてきたからね。

 機能的には俺の地属性魔法でドンと一発決めるだけなんだけど、最後の仕上げを工兵が担当するって感じかな?

 それと、今まではソエラルタウト軍を中心とした自衛能力のある人間ばかりがここで作業に当たっていた。

 だが、まもなく道路が完成することで、領民などのさほど戦闘能力のない人間が次々とこちらにやって来ることが予想される。

 そういった領民の安全のためにも、今のうちに構築しておくって感じだね。


「目印を立ててありますので、それに沿ってお願いします」

「うむ、心得た!」


 というわけで、上空に飛び立ち、メメカのいう目印というのを確認する。


「……なるほど、雪山も含めてぐるりと囲んじゃうというわけか……腕が鳴るねぇ」


 そうして確認も済んだところで、さっそく目印に沿ってまずは地属性の魔法でガッチガチに堅固な石の壁を生成する。

 フフッ……ハーッハッハ! この石の壁はちょっとやそっとじゃ壊せないぞぉ!?

 それが終わったら、次はお堀ちゃんだ!

 こちらも気合を入れて、城壁のさらに外側をこれまた地属性の魔法で掘って固めた。


「こんなもんで……どうだい?」

「お見事にございます、あとの仕上げは工兵たちにお任せください」


 出来具合を確認し、そう答えたメメカの顔はとても満足そうなものだった。

 加えて、護衛のお姉さんたちからも感想をいただいた。


「ふむ、もし仮にこの街を攻め落とすとなると、かなりの苦戦を強いられそうだ……」

「確かに……魔法士をかなりの人数集めなくちゃいけなさそうですよね?」

「将来的には、この上さらに防壁魔法で防御力を高めるつもりなんだろ? そんなん誰が落とせんだって話だよな!」

「まさに難攻不落っすね!」

「でもでも~油断は禁物ですね~」

「そうねぇ……外側からが無理だとなると、内側からってことになるわよねぇ……」


 まあね、マヌケ族の暗躍を食らいまくってる王国だもんね……

 これからは防諜にもより一層の取り組みを強化していかねばならんだろう。

 なんてことを話していると……


「報告いたします! 工兵より、道路が完成したとのことです!!」

「そうですか、報告ありがとうございます……アレス様、お聞きのとおりです。明日からはさらに賑やかになりそうですね」

「ああ、いい街に発展してくれることを願うばかりだ」

「きっとなります……いえ、させてみせます」


 そう言葉にしたメメカのメガネが、キラリと輝いていた。

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