第106話 それなら簡単

 昼食を食べ終え、学園の外へ。

 昨日の夜に最下級から中級までのポーションを使い切ったので買いに行こうと思う。

 回復魔法があればいらなくね? って意見もあるかもしれないけど、なにがあるかわからないからね、保険の意味でも持っておきたい。

 それとスポーツドリンク感覚で今まで飲んできたせいか、なかったら違和感があるんだよね。

 だから今日の朝練の後なんかはポーションがなくて変な感じだったんだ。

 そしてなにより、今の俺の練度では回復に時間がかかるからね……余裕のあるときしか使えないんだ。

 そんなことを思いつつポーションを求めて向かう先は、雰囲気軽めで腕は一流、王国公認錬金術師トレルルスの店だ。

 やっぱね、彼が作るポーションは質がいいんだ。

 等級内における効き目が最高レベルっていうのもあるけど、ポーションごとにバラツキがないっていうのが大きい。

 腕が微妙な奴が作ったポーションって同じ等級でも優劣があるんだ。

 そこで戦闘中に「同じ等級のポーションなのになんか効きが悪い」なんてことがあると変に焦りそうだからね。

 というわけで店に到着。


「いらっしゃーい。お、久しぶりだねぇ、この前のポーションは使い切ったのかな?」

「ああ、多少は残っているがな」

「そっかぁ、それで今日はどうしよっか?」

「そうだな、最上級から中級までは買えるだけ、下級と最下級は100本ずつにしとこうか」

「おお、相変わらずたくさんだねぇ」

「100本はさすがに多すぎだったか?」

「いやいや、まったく問題ないから気にしなくていいよぉ」

「それはよかった」

「じゃあ、奥から取って来るから、ちょっと待っててねぇ」


 まぁ、明後日の闇の日はソレバ村に行くし、少し先には野営研修もある。

 そこでなにかあったときに対応出来るよう、ある程度は持っておきたいってワケ。

 それに、マジックバッグに入れておけば腐ることもないし、ポーションなら何本あってもいいからね。


「お待たせぇ、確認よろしくね」

「わかった」


 そうして数を確認し終え、代金を払うときのこと。


「そういえば、アレス君は薬草採取はやらないのかい?」

「薬草採取か……そういえばやってなかったな。正直なところ薬草の種類を見分けるのが面倒そうで……それならモンスターを狩った方が楽かと思ってな」

「あはは、冒険者あるあるだねぇ。でも君ぐらいの実力なら魔力探知は既に使えるよね?」

「ああ、使える」

「それなら簡単だよ。保有魔力量の多い草はだいたい薬草だからねぇ、魔力探知でそれらを見つけて採取したら終わりさ。魔力探知を使えるぐらいの魔法士なら地属性魔法で根とかも傷つけずに掘れるだろうし」

「なるほど、それは簡単そうだな」

「ただまぁ、保有魔力量の多い草の中には毒草もあるから、そこは注意が必要なんだけどね。とはいえ、それは冒険者ギルドの薬草採取依頼の場合の話だけどさ」

「へぇ、じゃあ毒草と見分けられない場合はどうするんだ?」

「その場合は有料になるけど先に鑑定してもらってから提出って感じかな。まぁ、自信のある冒険者はそのまま提出するだろうけど、間違っていたらランク査定に響くからよっぽど自信のある場合に限られるね」

「なるほど、それで毒草だった場合はどうなるんだ?」

「毒草採取依頼が出てて、条件を満たしていればそのまま依頼達成になるよ。依頼が出ていない場合は、単純に毒草の買取って感じだね。まぁ、保有魔力量の多い草なら薬草か毒草のどっちかにはなるだろうから、鑑定料を払っても損にはならないハズさ」

「それなら俺も薬草採取をやってみようかな」

「お! 興味を持ってくれたかい? それはよかった」

「それで、薬草は錬金術師の店とギルド、どっちに売った方がいいとかあるのか?」

「そうだねぇ、買取金額自体は錬金術師の方が高いかな。だけどギルドは買取金額が低くても、ギルドへの貢献としてランク査定に影響するだろうから、どっちを求めるかによるね。ああ、商人に売るって方法もあるけど、特別な事情がない限り買取金額は一番低いだろうね」

「ふむ、お金かランクか……」

「まぁ、薬草採取は基本的に常設依頼だけど、ときどき高額依頼が出ているからね、そういう場合と毒草の採取依頼が出ている場合はギルドに提出して、それ以外はそのときの気分でいいんじゃないかな?」

「なるほど、そんな感じでよさそうだな」

「そして勧めといてなんだけど、アレス君の場合はモンスターの討伐の方が効率はいいだろうから、保有魔力量が少し多い程度の草じゃなく、かなり多い草に絞った方がいいかもしれないね」

「ああ、それは確かにな」

「ただ、そういう草は森の深層とかに生えてて、そこを縄張りにしているモンスターも強力だから気を付けるんだよ」

「そうだな、気遣いありがとう」


 そうして、図らずも薬草採取の効率的なやり方を教えてもらい、トレルルスの店を後にした。

 野営研修でも役に立ちそうだし、今のうちにちょっとやってみようかな?

 まぁ、ウィンドボードの練習と同時進行でやることも可能だろうし、いいよね?

 そういや、薬草の大量納入っていう異世界テンプレをまだやってなかったな。

 ……でもなぁ、既にゴブリンの大量納入をやってしまっているからなぁ、あんまりインパクトなさそうだよね。

 なんというか「またか」で終わりそう。

 もしくは「アレスさんだから……」って感じかな?

 ん? この呆れを含んだ対応をされるっていうのも異世界テンプレだったような気がするな。

 とりあえずどうするかは、薬草採取をやってみてから決めるとするかな。

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