第104話 やっぱりそういう感じなのね
ロイターたちとの夕食を終え、自室に戻って来た。
ルーティン的な筋トレや魔力操作をこなし、今日もまた回復魔法の練習に励む。
ナイフで軽く手を切り、回復のイメージを込めて魔力を送る。
なんとなく痛みが和らいだような気がするが、今はそれだけ。
そのため最下級ポーションをかけ、治る感覚に意識を向ける。
その作業を最下級ポーションがなくなるまで繰り返した。
その後は下級ポーションを使うことにしたが、これを使うには浅い傷だともったいない気もしたので、腕を深めに切った。
……痛みにじんわりと涙が浮かぶ。
そもそも、武器を買いに行ったとき、誤って手を怪我する心配から日本刀……あ、こっちの世界では焔刀だったか、とにかくそういった刃物類ではなく木刀を選んだ俺としては、痛いのが嫌なのだ。
そう言った点も踏まえて俺の頑張りを理解してもらえたらなって思う。
そうこう言っているうちに、下級ポーションも使い切った。
最下級や下級のポーションはスポーツドリンク感覚で頻繁に飲んでいたので、もともと数がだいぶ減っていたのもあるが、それでも全部使いきるとは……って感じだ。
そして次は中級……ってマジ!?
中級ポーションなら骨折ぐらいまで行けちゃうよ?
……うぅ、これも回復魔法を覚えるためかぁ。
そうだ、ロイターやサンズも骨をポキポキされながら覚えたと言っていたじゃないか!
あいつらに出来て俺に出来ないなんてことはないハズ!!
……でも嫌だなぁ。
今更ながらに決闘でロイターの手足の骨を折りまくったことを申し訳なく感じてきた。
というかお前、どんだけの根性者だったんだよって言いたくなる。
……はぁ、ごちゃごちゃ言いながら先延ばししているが、そろそろ覚悟を決めるか。
結局のところ、俺が覚えた手加減って自分の腕の骨を折るためだったのかっていう気さえしてくるよね……
とりあえず、叫び声をあげて周りの迷惑になるといけないので、闇属性魔法を室内に展開して音を遮断しとくかね。
……ふぅ、準備は整った。
ミキジ君を振り上げて、いざ!
「ぎゃぁぁぁ!!」
いでぇ、いでぇよぉ。
ポーションさぁん! 助けてぇ!!
「ふぅ……ふぅ……」
ポーションによって修復されていく骨、痛みに耐えながらその過程に全集中力を傾ける!
……これを続けるの?
もう嫌だぁ!
こっちの世界に来てから、わりと早い段階で魔纏を身に着けたこともあって、ほとんど怪我らしい怪我をしてなかった気がするからね、痛みへの耐性がほぼないんだよ。
うぅ、回復魔法の感覚が掴めるまで俺はあと何本、自分の骨を折り続けなければならないのだろう……
はぁ、寝るにはまだ早い……中級ポーションもまだある。
さぁ、もう一本行こう……
「ぎゃぁぁぁ!!」
こうして眠りにつくまでの間、痛みに耐えながら骨を折り続けたのだった。
これ、明日もやらなきゃなのかな……早く覚えなきゃ……
「ぎゃぁぁぁ!!」
……夢の中でまで骨を折り続けていた。
それだけ俺の心にインパクトを与えていたってことなんだろうね……
寝汗とか凄いよ……とりあえず浄化の魔法を布団にかける。
そして自分にも。
シャワーは朝練を終えてからでいいや。
はぁ、朝から疲労感が凄いね……
それじゃあまぁ、朝練に行こうかね……
いつも通りのコース、そこには毎朝恒例、ファティマさんの登場です。
「おはよう。今日はやけにやつれた顔をしているわね?」
「まぁな、男には避けて通れない道というものがあってだな……いや、これは女子供に言ってもわからないことだったか……」
「なにやら大人ぶった物言いをしているところ悪いけれど、16歳の成人を迎えていないのだから、あなたもまだ子供よ?」
「……ソウデスネ」
「……結局なにをしていたのかしら?」
「……回復魔法の練習だ」
「なるほど、ロイターが使っていたわね……それで、成果の方はどうなの?」
「……あと少しと言ったところか、だいぶ掴みかけている気はするんだがな」
「そう……なら私が手伝ってあげるわ」
「え! お前も使えるのか!?」
「もちろん。それじゃあ、魔力の膜を解いて手を出してちょうだい」
そう言いながら、マジックバッグからナイフを取り出すファティマ。
もっと優しい感じの練習方法があるのかと期待しかけたが……やっぱりそういう感じなのね……
「……これでいいか?」
「結構」
その瞬間、俺の手のひらから刃が生えてきた。
正確に言うとナイフの刃がね、俺の手のひらを貫通しているんだよ。
……多少の覚悟はしていたのと、昨晩骨を何本も折っていたおかげで、泣き叫ぶようなことにはならずに済んだが……
「ファティマさん……なかなか躊躇なく行くんだね?」
「あら、腕を斬り飛ばした方がよかったかしら?」
「……いえ、これで大丈夫です」
「じゃあ、回復魔法をかけるから、その感覚を掴んでちょうだい」
「……はい」
そうして、俺の手にファティマの回復魔法がかけられる。
ただ、修復スピードはゆっくりとしたものなので、じりじりと傷口が塞がっていく。
「どう? この速度の修復ならしっかりと認識できるでしょう?」
「……お、おう」
なるほど、そういう意図があってのことか……
正直、あまり上手じゃないのかなと思ってしまったことは黙っていよう。
この工程を何度か繰り返すうち、少しずつ感じが掴めてきた。
「……わかってきた気がする」
「そう、じゃあ試しにやってみて」
そうして同じように、自分の左手をナイフで貫通させて俺に差し向けてくるファティマ。
えぇ……この子もかなりの根性者なんだけど……
しかし、これはミスれないぞ……しっかりやらねば!!
「じゃあ、行くぞ!」
「どうぞ」
今まで経験した傷を治す感覚をしっかりとイメージしながら魔力を丁寧に流し込む……
慌てず、ゆっくり、そしてイメージは鮮明に。
すると、ファティマの左手の傷が徐々に塞がっていく。
だがまだ完全に塞がったわけじゃない、落ち着いて、冷静に……
数分かかってしまったが、なんとかやり切った。
回復魔法、完成です。
そして、手の感触を確かめるファティマ。
「出来たわね」
「よっしゃ!」
やったぞ! やってやったぞ!!
これで俺も回復魔法を使えるようになったぞ!!
やったぁ!!
おっと、まだファティマが目の前にいるんだった、クールに決めておかないとな。
「ありがとう、お前のおかげで回復魔法を習得することが出来た」
「どういたしまして」
「……なにかお礼をしたいのだが、希望はあるか?」
「そうねぇ……この前食べた、焼肉だったかしら? あれをまたご馳走してもらおうかしらね」
「そんなんでいいのか?」
「ええ」
「わかった、今晩か明日の晩あたりどうだ? もっと後でもいいならそれでもいいし」
「どうせなら、パーティーを組むのだからパルフェナやロイターたちも呼びましょう」
「お、そうだな!」
「じゃあ、パルフェナに都合を聞いておくから、ロイターたちはあなたが聞いておいてちょうだい。それで明日の朝にでも日程を決めましょう」
「わかった」
「じゃあ、そろそろ朝食だから戻るわね」
「おう、またな!」
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