第708話 その名前を叫んだ

「……ハァ……ハァッ……! オらァァァァぁぁぁぁぁっ!!」

「ハァァァッ!!」

『両者! これが最後の一撃といわんばかりに、舞台中央で激突ッ!!』

『まさに! 渾身の一撃ですね!!』

「ハァッ……ハァ……ッ…………ドう……だ……ぁ?」

「……ぐっ……く……っ……」

『こ、これは! ゼネットナット選手の一撃が決まったと見ていい……のでしょうかッ!?』

『……いえ! まだファティマさんは完全に折れてはいませんよ!!』


 スタンのいうように、かなりフラついてはいるものの、まだファティマは2本の足で舞台に立っている。

 おそらく今、大急ぎで回復魔法を自身に施しているところだろう。


「「「ファティマちゃんッ!!」」」


 ファティマヲタたちが切実な声で、その名前を叫んだ。


「「「そのまま沈め!!」」」


 そして、ファティマアンチの令嬢たちは、敗北を願った。


「……ハァ……ハァ……ッ……オメェ…………タフ過ぎんだろ……」

「当然……よ……鍛え方が…………違うもの……」

『な! なんと、なんとォッ!? 勝利目前かに見えていたゼネットナット選手ですが! 無情にもここで時間切れ! 獣化が解けてしまったァァァァッ!!』

『既に解けかかってはいましたが……ついに、完全に解けてしまいましたね……』

『そしてそしてッ! 獣化が解けたことにより! ゼネットナット選手はそのまま力が抜けたように崩れ落ちていくゥゥゥゥゥッ!!』

『獣化が解けてしまうと……あとはもう、気力だけではどうにもならないようですからね……』

「……チィッ……分かってたことだけど……全身に力が…………入んねぇ……」

「私としては……もう一度……立ち上がってきてほしい……ところだけれど……ね?」

「……相変わらず……ムチャをいいやがる…………だが……ハハッ……最初は……なんでアタシが……人間族のトコなんかにって……思ってたけど…………ファティマ……オメェみてぇな奴に会うため……だったんだ……な…………」


 満足そうにしているところ悪いが……一応、原作ゲームのシナリオ的には、主人公であるラクルスに会うためだったんだけどね……

 まあ、原作ゲームの時間軸では序盤ってところなので、これからラクルスとの縁がつながり始めるところなのかもしれないけどさ……


「今回は、獣化をコントロールするのでいっぱいいっぱいになってしまったけれど……次は、もう少し上手く使えるはず……そうしていつか、完璧に使いこなせるようになってちょうだい」

「完璧に使いこなす……か、まったく……どこまでも理想の高ぇ奴だ……」

「ふふっ……だって、あなたはまだまだ大きくなれる逸材だもの……この程度で満足してもらっては困るわ」

「ハハッ! そうかい……なら、期待に応えてやんないとだな!! ……ただ、残念ながらもう、体が動かねぇからな……今回のところは、アタシの負けだ……」

「そう……」


 ここで、ゼネットナットの口から負けを認める言葉が発せられた。


「……勝者ッ! ファティマ・ミーティアム!!」


 審判のお姉さんの宣言により、ファティマの勝利が確定した。

 また、獣化が解けた反動で動けなくなっているゼネットナットを運ぶため、係の皆さんが担架を持ってくる。

 そして、特に大きなケガを負っているわけではないが、一応医務室へ運ばれていくようだ。

 ちなみにファティマはというと、勝利が確定した時点でポーションを使って完全に回復したようだね。

 まあ、ゼネットナットと話しているあいだも回復魔法を使っていたみたいだけどさ。

 そうして先ほどのロイターと同じように、ファティマも医務室に付き添うことにしたようだ。

 その背中に向けて……


「おめでとう! ファティマちゃ~ん!!」

「とってもいい試合だったよぉ~っ!!」

「ファティマ様の素晴らしさ、この眼にしっかりと焼き付けました!!」

「究極美少女ファティマちゃんに敵う者など、この世にいるわけがない!!」

「最カワ! まさに『カワイイ』の体現者!!」

「ファ~ティ~マ! ファティマ!!」

「「「ファ~ティ~マ! ファティマ!!」」」

「ゼネットナットも! よく闘ったッ!!」

「そうとも! 獣化をしていながら理性を取り戻すなんて、凄過ぎだよ!!」

「ファティマさんの闘いぶりも見事でしたが……僕は、ゼネットナットさんにより魅力を感じましたよ~っ!!」

「その凛々しさに、感じ入りましたっ!」

「ゼネットナット! ゼネットナット!!」

「「「ゼネットナット! ゼネットナット!!」」」


 ファティマヲタを中心としてファティマコールが巻き起こっているが、それに負けないぐらいのゼネットナットコールが男子たちから……いや、ゼネットナットに関しては女子の声も割と多く含まれながら叫ばれているようだ。

 それから……


「ミーティアム家の小娘ごときが……小癪な……」

「ふん……ゼネットナットも意外とたいしたことないのね……」

「そうはいうけどさ……終盤は、なかなかイイ感じにボッコボコにしてくれたじゃない?」

「ええ、もう少しだったのに……惜しかったわ……」

「ハァ―ッ……ハァ―ッ…………フゥ……次は決勝……きっと、この試合よりたくさん……あの子の苦痛に歪んだ顔を魅れるはず……フフッ、ウフフフフ……」

「仕方ありませんわね……あとはノアキアさんに期待させていただきましょうか……」

「うん、それしかないもんね……」

「……まあ、みんなが認めたくない気持ちも分かるけどさ……でも、ファティマさんの強さ自体は認めるしかないんじゃない?」

「アンタは……まったく! 誰の味方のつもりよ!?」

「いや……それは、まあ……」


 ふむ、ファティマアンチの令嬢たちも一枚岩ではないといったところかね……

 それはそれとして……2人とも! ナイスファイトだったぞ!!

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