第103話 ひどいです
自室に戻って来た。
まずはいつものようにシャワーを浴びよう。
ふふっ、ウィンドボーダーの汗はきっとキラキラと輝いていたことだろうね。
そんなナルシスト染みたことを考えながらサッと汗を流し、食堂へ。
食事の回を重ねるごとに、周りの俺に対する恐怖心みたいなものが薄れて行っているのを感じる。
まぁ、そんなもんだよね、などと思いながら人の少ない席で食事をいただく。
そこへやってくるロイターとサンズ。
別に夕飯を共にする約束をした覚えはないんだが、まぁいいか。
「今日の昼すぎ、エリナ先生に呼び出されて今回の決闘についてやんわり注意を受けたぞ」
「ん? ロイターよ、お前もか?」
「お前もということは、まさか?」
「ああ、俺は授業後即だったな」
「ほう、それでなんと言われたのだ?」
「そうだな……文系貴族がごちゃごちゃ言ってるから気を付けろと言ったところかな」
「ああ……どうせ野蛮だなんだと言ってたのだろうな……」
「その言い方……お前のところの実家からは俺に対して文句がないのか?」
「ロイター様のご実家であるエンハンザルト家は武系ということもあって、そういうことはありません。ですよね、ロイター様?」
「そうだな……決闘の内容的には私の完敗だったからな……むしろ去年の武術大会優勝による思い上がりを反省し、鍛錬に励めという内容の手紙が来たぐらいだ」
「へぇ、そうなのか」
「お前は実家からなにか言われたか?」
「……いや、なにも」
うん、そういやなんもないな……むしろ知らないんじゃない?
原作ゲーム知識から言っても、当主である父親はアレス君に対して愛情ゼロ。
そしてアレス君が大きめの問題を起こしたときなんかは、あっさり除籍のうえ追放したし。
そこでアレス君の記憶を探ってみても、父親の記憶ってほとんどないんだ……あったとしても温度がない。
アレス君の実母はゲームの設定として幼少の頃に既に他界している。
それで実母の記憶はなにかないかと探ってみても、その部分はがっちりとプロテクトがかかってて見れないからよくわからん。
……なんというか、アレス君が歪んだ原因の大きい部分がここなんだろうなというのが察せられるね。
そんで兄上は……ゲーム知識とアレス君の記憶の両方から判断しても当たり障りない関係だったみたい。
まぁ、母親が違ったみたいだから、それにしてはわりと穏便な方な気がする。
そんで義母なわけだが、別に虐められていたみたいなことはない。
むしろ実母を失ったアレス君に同情的だったようで、ソエラルタウト家の中では一番アレス君寄りだったみたいだし。
この辺はゲームの設定でそこまで深く語られていなかったからよく知らなかったけど、アレス君の記憶的にはそんな感じ。
まぁ、そうやって愛情を持ってアレス君に接するのを快く思わなかった父親は、義母に「軟弱者になるから甘やかすな」と何度も注意をしていたみたいだね。
……なんだろう、下手したらアレス君……親父の嫉妬も買ってたんじゃないだろうな?
ロイターの問いからふと、アレス君の家族に意識が向いたが、そんな感じ。
……いやまぁ、ゲームの制作陣としてもアレス君が悪役になる理由が必要だったから、こういう家庭環境にしたんだろうなって思っちゃうよね。
それに加えて、アレス君の膨大な基礎魔力量を狙ったマヌケ族とか、一応対外的には侯爵家子息として金銭面は潤沢だったアレス君から甘い汁を吸おうとした屑家臣、あとはワンチャン狙いの非主流派家臣みたいな奴らがアレス君をグチャグチャに歪ませた結果がゲームのシナリオだったってワケだ……
「……学園都市からソエラルタウト家までの距離を考えると、手紙が届くまでもう少しかかるかもしれませんね」
「ああ、言われてみればそうだな」
なんだろう、サンズって空気読みの一族なのかな?
これだけ空気が読めるならウィンドボードも乗りこなせるかな?
……ごめん、その空気じゃなかったね。
ただまぁ、空気を読んだサンズには悪いが、その手紙はきっと来ない。
「それで、ロイターはエリナ先生になんて言われたんだ?」
「私の方はそうだな、学園としては無茶をするなと言ったところか……ただ、エリナ先生自身としては私の回復魔法の練度を褒めてくれたな」
「まぁ、俺もお前の回復魔法には惚れ惚れとしたものだからな、その評価には強く同意する」
「おい! なんだか恥ずかしくなってくるからやめろ!!」
「そういうことなら、アレスさんもエリナ先生からお褒めの言葉をいただけたのでは? シュウさんの解説でもべた褒めだったじゃないですか」
「ああ、特にあれだ、私が回復魔法を使うタイミングをキッチリ掴んで行われた高速連打、あのギリギリさ加減には感動すら覚えたぞ?」
「……ごめん、やめて、恥ずかしい」
「フッ、私の気持ちがわかったようだな?」
「お互いの健闘をたたえ合う、実に素晴らしいことですね!」
「サンズよ……お前が決闘中に言った『ロイター様は無敵だ! そのことは僕が一番よく知っている!!』という言葉、あれには俺もしびれたものだったぞ? このように言ってくれる仲間がいるロイターは幸せ者だとも思ったな」
「ダメぇ! それは言わないお約束です!!」
「フン、1人だけ部外者を気取ろうなどとするからだ。なぁ? ロイターよ」
「そうだな、1人だけ仲間外れというのはよくないな」
「うぅ……ひどいです」
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