第102話 見落とし
「ここまでが王宮や中央の文系貴族による苦情を受けた学園からの言葉といったところかしら」
「学園からの?」
「そう、学園から。私個人としては彼らの言うことも理解は出来るけれど、それよりもアレス君の絶妙な手加減の方を褒めてあげたいと思っていたから」
「本当ですか!?」
「ええ、本当よ。あそこまで出来るようになるまでかなり苦労したでしょう?」
「……はい」
「どうしてもね、魔力量が多い子は大雑把になりやすい傾向にあるから……それを考えるとあそこまで制御出来たのはよく頑張ったと思うわ」
「そう言ってもらえると助かります」
「それに、最後のあれはロイター君が精神的に弱くないことを理解してのことでしょう?」
「はい、彼からはそういう熱みたいなものを感じていましたので……おそらく大丈夫だろうという気はありました……もちろん、私自身冷静でない部分もありましたが……」
「そうね、冷静さに関しては……これも魔力量の多い子によくある傾向なのだけれど、自分の魔力量の多さに酔ってしまって調子に乗りやすいというのがあるから……そういう観点からも気を付けたいところね」
「……なるほど」
「そして、2人は闘いの中でお互いを理解し合っていたのでしょうけれど……あの場にいた観衆の多くや話を聞いただけの人では受ける印象が異なって、ああいう非難の声が出てしまったのだと思うわ。後期には学園内での武術大会もあることだし、今度はその点も踏まえて、観衆がいる場合の闘い方っていうのも模索して行くといいわね」
「わかりました」
こうして、エリナ先生とのお昼の時間が過ぎて行った。
話の雰囲気的に、王宮や中央の文系貴族は俺のことが気に入らないようだが、武系貴族はそうでもないし、エリナ先生自身も宮廷魔法士団にいたときの感覚から、あんまり悪感情はないみたい。
まぁ、文系貴族って気取った言い方をしてるけど、要するに魔法や剣の腕を磨くのをサボったザコってことなんだと思う。
そんな奴らとしては、実力で這い上がってくる奴が恐ろしいし、なにより憎たらしいのだろう。
そして、同じ文系と言っても、本気で学問に打ち込んでる人の場合は、自分の研究の方が忙しくて俺のことなんかいちいち構ってられないんじゃないかと思う。
ただまぁ、そんな文系ザコ貴族さんたちも数は多いみたいだし、権力はなかなかのものがあるようなので、舐めてかかると困ることにもなるみたいだから注意はしなきゃならんようだね。
……ま、貴族として生きるのならだけどさ。
そんなことをなんとなくぼんやり考えながら、街の外に出て来た。
夕方まで時間の余裕がまだあるからね。
そしてやることと言えば当然、ウィンドボードの練習さ。
ただ、このウィンドボードなんだけど……俺はひとつ重大な見落としがあったことに気付いてしまった。
というのが、つららとかの射出系魔法を制御して動かせるんだから、ボードも出来るんじゃない? ってことだよ。
なぜかウィンドボードに乗るときは、自分自身に風魔法をぶつけてその衝撃で推進力を得るみたいなことをしていた……
というわけで、俺自身が上に乗らず、フウジュ君単体を魔力で動かしてみる。
……出来た、あっさり出来てしまった。
なんだろう、自分の鈍さにちょっと悲しくなってきた……
それはそれとして、自分も乗って動かしてみると……大丈夫、動かせるね。
ただ、魔力の消費はこっちの方が多いみたい。
おそらく重量が影響している気がする。
ふと思い出したけど、ソレバ村で戦ったマヌケ野郎もデッカイ溶岩みたいなのを空中で生成したあとは、そのまま重力に任せて落としていただけで、制御とかはしていなかったように思う。
たぶん、重たいものを自由自在に動かすのはそれだけ魔力消費が激しくなるのだろう。
試しに、サイズというか重さの違うつららを動かしてみたら、やっぱりそんな感じがする。
なるほどね、つららはいつも似たようなサイズで運用していたから気付かなかった。
武器屋のオッサンがボード乗りが少ないって言ってたのは、この魔力消費量のせいだろうな。
俺が最初やってた乗り方は自分に風魔法をぶつけるという方法のため、魔纏ありきだったし。
とはいえ、基礎魔力量が膨大なアレス君からすると大した差じゃないんだよね……
ボードに乗るときは魔力制御でいいかも。
そして、風歩と空中移動のときは風魔法の応用って感じで使い分けて行こうかな。
それからさらに思いついたのが、もしかしてつららに乗れる? ってことだった。
そんなわけでやってみたら……出来てしまった。
あれ、フウジュ君……もしかしていらない子だった?
いやいや、フウジュ君は魔鉄製で頑丈だから最悪盾にもなるし!
……常時展開している魔纏で防御はわりと間に合ってる気がするけど?
そ、それでも! 魔力切れとかもあるかもしれないし!
……今まで魔力が切れたことあったっけ?
ん~あったっけ? というかそもそも! ボードは前世からの憧れだったから! 実用よりもカッコよさ! フウジュ君はカッコいいんだから!!
……まぁ、カッコいいもんね。
よし、自分を説得することに成功した。
そうしてこの日は、魔力制御でフウジュ君を動かす練習に専念した。
直進なら風魔法を受ける方法でもいいけど、曲がったりとか細かい動きは魔力制御の方がやりやすいということもわかった。
明日はもっとアクロバティックな動きに挑戦してみてもいいな。
そんなことを思いながら学生寮に戻った。
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