第709話 自信家も結構なことだけれど

『見事、ファティマ選手が勝利をその手につかんだわけですが……スタンさん、この試合を振り返っていかがだったでしょうか?』

『……やはり、ゼネットナットさんが獣化中に理性を取り戻したという驚き……これが印象としては、どうしても一番強いものとなりますね……』

『はい! ほとんど不可能だろうと思われていたことなのですから、それもそのはずでしょう!!』

『正直なことをいえば……私自身、今もまだ興奮を抑えるのに苦労しているところなのです……』

『ええ、ええ! その気持ち、分かりますよ!!』


 ナウルンもスタンも、努めて冷静さを保とうとしているのだろうけど……話しているうちに、自然とテンションが上がってきちゃうんだろうなぁって感じだ。


『そして、今回のゼネットナットさんの快挙は……ファティマさんに依るところが非常に大きかったといえます』

『確かに! ファティマ選手の心からの呼びかけあってこそだったでしょうね!!』


 呼びかけ……うん、まあ……拳による物理的な呼びかけともいえるかな……

 そして俺も、ああやってファティマに一発入れられることでボーッとしていたのをシャキッと目覚めさせてもらったことがあったっけ……

 ひょっとすると……ファティマはそうやって人を目覚めさせるのが得意なのかもしれない……


「ファティマちゃんったら、ムチャばっかりして……でも、よかった……」


 そのとき、たまたまパルフェナの呟きが聞こえてきたのだが……そういえばファティマって、朝起きるのが苦手なパルフェナを毎日起こしてやってるって話だったよな……

 ということは……やっぱり! ファティマは人を目覚めさせるのが得意なんだな!!


「……アレス君? 今、どんなことを考えていたのかなぁ?」

「あっ! いえ……」

「まったく、お前という奴は……また、おかしなことを考えていたようだな?」

「まあ、無事ファティマさんが勝利を手にしたわけですから……少しばかり気が抜けてしまうのも仕方ないことかもしれませんね」

「そうはいっても、アレスにはまだ決勝が残っているんだからさ、気を抜いてばかりもいられないんじゃない?」

「そうだぜ? アレスさんには、俺たちのぶんも決勝で頑張ってもらわないといけないんだからよ!!」

「とはいえ……普通なら、アレスさんの不戦勝となりそうなところなんですけどねぇ……」

「きっと……きっとシュウさんなら! 起き上がってきて、決勝の舞台に立つはずです!!」

「……ああ、違いない」

「フッ、そうだな……シュウは絶対に、俺の前に姿を現すはず! となれば……そろそろ決勝に向けて、精神を集中させ始めるとするか……」

『……さて、未だ興奮冷めやらぬままといった状態ですが……この第2試合を持ちまして、1年生女子の部3回戦が終了しました。このあとは舞台の整備と小休憩を挟みまして……ついに! 残すところ、決勝戦のみとなります!! ただ、こちらに入ってきている情報では、今のところシュウ選手は眠ったままということなので、試合ができるかどうか不明といった状況です。そのため、いくらか心配な時間を過ごすこととなってしまうかもしれませんが……皆様には、少しでもくつろいでお待ちいただければと思います』


 そして、俺が決勝に向けて精神を集中させようとしたところで、ナウルンから舞台の整備と小休憩のアナウンスが響き渡った。

 その後、少ししてファティマが戻ってきた。


「ただいま」

「おかえり! ファティマちゃん!!」

「まずは3回戦に勝ってきたわ……これで心置きなく、パルフェナの借りを返しに行けるといったところかしらね」


 そういいつつ、ファティマはチラリとノアキアに視線を向けた。

 また、ノアキアのほうも意識していたようで……


「大口を叩くだけあって、それなりに面白い試合を見せてくれたわね……褒めてあげる」

「そう、ありがとう……次はあなたの番だから、覚悟しておいてちょうだい」

「あらあら、試合後の興奮がまだ収まっていないのかしら……あなたも、もう少し冷静になることの重要さを実感したほうがよさそうね?」

「いいえ、至って冷静そのものよ……勝てるという確信あって話しているもの」

「ふふっ、ふふふふふ……自信家も結構なことだけれど、あまり傲慢になり過ぎるのも考えものよ? あとで痛い目に遭うことになるでしょうからね……」

「その言葉、そっくりそのまま返させてもらうわ」

「まあっ、恐れ知らずもここまでくるとたいしたものね……いいわ、私が直々に教えてあげようじゃない」

「ふふっ、あのエルフ族から御指南いただけるだなんて、願ってもないことだわ……ありがたく成長の糧とさせてもらうわね?」

「面白い子ねぇ、本当に……それじゃあ、舞台で対峙するその瞬間まで、しっかりと休んでおくといいわ……間違っても3回戦での疲れが抜けきっていなかったから上手く闘えなかったなんて言い訳をしなくていいように……ね?」

「ええ、もちろんそんな言い訳をするつもりはないから安心してちょうだい」


 プライドの高い者同士、バッチバチに舌戦を繰り広げているって感じだ。

 というか、この2人……プライドだけじゃなく、あらゆる面において似た者同士って感じが凄くしてくるんだよね……

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