第361話 きっかけである
道路が完成して数日経過した今日は闇の日。
そして、道路が完成したことにより、待ってましたといわんばかりに開発ラッシュが繰り広げられている。
資材を積んだ馬車の群れが道路をひっきりなしに行き交うのはもちろんのこと、歩道にはカバンいっぱいに物を詰めて歩く人々までいる。
そんな彼らの心を満たしているのは、これから始まる新しい日々への期待だろう。
彼らの表情がそれを物語っている。
だが、そういった熱気がときどきアカン方向にも発揮され……
「なんだテメェ! ぶつかってきやがって!!」
「あぁ!? お前がチンタラ歩いてるからだろうが!」
「オレのどこがチンタラだ、コラァ! あんまりナメてっど、ボコボコにすんぞ!!」
「おう、いいぜぇ、やったろうじゃんか!!」
「おおっ! 喧嘩か!? いいぞ、やっちまえ!!」
「おほっ! こんなところでいい具合に熟れたメンズの肉体の躍動を見られるなんて、ツイてるっ!!」
「お~い、暴れるんならほかでやってくれよぉ~」
「領兵さん! こっちです!!」
「はいはーい、そこの君たちかな? そうカッカしちゃダメだよー」
誰かが呼んだのだろう、領兵が仲裁に入って無事に沈静化した。
まあ、血の気の多い奴というのはどこにでもいるのだろう。
それも、こんなお祭り騒ぎのようなワイワイとした雰囲気の中だと、なおさらね。
「活気があって、いいですね」
「ああ、そうだな」
フウジュ君に乗って上空から道路の様子を眺め、ギドとそのような感想を述べていた。
まあ、別に走ってもよかったんだけど、道路が完成してから地上は人でいっぱいだからね、いろいろとめんどくさそうだから改めて上空を移動することにしたのさ。
そして、やや後方には使用人たちもいる。
「アレス様に付いていくには……スノーボードだけじゃなく、ウインドボードにも乗れなければなりませんわ!」
「集中よ……集中……」
「きっと……乗りこなして見せる」
彼女たちはまだウインドボードに慣れていないのだろう、慎重にゆっくりとしたスピードである。
それに合わせて、俺とギドもいくらか速度を下げている。
まあ、だからこそ地上の喧嘩の様子を眺める余裕もあったというわけだね。
それと残念ながら、護衛のお姉さんたちは巡回警備の仕事が入っていて、今日は一緒ではない……寂しいね。
そんなことを思いつつ、開発中の街に到着。
街の内部も建物が建ち始め、少しずつ街らしくなってきている。
そんな街中の、早々にオープンを始めた喫茶店で使用人たちの休憩がてらお茶をしている。
まあ、腹内アレス君のリクエストにより、俺はスペシャルでデラックスなパフェをいただいているわけだが……
「今日は週末ということもあるのでしょう、工事とは関係ない領民も見かけますね」
「そうだな……おお、あっちでスケートをしているのは家族連れのようだ」
「このハーブティが全身に行き渡るような感覚……生き返りますわぁ~」
「回復よ……回復……」
「ふぅ……少しはマシになった」
窓の外の風景を見ながら、ゆったりとくつろいだ時間を過ごす。
フッ、上品な大人の嗜みといったところかな?
そして、外の雪景色を眺めながら食べるチョコレートソースがたっぷりかかったバニラアイスのなんと贅沢なことか!
そうした気分を味わいながらパフェを食べきった……余は満足である。
「さて、そろそろ雪山へ移動するかな」
「かしこまりました」
というわけで、休憩も一段落したところでスノーボードをしに雪山へ。
こっちも、日を重ねるごとに少しずつ利用客が増えてきている、いい傾向だね。
また、リフトも既に設置されている。
見た目としては、前世の1人乗りリフト……あの背もたれがほぼなくて、柱に必死にしがみついてないと落っこちてしまいそうなやつ……
前世では徐々に減り始めてたみたいで、俺もあんまり多くは見なかった気がする。
しかしながら、スキー場もしくはコースによってはまだまだ現役で何度か乗ったんだけど、あれはマジで怖かった……
それで、こっちの世界のリフトはなんと! 魔力を動力にして動いているらしい。
なんというか……そういうところだけはファンタジー感を出してくるんだねぇ。
それはともかく、さっそくスノーボードを楽しむとしよう。
ここしばらくは、ほぼ一日中スノーボードをやっていて、ちょっとは慣れてきたと思う。
そのため、そろそろ俺がスノーボードをやりたいと思ったきっかけであるビッグエアを見据えた練習を始めてもいい気がする。
だからといって、慌ててジャンプ台に突っ込むようなムチャはしない、段階を踏んでいく。
まあ、暇を見つけて俺にスノーボードを教えてくれるイケメンも「基礎が大事」っていってたからね。
そんなわけで、何もない場所で止まった状態でジャンプ……イケメンは「オーリー」っていってたっけ……の練習から。
そしてそれにも慣れてきたら、あまりスピードを出さずに滑りながらオーリーに挑戦。
こうして、少しずつビッグエアへの道を歩み始めたわけだが……そのあいだずっと視線を感じていた。
もちろん、それはギドや使用人たちのものじゃない。
「……何か用か?」
「あっ……えっと……」
見たところ、平民出身の冒険者といったところか……
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