第105話 いろんな意味で手に負えない

 自室に戻り、一度シャワーを浴びる。

 クールな振りをしてどうってことないですよっていう顔はしていたが、正直痛いものは痛かった。

 冷や汗もいっぱいかいたし……俺のやせ我慢、バレてないよな?

 そして改めて思い返してみても、なかなか躊躇のない娘さんだと思わずにはいられないよね。

 まぁ、そのおかげで回復魔法の感覚が掴めたんだから、感謝の念でいっぱいということには変わりないけどさ。

 そんなことを思いながらシャワーを浴び終え、朝食を済ませた。

 そしてお楽しみのエリナ先生の授業を受けて午前は終了。

 その後は食堂で昼食をいただく。

 席はいつも通り空白地帯になっているところを選択。

 そして今回、ロイターとサンズはいない。

 というか、あいつらに関しては一昨日の夕食のとき初めてこの食堂で見たってレベル。

 それ以外はどこで食事をしているのかは知らん。

 まぁ、中央棟かな?

 もしくは外食って可能性もあるな……

 今日の夕食もこっちだったら、そのときにでも話のネタとして聞いてみるかな?

 ちなみに、焼肉の話は夕食ならいつでも大丈夫とのことだった。

 そんな感じでおひとり様で昼食を楽しんでいたところ、少し離れている席に座っている生徒たちの会話が聞こえてくる。

 まぁ、この辺静かだからね、聞こえてきてしまうんだ……あとはたぶん、アレス君の聴覚が優れている説も有力だね。


「今日の早朝のことだけど、お前ら聞いたか?」

「ん~特になにかを聞いた覚えはないよ」

「ワシも知らんな」

「俺も聞いただけの話なんだが……あの魔力操作狂いとファティマちゃんがな……」

「え~またあの人なんかやったの?」

「ワシも学園に入るまでは、まぁまぁ破天荒なつもりだったが……奴にはかなわんな」


 今日の早朝ね……あぁ、なんか想像がついてしまった。

 しかしファティマの名前もあがっているのに、なんで俺だけ……これも日頃の行いだとでも言いたいのか?


「まぁ、聞け。それで見た奴の話ではな、あの2人……お互いの手のひらをナイフで切りつけ合ってニヤニヤしていたらしい」

「うぇ~キモチワル」

「……お互いの手のひら?」

「そう、手のひら。あの決闘のときもヤバさがちょっと隠しきれてなかったけどさ、ファティマちゃんって結構エグめの子だったってことだよな」

「あ~あ、初めて見たときなんかはめっちゃカワイイ!! って思って密に憧れてたのに……ガッカリってこういうことを言うんだろうね」

「……ふむ」


 訂正させてもらうとしたら、俺はファティマさんの手のひらを切りつけてません!

 彼女はあくまでも自分自身で! 手のひらをナイフで切りつけるどころか、刺し貫いてましたからぁ!!

 あとニヤニヤはしていない……ハズ!

 まぁ、回復魔法を成功させたとき、喜びを隠し切れずニッコリとはした可能性があるかもしれないけどさ……

 しかし、俺はその辺の奴にヤベェ奴とか思われたところで今更だしどうということもないが、ファティマは大丈夫か?

 うぅむ、悪いことをしたかな?

 でも今朝のあれ……わりとファティマさんサイドが強引に進めた案件だったような気もするんだよね……

 ……あ、そういえば俺って学園から自重しろって言われてたんだっけ、これもマズい感じかね?

 いや、さすがにこの程度のことでごちゃごちゃ言わないでしょ……と思いたい。

 そうじゃないと、なんにも出来なくなりそうだし。


「……これはワシの想像だが、回復魔法の練習をしてたんじゃねぇか?」

「え~? 回復魔法なんてもっと先で、しかも希望者だけが習うんじゃなかったっけ?」

「だったよな! とはいえ、ファティマちゃんのことを擁護したい気持ちもわかるけどな……さすがにそれは無理ってもんだぞ?」

「いや、回復魔法の習得方法はそれしかねぇって、確か兄貴が言うとった……まぁ、そんなわけだから、よっぽどの奴しかやらんとも言うとったがな」

「よっぽどの奴……ま、そういうことなんだろうな」

「なんだかんだ言って結局のところキッツイってことには変わりないよね……あ~あ、やんなっちゃう」

「まぁまぁ、どうせ俺らじゃファティマちゃんはいろんな意味で手に負えないってだけのことなんだから、気にすんなって」

「回復公子に魔力操作狂い……さすがに勝ち目はねぇか……でも1回ぐらいは挑戦してみても……」


 う~ん、1人は擁護派っぽいけど、どうなんだろ……

 それにしても、ロイターにも変なあだ名ついちゃってるね……本人知ってるのかな?

 それと、今度ファティマに会ったら、噂になってることぐらいは言っておくか?

 それを受けてどう行動するかはファティマ次第だし……

 とはいえ、アイツの場合はその辺も織り込み済みって気もしなくもないけどな。

 しっかし、決闘によって湧き上がった周囲の俺への恐怖心も少しずつ沈静化していっていたのに、また再燃って感じかな?

 というか、こいつらが敏感すぎって可能性もあるな。

 ま、どうでもいいか……ってよく考えたら、またロイターに怒られちゃうかな?

 いや、回復魔法の習得方法は奴もよく知っていることだ、たぶん大丈夫……だよな。

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