第100話 よくある

 自室に戻って来た。

 大空の中でかいた汗というのは、なんとなく爽やかなものだったように感じる。

 まぁ、気がするだけで汗には変わりないんだろうけどね。

 そんなことを思いながらシャワーを浴びる。

 そして食堂へ。

 豪火先輩のおかげでだいぶマシになったとはいえ、周囲の俺に対する怯えの雰囲気は多少残っている。

 そんな中で人の少ない場所を選び、夕食をいただく。

 そこへ2人の男がやって来た。

 ロイターとサンズである。


「体の方はもういいのか?」

「もともとなんの問題もなかったのに、大袈裟に扱われただけだ」

「まぁ、ロイター様は公爵家の子息ですから」

「そうか」

「他人ごとのように返事をしているが、お前も侯爵家の人間だ。私と同じような状況に陥ったら、きっと似たような扱いを受けるぞ?」

「僕もそう思いますね」

「ふむ……それは面倒だ、気を付けねばな」

「ああ、そうするがいい」


 そんな感じで、2人と夕食を共にすることになった。

 そう言えば、ファティマがデブ専なことをロイターに教えてやろうと思ってたんだった。

 今教えてやるか……


「ロイターよ、お前とはタイマンを張ったマブダチだからな……ひとつ重大なことを教えておいてやる」

「タイマン張ったらマブダチ……その言い回しって確か……」

「ああ、極東の島国……焔の国のものじゃなかったか?」


 そうなの?

 ああ、焔の国っていうのはゲームの制作陣が日本刀とか着物とかの和っぽい物を出すための言い訳にするために設定されただけの国で、ゲームでは名前が出てくるだけで行くこととかはない。

 まぁ、俺の偏見かもしれないけど、基本は西洋風ファンタジーで東の方に日本っぽい文化の国があるっていうのは定番だよね?

 そんなわけでこの世界では、焔の国という名称に合わせて、日本と付くものは焔に表記替えされていて、日本刀なんかも形状はそのまんまで焔刀って呼ばれたりしているわけだね。

 そんな感じで、焔の国の存在はゲーム知識で知っていたけど、そんな言い回しがあるなんてことは知らなかった。

 ……ヤンキーばっかがいる国なのかね?


「お前は勉強嫌いで教養なんかは持ち合わせていないと言われていたが……噂などあてにならんようだな」

「そうですね、僕もマラカスの話なんかは知りませんでしたし……」

「……いや、たまたまだ」


 マジでたまたまだからね?

 ……前世知識で日本っぽいものなら多少は行けるかもだけど、どれぐらい当てはまってるかは微妙だし……


「それで、重大なこととはなんだ?」

「ああ、そうだった。重大なことと言うのはファティマのことなんだが、実はな……どうやらアイツは体格のいい男が好みらしい」

「……神妙な顔をしてなにを言い出すかと思えば、そんなことか」

「え?」

「アレスさん……そのことですが、ファティマさんに好意を持っている人なら、おそらくみんな知っていることですよ?」

「えぇ……」

「まったく、少し褒めればこれだ……」

「ふふっ、僕もどんな話が聞けるのかと少し期待してしまいましたよ?」

「……それはすまんな」


 そういえば、こいつらの食事量……俺ほどじゃないけど結構多いな。

 なるほど、もっと早く気付くべきだったか……


「しかしな、私もかなり食事量を増やして、鍛錬もしっかり積んでいるのだが……身長は伸びても横幅が全然なのだ……」

「あ、僕の場合は違いますからね!? 僕はほら、見てわかる通り背が低いでしょ? しかもロイター様がファティマさんと話している間、パルフェナさんと話すことが多くてですね……彼女、背が高いでしょ? だから頭一つ分違うせいで、彼女が僕に対して向ける視線がまるで小さい子供を見るような感じがしてですね……それが精神的にキツイものがあるんですよ……」

「そ、そうか……」


 さてはこの2人……二次元でよくある補正を受けてる系だな?

 よくあるでしょ? 筋肉びっしりのオッサンより力持ちのロリっ子とか優男とかさ、あんな感じだよ。

 ロイターはスラリとしたイケメン、サンズはショタといったところか……

 どうやらこの世界、太るのも才能が要るっぽいな。

 まぁ、そんな補正を2人が撥ね退けられるよう祈っておいてやるとするか。

 それにしても、俺たち3人……客観的に見たら食いしん坊トリオって感じだな。

 でも、それぞれルックスはイケてるからね、アイドルユニットとして売り出すのもアリだね。

 もちろん、俺はマラカス担当で。

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