第707話 獣化を乗り越えて

「……ッテェ……ナ……」


 むむっ? ゼネットナットが単なる唸り声ではなく、意味のある言葉っぽいものを発したような?


『おっとぉ? 獣化を発動させてから、ひたすら本能のままに攻撃を繰り返し続けていたゼネットナット選手でしたが……ファティマ選手の突きを頬に受けてから、動きが止まりました!』

『獣人族が獣化を発動させたあとは、相手を倒すか自身の体力が尽きるまで全力で攻撃を続けるとのことなので……あのように何事かを思案するようなしぐさは、本来あり得ないことでしょう』

『ということは……まさか?』

『はい、言葉らしきものも微かに聞こえてきましたし……そのまさかが! 起こり始めようとしているのかもしれません!!』


 ……ふむ、ナウルンやスタンも同じ見解のようだね。

 あと、スタンがちょっと興奮を隠しきれていなくなってるみたいだ。

 まあ、理性を保って獣化を発動させるっていうのは、なかなかの快挙だろうからね……その瞬間に立ち会えるとなると、自然と興奮してしまうのも分からなくはない。


「完全ではないけれど、少しは目が覚めてきた……といったところかしら?」

「……アァ?」

「でも、まだまだ寝ぼけたままのようだから……もう少し刺激を加えてあげたほうがいいみたいね?」

「……シゲ……キ?」

「そう、刺激……今はまだ思考がフワフワしているでしょうけれど、それでシャキッとできるはず……というわけで、もう一発お見舞いしてあげるわ!」

「……ッ!?」

『これを機にファティマ選手! 攻勢に出るようです!!』

『多少動きが鈍っているとはいえ、依然として獣化をしている真っ最中のゼネットナットさんに魔法ではなく、素手で挑みかかるとは……』


 まあ、ファティマさんも、それなりに武闘派だからね……


「臆せず突き進むファティマ様! 最高です!!」

「そうだよ……それでこそのファティマちゃんなんだよ!!」

「これだから推せる!」

「スゴイ! スゴイよファティマちゃ~ん!!」

「心を失ってしまった獣にもう一度……もう一度! 心を取り戻させてやるんだぁッ!!」

「ファ~ティ~マ! ファティマ!!」

「「「ファ~ティ~マ! ファティマ!!」」」


 ファティマヲタたちもノリノリのようだ。


「……ガッ!!」

「まだまだ足りないのであれば……何発でもお見舞いしてあげるわ!!」

「……ッ……グゥ!!」

「さぁっ! 獣化を乗り越えて、さらなる高みを目指すのよ!!」

「……グクッ……ウゥ……ッ!!」

『あぁっと! ファティマ選手の強烈な一撃が決まったッ!!』

『いくら獣化によって肉体の強度が増しているとはいえ……今のは、芯に響いたでしょうね……』

「………………ツゥ…………フゥ……ナニシヤガンダ、コラ! イテェジャネェカ!!」

「ふふっ、おはよう……ようやく、完全にお目覚めのようね?」

「ウッセェ! オモイッキリブンナグリヤガッテ!!」

『なんと、なんとォッ! ゼネットナット選手、理性を取り戻したようだァァァァァァァッ!!』

『こ、これはッ! まさに、歴史的快挙といっても過言ではありませんよッ!!』


 実際そうなんだろうけど……特にスタンのテンションの上がり方が半端ないね。

 まあ、原作ゲームでも、獣化後のゼネットナットはプレイヤーのコントロールから外れて、戦闘終了か行動不能になるまでひたすら攻撃を繰り返すだけだったけど……今の状態だったら、プレイヤーのコマンドを受け付けてくれるんだろうなぁって気がするね。


「さて、ゆっくり祝いの言葉を述べてあげたいところだけれど、その時間的余裕があなたにはないでしょうからね……早速いらっしゃいな」

「アアッ! オメェニ、イワレルマデモネェッ!!」


 ふむ……ファティマとしては、ここからが本当の勝負といったところか。


『再び! 猛烈な勢いでゼネットナット選手がファティマ選手に襲いかかります!!』

『先ほどまでの直線的なゼネットナットさんの動きであれば読みやすかったと思いますが! ここからは思考に基づいてフェイントなども入ってくるでしょうから、非常に対処が難しくなるはずです!!』

「オラオラァッ! サッキマデノヨユウハドコニイッタンダァ!?」

「……別に……どこも変わったつもりは……ないわ」

「ハッ! カオガ、コオリツイテルゼ!?」

「そう? ……きっとそれは……私がクールなだけ……ね」

「ハハッ! ソノツヨガリハ、ドコマデモツカナ!?」


 まあ、ファティマさんのクールさは、俺も一目を置いているレベルだからねぇ……

 とはいえ、現状としてはゼネットナットのいうとおりかもしれない。

 何重にも張った障壁魔法は当然のようにパリンパリン割られているし、極厚に展開しているはずの魔纏すらも突き抜けてくる中、辛うじてポーション瓶と致命傷は免れているといった状態なんだ。

 それで、なぜ致命傷などを免れることができているかというと……攻撃が魔纏に触れたとき、それなりに勢いが抑えられるからギリギリ対処が間に合っているって感じだね。


「うっわぁ~っ! 痛ったそ~っ!!」

「あははっ! ファティマったら、いい気味だわぁっ!!」

「そうそう! その調子でボッコボコにしてあげちゃってッ!!」

「いいッ! 凄くいいッ!!」

「超超超ッ! 超アガるッ!!」

「ほらっ! 我慢してないで、そろそろ泣きっ面をさらしたらどうなのっ!?」

「……ハァッ……ハァッ……早く! 早く魅せてちょうだァァァァイィィィィッ!!」

「でも、そうはいうけど……ファティマさんの眼は、まだまだ元気みたいだよ?」

「はぁ!? 何いって……って、本当だ……うっざ!!」

「チィッ! さっさと沈みなさいよ!!」

「ゼネットナットも! タラタラしてんじゃないわよぉッ!!」


 さすがにロイターほどではないけど、ファティマの回復魔法もなかなかのレベルだからねぇ……そう簡単には沈まんよ。

 そうして、しばらく耐える時間が続き……


「……ゼェ……ハァッ…………ナンて、タフさ……だヨ……」

「あなたこそ……でも、そろそろ獣化が……解けかかっているよう……ね?」

「……ンなワケ……ネェ! ハァ……ハァ……オメェをタオす……マデはなァッ!!」


 ファティマの指摘どおり、ゼネットナットの獣化が解ける寸前といったところだろう。

 この試合も、そろそろ決着といったところか……

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