第101話 自重
そういえば、ロイターに回復魔法のやり方を教えてもらおうかと思ってたんだった、ちょっと聞いてみるか。
「なあ、回復魔法ってどうやるんだ?」
「ん? あれだけ魔法を使えて回復魔法を知らんのか?」
「ああ、今のところポーションで対応出来ていたからな、攻撃魔法とかの方が優先順位が高かったんだ」
「確かにですね、特にマジックバッグがあればなおさらでしょう」
「そうだな……よし、いいだろう。ただ、私たちの師匠はかなり力ずくな人だったからな……おそらく期待を裏切るような説明になるが、それでもいいか?」
「ははっ、あれは酷かったですね……」
「ほう、サンズも同じ師匠なのか?」
「はい、僕はロイター様の側近候補として幼少の頃から一緒だったので、同じ師匠から学んでいます」
「なるほど。ああ、それで、説明の方はその酷いという内容で構わないので教えてくれ」
「わかった……と言っても簡単なことだ。まず体のどこかを傷つける。そしてポーションか回復魔法をかけてもらって治す。そのときに治る感覚を覚える。もう一度体を傷つける。覚えた感覚を意識しながら、傷つけた部位に魔力を送る。意識と魔力がうまくかみ合えば傷ついた部位が修復される。これで回復魔法の完成というわけだ」
「……簡単に言っていますが、感覚を覚えてきちんと意識できるようになるまで何度も繰り返しますからね? なかなか根気が要りますので、覚悟しておいてください」
「……お、おう」
「ああ……懐かしいな……感覚を掴むまで何度も師匠にボコボコにされたっけ……」
「ふふっ……『痛い方がよりわかりやすいだろう?』とか言ってポキポキ人の骨を折るんですもんね……」
「え? 確か決闘のとき、解説に骨折は初めてみたいなことを言われてなかったか?」
「ああ、だからご丁寧に『対戦相手に』と言っていただろう? まったく、シュウの洞察力も恐ろしいものがあるな……それにしても、骨を折られるほどの怪我は師匠にやられて以来ここ数年なかったからな……久々すぎてあの痛みを忘れていたぞ……だがまぁ、すぐ思い出したがな……」
「マジか……」
なんだろう、ロイター……君って奴は殴られ慣れてたの?
あのガッツはそういう経験が活かされていたんだね……
そして、メガネの奴……アイツはマジで何者なんだ?
「とはいえ、お前ほど激しくはなかったがな」
「ま、まぁ、その辺はね?」
「ただ、あの決闘のおかげで回復魔法の練度が物凄く上がったからな……むしろ感謝せねばならんぐらいか……」
「どういたしまして……って言えばいいのかな?」
そんな感じで夕食の時間を過ごした。
そうして自室にて、先ほど教えてもらったやり方で回復魔法に挑戦。
言われた通りにナイフで軽く手を傷つけ、ポーションで回復。
ふむ……この感覚を覚えろと……なるほど……マジか……
まぁ、ポーションはたくさんあるんだ、何度でもトライ出来るさ!
その後、寝る時間までひたすら自傷と回復を繰り返し、回復魔法の練習に励んだ。
そして翌日、朝練では何事もなかったかのようにファティマといつも通りの挨拶程度の会話をし、シャワーと朝食を済ませ授業を受ける。
授業後エリナ先生に呼び止められ、今回の決闘に関して話があるとのことで研究室へ。
話の前にお昼ご飯として、スパゲッティナポリタンをゴチになった。
一応形式上はファティマを取り合ってロイターと決闘をしたことになっていたので、エリナ先生に対して内心気まずい思いもあったが、それはそれとしてエリナ先生の手料理はやはり美味しかった。
そんな幸福感に満たされながら本題へ。
エリナ先生の話によると、どうやら俺は王宮や中央の文系貴族からの評判がすこぶる悪いらしい。
先日の熱血教室で「下位貴族でも下剋上行けちゃうよ!」みたいなことを言ったのがよっぽど気に入らないみたい。
まぁ、そりゃそうか……
それに加えて、ロイターの手足をポキポキしちゃったのが苛烈すぎぃってなったらしい。
まぁ、今となっては俺もちょっと羽目を外しすぎたかなっていう気もしてるからね……仕方ないかな。
とはいえ、これらは俺本人が気に入らないというのもあるが、ソエラルタウト家の名を貶めたいという意図もいくらかあるだろうとのこと。
うん、嫌われてるねぇ、流石は悪役貴族家!
というか俺って、順調に追放される方向に進んじゃってる?
まぁ、それならそれでもいいかなっていう気もするけどね。
転生した当初は、運動能力がなさすぎてマジで動けなかったし、魔法もイマイチだったのもあって、あの瞬間に外に放り出されたらヤバいと思っていたもんだが……
ダイエットや魔力操作の練習によって多少マシになった今の俺なら、普通に冒険者活動をするぐらいは十分やっていけるだろうし……
とはいえ、エリナ先生に会いたいから卒業まではなんとか粘ろうとは思うけどね。
そして遂に異世界テンプレ! 学園から「自重しろ」というありがたいお言葉を賜った!!
いやぁ、これでようやく俺も一人前の異世界転生者って言えそうだよ。
まぁ、どっちみちしばらくの間はウィンドボードと回復魔法の練習に励むつもりだから、自重するしないを論じなければならないような事態もそうそうない、ハズ!
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